ファンと共に“熟成”、自信と信頼から生まれたサザンの意欲作
“王道”だけど“新しい” 切ない心情を歌うミドルバラード
センチメンタルなメロディーに乗せて切ない心情を歌い上げるミドルバラードの曲調は、さまざまなタイプの楽曲を得意にしてきたサザンにとっても“王道”の1つ。ピアノとストリングスのやわらかな響きを軸に、豊かなコーラス、ビートルズ直系のギターソロも配しつつ、ソフトロックを彷彿とさせるスタイルで、失恋した男が孤独に過ごす時間の寂しさや切なさを歌う。歌詞には「黄昏」と書いて「セピア」と読ませる言葉もあるが、まさにゆっくりと暮れていくような情景と共に、慕情を歌うナンバーだ。
そういう意味では、昨年8月にリリースされたプレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』に収録された「壮年JUMP」と対照的な1曲と位置づけることもできるだろう。爽やかでフレッシュなアメリカンポップの曲調に乗せ、今も自らを奮い立たせる情熱を歌った「壮年JUMP」が40周年イヤーのキックオフのタイミングで世に放たれたのに対して、「愛はスローにちょっとずつ」は、ノスタルジックに過去を振り返るようなタイプの曲。それがツアーでファンと共に育ってきた楽曲として40周年イヤーの締めくくりのタイミングで世に放たれるということにも、どこか象徴的な物語性を感じてしまう。
YouTubeで新曲歌唱模様の生配信も 42年目を迎えてなお挑戦は続く
『SOUTHERN ALL STARS YEARBOOK「40」』にはメンバー5人のインタビューも掲載され、公式サイトにもその一部が抜すいされている。その中で桑田は、かつての自分だったら未発表の曲をアリーナやドームクラスの会場でやろうとは思わなかったが、それを「やってみよう」と思えたのは40周年を迎えた自信と、メンバーとお客さんへの強い信頼があったからだ、と語っている。
文/柴那典