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『パインアメ』、同年創業の『サクマ式ドロップス』と明暗なぜ? 飴不況でもシェア広げる大阪の“アメちゃん”秘策
貴重な甘味だったパイン缶を手軽に、日本初の“穴あき飴”ヒットから70年 弛まぬ進化
「当時はまだパイナップルの香料がなかったので、りんごやイチゴなどの香料をブレンドして、パイナップルらしい味を再現していました。瓶入りで1粒1円で販売され、発売当初から反響は大きかったと聞いています」(パイン広報室・井守真紀さん/以下同)
「『パインアメ』のヒットにより、当時模倣品がたくさん出回っていたのです。差別化のためにも穴を開ける技術は必須でした。味を寄せることはできても、熱い飴に穴を開けるとなると割れることも多く、高度な技術が求められました」
駄菓子屋などで瓶に入れられ、一粒ずつ売られていた時代から、昭和43年頃に透明のフィルムで巻いた“ひねり包装”に。さらに昭和62年頃、今の個包装の形へと変化。その後も消費者の嗜好に合わせて、ひそかに進化を遂げている。
「最初はパイナップルの香料もなく果汁も入っていない状態で、とにかく甘みを追求していました。今はもちろん果汁も入っていますし、日々色々な果汁を比較して改良を続けています。大きく味を変えないことを意識しながら、よりパイナップルらしい味にこだわっています」
全品回収でクレーム対応に追われる日々…忘れられぬ倒産危機からの“アメちゃん”復活劇
「全国から倉庫がいっぱいに商品が帰ってきた時は、社員も皆、泣きました。朝から夜遅くまで電話が鳴り止まず、『おたくの商品はもう食べません』などと辛辣なお言葉もたくさんいただいて、精神的にもかなり追い詰められました。でも、社員全員“頑張っていかないと”と一致団結することができましたし、問屋さんも“また置いてあげるから新しいのを作りなさい”と言ってくださって…。温かいお言葉がなかったらつぶれていたかもしれませんし、みなさんがパインアメを守ろうとしてくださったことが本当にありがたかったです」
こうして関西を代表する“アメちゃん”としての信頼と実績を取り戻したパインだったが、年々競争激化していく飴市場において、全国区での人気獲得が課題に上がっていた。そこで井守さんは、平成22年にTwitter開設を会社に提案。それまで同社広告と言えば、1年に1度、新聞のテレビ欄に『パインアメ』というロゴと、飴一粒が描かれたシンプルな名刺サイズを出していたのみだった。SNSに馴染みのない社員が多い中、井守さんの提案は挑戦だった。
「“タダでできますよ”って会社にプレゼンしました。大阪の人は“タダ”って言葉に弱かったりもするので(笑)。最初は『パインアメ』と呟いた人皆さんに御礼の返信コメントをしたり、2月22日の“猫の日”には、猫耳のついたパインアメを手作りし投稿したり、皆既月食の日にはパインアメで月食を表現したりと、コツコツやってきました」
開設から12年経った現在、フォロワー数は16万にまで成長。徐々に東日本で取り扱う店舗も増え、『パインアメ』の認知は全国へと広まっていった。
【ご注意】
— パインアメの【パイン株式会社】 (@pain_ame) January 25, 2021
感染症対策のため、パインアメを吹いて鳴らそうとすることは暫くの間ご遠慮いただけましたら幸いですというかもともと鳴るようには作ってないんですけどね
メインターゲットは子どもから大人へ? 秘策は“飴コーナー外“のコラボ、70品以上
特に反響が大きかったのは、小林製薬とコラボした『噛むブレスケア パインアメ味』。ほかにもお酒『パインアメサワー』や食器用洗剤『クロリスディッシュ』など、コラボ商品は大人向けのものも少なくない。
『どんぐりガム』の“当たり”なくなっていた… 生き残りかけたメーカーに迫られる決断
さらには、グミやソフトキャンディなど多種多様の菓子が登場し、飴メーカーが生き残るには厳しい時代が到来している。昨年にはアメハマ製菓が廃業し、来年1月にはパインと同年創業の佐久間製菓が廃業を発表。物価高騰も相まって、自社努力だけではどうにもできない外的抗力も色濃く、各社は値上げや新商品の開発など、決断を迫られている。
「時代に合わせて変わらないといけないことも多く、実は弊社も『どんぐりガム』の当たりをなくすなど、細かな部分を変えています。駄菓子屋さんでは当たりを交換できても、交換が難しいお店が増えてきたため、泣く泣く決断しました」
「お客様から『パインアメをシュガーレス化しほしい』といった要望をいただくこともあります。しかし、そういった現代的ニーズであるヘルシーさや付加価値は他の商品で還元しつつ、『パインアメ』はそのままの形で残すことにこだわっています。とはいえ、今後も懐かしいだけのお菓子にならないよう、みなさんに忘れられない努力を続けていきたいです」
発売から70年が経ち、若い世代にはもはや、缶詰に入った“輪切りのパイナップル”は馴染みがないだろう。それでも『パインアメ』が親子三世代、老若男女に愛され続けるのは、創業当時から変わらない“手軽においしい物を届けたい”と願う思いに他ならない。
(取材・文=辻内史佳)