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紳士服市場の縮小を打破する活路に? 専門店がいま「オーダースーツ」に注力する意味

生地、裏地、ボタン…細部までこだわるオーダーメイドスーツ選び

生地、裏地、ボタン…細部までこだわるオーダーメイドスーツ選び

 コロナで大打撃を受けた紳士服業界。各社さまざまな戦略で活路を見出すなか、シェアトップの「洋服の青山」を全国展開する青山商事は“オーダースーツ”事業に注力する姿勢を発表。今年4月に「麻布テーラー」を買収したことで話題となった同社が、このタイミングでオーダー市場に取り組みを加速させる意義とは? ビジネスウェアのカジュアル化も進み、市場縮小が避けられないなかで、スーツの価値を再認識させる“原点回帰の一手”となりえるのか。

オーダー市場のシェア拡大を加速、「麻布テーラー」M&Aの意義とは

 クールビズの定着、働き方改革の一環の「服装の自由化」など、ビジネスウェアのカジュアル化が進む中、追い打ちをかけるようにコロナ禍による在宅勤務の浸透やオケージョン需要の減少でスーツ需要が激減、大打撃を受けた紳士服業界。シェアトップの「洋服の青山」を展開する青山商事も、2021年3月期の連結決算では、過去最大となるの388億円の当期純損失を計上。この危機を乗り切るために、粗利率の改善、不採算店舗撤退などコスト構造改革を実行し、2022年3月期の連結決算では売上高1659億円、営業利益21億円、当期純利益13億円と、黒字転換を果たした。

 同社が今後のさらなる収益強化に向けて、中核事業であるビジネスウェア事業で現在注力しているのが、「オーダースーツ」だ。今年4月、高いブランド力で知られる日本を代表する老舗テーラー「麻布テーラー」の運営会社を完全子会社化したことがネット上で話題となったが、同社はそれ以前の2016年に、オーダースーツに持たれている“高価で敷居が高い”というイメージを払拭するべく、高品質ながら購入しやすい価格のオーダースーツブランド「ユニバーサルランゲージ・メジャーズ(以下、メジャーズ)」を新設。2019年にはさらにリーズナブルな価格と利用のしやすさを追求したブランド「クオリティオーダー・SHITATE(シタテ)(以下、SHITATE)」を立ち上げ、現在この3つのブランドで、エントリー価格から高価格帯までを網羅。ビジネスパーソンの幅広い需要に応じたラインアップで、さらなるシェア拡大に挑んでいる。

 同社がオーダースーツに注力するきっかけとなったのは、「世の中の需要を肌で感じたこと」だった。

「近年、ビジネスシーンではカジュアル化が進んでいますが、それだけに、スーツは昔のようにサラリーマンの制服だった時代から、今は着る目的や必要性が明確になっています。例えば重要な会議があるから気持ちを切り替えるために着るとか、自分の嗜好であえて着るなどです。その結果、個人のワークスタイルや好みに合うものを選びたいというというように、スーツに対してこだわりをもつ人が増えています。『ビジネスのパフォーマンスを上げるパーツを提供する会社になる』を掲げている弊社では、そのような時代のニーズを面でとらえるべく、コンセプトの異なる3ブランドを用意しました」(営業部 営業企画グループ長 小野一樹氏/以下同)

 2022年3月期にオーダー実績26億円を記録した同社は、今期、168%増となる44億円まで高める計画を発表。そのメインとなるのが「洋服の青山」の店内と「ザ・スーツカンパニー」の店内に導入されている「SHITATE」だ。

オーダーメイド受注コーナー導入は今期中に450店舗体制に計画。将来的には「洋服の青山」の全店への導入を目指す

SHITATEの接客イメージ

「SHITATE」のオーダーメイドスーツ受注コーナー

 「SHITATE」の特長は、1着本体29,000円(税込31,900円)からという手ごろな価格に加えて、「洋服の青山」の店内に設けた受注コーナーで気軽にオーダースーツが注文できる利用環境。実現の背景にあるのは、デジタルの活用や同社が築き上げてきたスケールメリットにある。

 2019年10月、都市部を中心とした「洋服の青山」20店舗と「ザ・スーツカンパニー」全店(約50店舗)に導入すると、予想以上の反響を受け、「洋服の青山」では今年3月末には全700店舗中の250店舗に、今期終了時点ではさらに150店舗増の約400店舗への導入を目指すという。

「“高価”“敷居が高い”“時間がかかる”といったオーダースーツに対するイメージのデメリット部分を削ぎ落したことで、これまで既製スーツではサイズやフィット感にご満足いただけていなかったお客様はもちろん、これまでオーダーメイドは選択肢として考えていなかったお客様や、そこまでスーツにこだわりを持っていなかったお客様にも、お求めいただけています」

 もちろん、気軽さと手軽さだけがウリなわけではない。紳士服にこだわり続けて約60年、業界のリーディングカンパニーである同社のオーダースーツへのプライドは高い。

「これまでより安価になったとはいえ、オーダーはボタンや裏地といったオプションなどで自分好みにカスタマイズできるため、結果的に既製スーツより、若干、高くなります。そのオーダースーツならではの付加価値をお客様にきちんとご提供できなければ、ブランドは衰退してしまいますので、クオリティには非常に強いこだわりを持っています。

 例えば、弊社では、SHITATEに先行してオーダースーツブランドのメジャーズを立ち上げておりましたので、SHITATEの立ち上げには、メジャーズに在籍するオーダーメイドのプロフェッショナルたちにも携わってもらい、ボタンや裏地などオプションのチョイスをはじめ、専門的な知見をもとにブランドを構築しています」

 それは接客についても同じ。オーダーは既製よりも採寸箇所が多くなるし、生地やボタンといったディテールも好みで選べるだけに、販売員にとっては提案力やヒアリング力が必要となる。それらノウハウも、同社のオーダーメイドの専門販売員たちが伝授していく。同社が「洋服の青山」全店にSHITATEを導入する方針を、「将来的には」という表現で掲げているのも、社員教育に十分な時間をかけているのが理由だ。

市場縮小のなかで“オーダースーツ”の価値をどう築いていくか

 一方、技術革新を背景に、ファストブランドがさらに低価格帯のセミオーダースーツの販売に着手し始めたり、スマートフォンやパソコンからオーダースーツが注文できるサービスも増加するなど、競合も増えているオーダースーツ市場だが、小野氏は「勝算はある」と目を輝かす。その根底にあるのは、クオリティとサービスを重視した同社の“スーツ専門店としてのこだわり”だ。

「今、初回からネットでオーダースーツを注文できるサービスも増えていますが、弊社では1回目は店舗で販売員が採寸することが必要としています。また、2回目以降はスマートフォンやパソコンで注文できる環境を整えていますが、裾丈などの微調整以外の大幅な変更はネット上ではできないようにしています。できあがりに満足いただけないスーツはご提供したくないというのがその理由です。“気軽”“手軽”は実現しながらも、オーダースーツの神髄である自分好みの、自分にフィットした一着が作れる満足感を損なわないよう、そこは大切に考えています」

 さらに、リモートワーク増、クールビズの浸透など、さまざまな要因でスーツを着る機会が減っている今だからこそ、「スーツの価値を高めたい」という。

「今、スーツ市場は依然として逆風が吹いていますが、一方で、オーダースーツの需要の高まりを見ていて、改めてスーツってカッコイイなという価値観が世の中に出始めてきているのかなとも感じています。何より嬉しいのが、『SHITATE』を導入した店舗の社員が生き生きと接客している姿を見られたことです。既製品だけでは、どうしても提案の幅が狭まる部分は否めませんでしたから。我々としては、この機を逃さずに、オーダースーツも含め、スーツの良さを世の中にどんどん発信していきたいと考えています」

 ライフスタイルの多様化でビジネスカジュアルから既製スーツ、オーダースーツと仕事服を目的や好みに合わせて選べるようになった令和。オシャレとこだわりを活かせるスーツは、ビジネスパーソンの最強アイテムとして、紳士服市場に活気をもたらす存在になるのかもしれない。

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