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持田香織、「暮らすこと」から生まれる音楽、「今が本当にベスト」と語る理由【インタビュー後編】

 Every Little Thingのデビュー30周年を機に、これまでの音楽人生を振り返る持田香織。前編では、ELTとしてのデビューから2人体制への転換、井上陽水との出会いを経て、自身の「好きな音楽」を見つけていった過程を聞いた。後編では、ソロ活動を通して築いた世界観、結婚・出産を経てあらためて気づいた「暮らすこと」の大切さ、そして現在取り組む「TOKYO TOUR TRILOGY」について聞いた。「今が本当にベスト」と語る持田が、今見つめる音楽とこれからとは。
※前編は9月29日掲載

(C) Forko Co., Ltd.

(C) Forko Co., Ltd.

――『moka』が出たのが2009年。そこから現在に至るまで、ソロ作品を丁寧に積み重ねてきています。私は個人的にソロの歌詞がとても好きなんです。

持田ありがとうございます。

――日常の、見えづらい、でも、大切なものに一貫して目を向けていますよね。もちろん、ELTの作品にもそういうものがありますが、ソロだからこそ出せる色もあると思うんです。作り上げたかったのはどういう世界観でしたか?

持田音の感触とか色とか雰囲気とかは、陽水さんとの出会い以降出会った人たちの影響が大きかったと思うんです。全然気負わないというか、普通で、みんな仲良しみたいな。どうしても大きな組織のなかにいると、物事が大きくなってしまうところがあって、それがダメというわけではないんですけど、私はこぢんまりと、が、好きな人。エイベックスさんでソロをやらせていただいてた頃は、ちょっとどこか付き合わせてしまっているなという感覚でいました。エイベックスさんにしてみたら、もちろんELTあっての私なので。そこでの葛藤はありました。
  • 『moka』ジャケット (C)AMC

    『moka』ジャケット (C)AMC

――もっとミニマムなやり方を望んでいましたか?

持田各部門専用の担当者が集合して成り立つやり方よりも、各部門をみんなが把握し、何か問題が起こったときも、誰かのせいにせず、各々負担するというやり方のほうが、私は性に合っているんです。小野リサさんとか、大橋トリオさんとか、本当にいろんな方と楽曲制作をやらせていただいてるんですけど、レコーディングの際は、私の現場に来ていただくのではなく、相手の現場にお邪魔させてもらっていました。それもできるだけ少人数で。

――相手の現場に赴くと、作業の細かい仕切りは相手方のスタッフさんがやることになりますよね。

持田お任せすることになります。その現場体験が、ものすごく勉強になりました。それまで自分の現場にミュージシャンの方が来てくださって、「じゃあ、お願いします」と言えば、こちらのほしい感じで弾いてくださっていた。それがどれだけ凄いことかがわかりました。自分のテリトリー以外の現場に行くって、それくらい緊張する。それを乗り越えていいパフォーマンスをするには、相当の準備もいります。自分が外に出ることによって、そういうことにも初めて気づけました。もちろん、歌うという私自身の役割を果たすことが第一で、そこに集中させようと周囲がそれ以外のことをやってくれていたわけですが、それによって見えなくなっていた人の気持ちもあったなと。

――こぢんまりと、を、求めて、今がある?

持田エイベックスさんでソロ制作をしてた頃は、私自身に「ELTの持田香織」から抜け出せていない部分があったと思うんです。でも、そこで3枚トントントンとアルバムを出させていただいたことでソロとしてのベースができ、ある程度の自信にもなっていたので、だいぶ時間を置いてインディーズというカタチで出した『qq』にも、スムーズに臨めました。
■「moka」楽曲試聴(外部サイト)

「暮らすこと」が教えてくれた大切なもの

――年齢を重ね、結婚、出産、家庭の運営と、ご自身のライフ・ステージでもさまざまな経験をされています。表現したいことが変化してきていますか?

持田暮らすこと、を、雑にしてきたわけではないんですけど、忙しいとどうしてもそこにかける時間が削られてしまいますよね。結婚は、ちょうど暮らすことを熟考する時間となり、また、自分の身体を見つめ直す機会にもなりました。そして、暮らすこと、が、実は一番大事だったんだなと気づいたんです。

――作るということは?

持田しばらくは全然していなかったです。求められることもなければ、やりたいという自分の欲求もない。ある意味本当に自由でした。で、ちゃんと暮らし始めたら、やっぱりすごく楽しいんですよ。自分を産んでくれた家族から枝分かれして、今度は自分が家族を作る。その家族が絶対的味方になってくれる。それがこんなにも心強いことなのかと思いました。大昔からみんなそうやって家族を繋げてきたんだなとも。

――感じ入ります。

持田歌を歌っていくなかで向き合うのは自分自身なので、突き詰めていくと孤独だったりするんです。あ、これはちょっと被害妄想かな。どんな職種でもちょっとポツンとしてしまう瞬間はあると思うんです。そういうときに、話を聞いてもらえる、胸の内を理解しようとしてくれる存在が、私の場合は家族です。けっして甘えさせてくれるという意味ではなく、何かこう一緒にその先にあるものを掘り起こしてくれるという意味なんですけど。そういう暮らしを得た自分が、今度はどういう音に導かれるのかなとはずっと思っていました。

――今はお母さんですもんね。

持田子どもはすごくほしかったんです。高齢出産だったので、無事生まれてきてくれるんだろうかと毎日不安で、毎回検診が怖かったんですけど、奇跡的に出会うことができました。歌うこととの再会もそこでした。もともと家で音楽をかける習慣がほとんどないので、歌うことからも離れていたんですけど、子どもを寝かしつけるときに自然とメロディを口ずさんでいました。それが、次への始まりだった気がします。

――原始的な、湧き上がる欲求だったんですね。ご自分の選んだ環境に、心も体もしなやかに順応していますね。

持田環境と言えば、ウチの庭に、毎朝小鳥がいっぱいやってきて、素敵な歌声を聞かせてくれるんです。以前一度だけご飯をご一緒した大貫(妙子)さんが、「鳥の歌声には敵わないのよ」とおっしゃっていたんですけど、本当にその通りでした。鳥の歌声から始まる1日。そこでゆっくりお茶を飲むこと。なんて豊かで贅沢な時間だろうと思います。そういう根本的な感覚や思いを、どんどん作品にしていきたいなと。

――『qq』を聴いたとき、軽やかで鮮やかな音だと感じました。まさに今、お話から感じた通りの音楽だと思います。
  • 『qq』ジャケット (C)Forko Co., Ltd.

    『qq』ジャケット (C)Forko Co., Ltd.

持田テレビが壊れたらもう買わなくていい。炊飯器が寿命ならお釜でコトコト炊けばいい。実践してみると、なんてことなく暮らせるんです。もちろん、便利なことはありがたいですけど、不便であるからこその愛しさが削れてしまうような。先日たまたま、スペインで暮らすお孫さんを訪ねて帰ってきた友人と、日本の便利さと気遣いの話題になったんです。友人は「それらは本当に素晴らしいけど、同時に生きづらさも感じる」と。特に日本人の気遣いについては、いつのまにかそうであらねばならないというふうに染みついてしまっているように見えて、ちょっと息苦しいとも。

――そういう部分はあるかもしれません。

持田私はすごく腑に落ちました。仕事柄、人に見られることをすごく気にして生きてきたところがあって、たとえば、こういうインタビューでも、どういう態度なら不快に思われないか、とか、読む側が嫌な気持ちにならない言葉のチョイスとかを、自分なりに学んできた。そうこうしてるうちに、相手のことばかりを考える頭になって、「じゃあ、自分はどうしたいの?」を考えるのが苦手になってしまったんです。

――今はどうですか?

持田まず自分の気持ちを大事にします。そうすると、今度はそこに責任が生まれますよね。何かをやると言ったからには、ちゃんと覚悟して臨まなきゃならない。それが重要なんだなと思うようになりました。もちろん、単なるわがままにならないように、うまくバランスを取りながらなんですけど。自分の子どもの将来を思うときにも、自分の気持ちをまず選択できる世の中であってほしいなと思います。
■『qq』楽曲試聴(外部サイト)

東京の歴史ある3会場を巡る『TOKYO TOUR TRILOGY』

  • (C)Forko Co., Ltd.

    (C)Forko Co., Ltd.

――さて、今年持田さんは、東京の3ヶ所の会場を別々のテーマで巡る『TOKYO TOUR TRILOGY』というライブツアーに臨んでいます。5月は日本橋・三越劇場、10月は東京キネマ倶楽部、12月は草月ホールと、どこも歴史ある会場です。このツアーは、どういったところから発想されたものだったんですか?

持田2025年5月に『qq』をリリースする際、その発表を兼ねてのライブをどこでやるのが相応しいかいろいろ調べました。そのプロセスで出会ったのが、日本橋・三越劇場だったんです。三越に買い物で行くことはあっても、劇場があるとは知らず、でも、行ってみたらクラシカルな雰囲気のある素敵な会場でした。

――国の重要文化財ですもんね。

持田演劇で多く使われているそうなんですけど、「使わせていただけませんか?」と問い合わせたら、先方としてもより多くの方に知ってほしいという思いがあったようで、受け入れてくださいました。実際音を奏でてみたら、本当に響きも含めて素敵で、また来年も同じ頃にやれたらいいね、ということにまずなったんです。ただ、単発ではもったいない気がしていました。そんなときチームスタッフのほうから、春、秋、冬と別々のテーマを設けて、3つの会場を繋げるツアーにしてみたらどうかという提案があり、東京でツアーって面白いかもと思いました。

――あるようでないアイデアです。

持田私は東京生まれの東京育ちで、実家のある亀戸は、古いものと新しいものが混在しています。たとえば、昔から街を守ってきた職人さんのところに、今、若い人たちが興味を持ってやってきて、一緒に古いものも生かす街づくりをしてる。かねがねそれは素敵なことだなと思っていました。翻ってライブの会場のことを思うと、今、耐震性のことなどもあって、壊して建て直されてしまうところが多いですよね。今回ツアーのスタート地点を三越劇場とするなら、後の2ヶ所も時間を刻んできた場所がいいなと思ったところから、東京キネマ倶楽部と草月ホールに出会いました。

――ツアーは三部構成で展開されています。

持田「未来」「過去」「存在」という別々のテーマにして、楽曲構成も、それを彩る演出も全部違うツアーになりました。サポート・ミュージシャンは同じで、優しい方ばかりなので、一緒にステージを作っていくのが本当に楽しいです。東京以外から来てくださる方のことを考えると申し訳ない思いもあるんですが、旅してきた先にライブがあると、その道中も含めていい思い出にしていただけるかなと。

――持田さんにとって、今、音楽はどういうものになっていますか?

持田今が本当にベストだと思っています。楽しいことはちょっと置いといて、辛かったこと、大変だったこと、いろいろありました。でも、結局それも、そのときあるべきことだったと受け止めていけば、未来はいかようにもなると思うんです。自分の解釈でまるで違う方向にも行ける。そう思うと、私は自分の今の音楽が、生き方も含めてベストだと感じられるんです。

――力強い言葉です。

持田そうあるためなら、努力することも、準備することも、なんて楽しいんだろうと。前は大嫌いだったんです。努力も準備も。

――言っちゃいましたね。

持田楽しいものと出会うために努力や準備はある、と、やっとわかりました。だから、今、スタートするような気持ちで、これから何ができるかな? とか、どんな進化が遂げられるかな? と思っています。すこし前は、なんかもういろいろやってきたな、だったんですけど。

――素敵な変化です。

持田歌詞に関しても、また同じこと言ってるなと思ってしまう瞬間もありました。でも、そんなことはない、と、今は思います。

――未来に繋がっていきますね。

持田何かを始めるのに歳は関係ないですよね。いろんなことを経て、コレだ! と思えたことには強さがある。もちろん、挫けることもあります。でも、それもあるべきことだったと受け止めていけば、未来は無限に広がっていくんじゃないかなと。

取材・文:藤井美保
■Every Little Thing 30th Anniversary Website(外部サイト)
■My ELT Memoriesキャンペーン(外部サイト)
■持田香織、東京ツアー三部作『TOKYO TOUR TRILOGY』(外部サイト)

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