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“タブー”へ切り込んだ『3年A組』、番組Pが語る「“時代錯誤”を主流に変えた熱量」

『3年A組』は菅田将暉と“心中”する気構えだった

――菅田さんの演技には見ていて圧倒されました。プロデューサーの立場としてどこまで指示されていたんですか?

福井雄太俳優、菅田将暉とはお互いに相棒のような信頼感があったと思います。この作品はある意味ドキュメンタリーのようなドラマでした。だから、「良い芝居だったね」とは一回も言わなかったんですよ。

――本ドラマは“菅田さんと心中する”くらいの気構えだったのでしょうか。

福井雄太それはありますね。撮影の合間に話すのはお互い感じている共有部分で、「良い芝居だった」ではなく「伝わったね」ということ。その「伝わった」には2つの意味があって、1つは菅田くんの芝居が僕に伝わったこと。2つめは作品が伝えたかったことを菅田くんがレンズに向けて伝えてくれたという意味もありました。もう“全身全霊”という言葉があんなに似合う役者はいないですね。

――そして、最終回の7分間の独白部分がドラマを象徴するシーンになりました。

福井雄太あのシーンは、一発撮りだったんです。頭から最後までの7分間、NGなしのノーミスです。1回しか撮影していません。最後の最後で、あのライブ感を撮れたのはとても大きかった。僕と武藤さんの中では企画創世記から、このドラマで一番伝えたかったことを表現するために、最後は『独白』という形を会話していました。世の中の人たちとの対話、SNSとの対話。文字と闘うシーンも武藤さんのアイディア。菅田くんが言いたい事、僕の伝えたい事を話しながら武藤さんが見事に台本にしてくれた。あの独白のライブ感は凄かったですよね。

――このドラマで1番伝えたかったことはなんですか?

福井雄太「考えること」だと思います。いま、多くの人が「他人から見た自分」を生きる時代になってしまいました。僕もそういう生き方をしてしまった時代もあります。いまって、周りから見て「ズレていないかな?」「どう思われているかな?」をまず考えてしまう。例えばもし、「自分の好きな曲はコレです」、と言った時にそれが“アイデンティティ”になってしまうから言いづらいし、怖い。

――自分をさらけ出すことが、叩かれ炎上することの要因になっている。つまりデメリットになってしまうと。

福井雄太なので、今って「これ嫌いって」言った方が楽なんです。それなら“アイデンティティ”にならないし、自分がどういう人間かをさらけ出さなくていい。でもそれだと、世の中つまらなくなってしまうなって思ったんです。だから「ドラマ」というエンタメやフィクションを通して、自分のことでも、他人のことでも良い。反射的に空気を読んで合わせるのではなく、「何をしたいのか」「相手は何が良いと思っているのか」を自分で考えて何か一歩踏み出すことができたら、それは本当に素敵な事なんだと思うんです。自分で「考える」こと。それがどんどん広がれば、世の中もっとおもしろくなると思っています。

――難しいと言われた「学園コンテンツ」がヒットしました。周りの反応はどうですか?

福井雄太同業者に「やりたい企画を出せるようになった」と言われたのが嬉しかったですね。モノづくりをするにあたって、こうしたほうがいい、ああしたほうがいいというのは先人の知恵。それもとても大事なのですが、そういうものがあって、その“額縁の中でどうやって暴れるか”を考える時期になってきたところを、全く違う角度から新しいドラマを作ることができました。こういう作品、セオリーと違うことをやってもいいんじゃないか。そういった事を少し示せたのではないかと思いますし、それを許してくれた今の環境にとても感謝してます。

――これから挑戦したいこと、作りたいドラマはありますか。

福井雄太『3年A組』がおもしろいと言ってもらえたので、もっとおもしろいものを作りたい。見てくださる方に「うわ、そういう作品でくるんだ」って驚いてもらいたいですね。驚かせることが目的ではないのですが、それよりも“変なヤツ”だと思われたい(笑)。40、50歳になっても物作りをしていきたいし、その時代の半歩先を行って、どの年齢になっても「あいつ新しい」と言われたいですね。

――最後に、福井さんの原動力を教えてください。

福井雄太自分にしかできないことが、誰か1人の人生の「きっかけ」になる。「作品」作りは、自分が生きている証しを刻むことでもあり、誰か他人の生きている人生の証に刻まれる作業なんだと思います。この作品が自分の人生にとって大事なものであり、誰かの宝物になる。それが僕の原動力です。誰かのそれになれたら、深いところで握手できると思うんです。そういうものになっていると嬉しいですし、これからもそんな作品を作っていきたいと思います。


 『3年A組』の勢いは本当に凄かった。SNSで話題を集め、若い人から多くの支持を得た。画面越しから伝わる「熱量」は回を重ねるごとに強くなり、最終回では涙を流す視聴者も多かった。放送時間にテレビの前に集まり、学校で友達と感想を言い合っている。SNSで見られたそんな反応の数々に、まだまだ「テレビ」は終わってなんかいないと、何度も勇気づけられた。今後、福井氏が作る作品にはどんなメッセージが込められているのだろう。次回作が本当に楽しみだ。

取材・文/山本圭介(SunMusic)

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