ファンと共に“熟成”、自信と信頼から生まれたサザンの意欲作

 サザンオールスターズが、新曲「愛はスローにちょっとずつ」をリリースした。昨年からのデビュー40周年イヤーを華々しく駆け抜けてきた彼ら。今年には6大ドームを含む全国11ヶ所22公演におよぶツアーを行ってきたが、同曲は3月に宮城・セキスイハイムスーパーアリーナで行われたツアー初日で初披露されたナンバーだ。桑田佳祐は「ツアーでお客さんと共に熟成させていく曲」と説明していたが、その言葉どおり各地で披露され、筆者が目撃した6月のツアーファイナルの東京ドーム公演でも、ライブの1つのハイライトになっていた。

“王道”だけど“新しい” 切ない心情を歌うミドルバラード

  • 8月12日に配信を開始した「愛はスローにちょっとずつ」ジャケット

    8月12日に配信を開始した「愛はスローにちょっとずつ」ジャケット

  • フォトブック『SOUTHERN ALL STARS YEARBOOK「40」』(※限定受注販売)

    フォトブック『SOUTHERN ALL STARS YEARBOOK「40」』(※限定受注販売)

 桑田はMCでも、「いつか良いチャンスがあったら世に出そうと思っています」と語っていたが、ツアー終了後に早速レコーディングを開始。デビュー40周年を記念したフォトブック『SOUTHERN ALL STARS YEARBOOK「40」』(※限定受注販売)に封入されるCDへの収録と、配信という形で発表され8月12日に先行配信リリースされた。

 センチメンタルなメロディーに乗せて切ない心情を歌い上げるミドルバラードの曲調は、さまざまなタイプの楽曲を得意にしてきたサザンにとっても“王道”の1つ。ピアノとストリングスのやわらかな響きを軸に、豊かなコーラス、ビートルズ直系のギターソロも配しつつ、ソフトロックを彷彿とさせるスタイルで、失恋した男が孤独に過ごす時間の寂しさや切なさを歌う。歌詞には「黄昏」と書いて「セピア」と読ませる言葉もあるが、まさにゆっくりと暮れていくような情景と共に、慕情を歌うナンバーだ。

 そういう意味では、昨年8月にリリースされたプレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』に収録された「壮年JUMP」と対照的な1曲と位置づけることもできるだろう。爽やかでフレッシュなアメリカンポップの曲調に乗せ、今も自らを奮い立たせる情熱を歌った「壮年JUMP」が40周年イヤーのキックオフのタイミングで世に放たれたのに対して、「愛はスローにちょっとずつ」は、ノスタルジックに過去を振り返るようなタイプの曲。それがツアーでファンと共に育ってきた楽曲として40周年イヤーの締めくくりのタイミングで世に放たれるということにも、どこか象徴的な物語性を感じてしまう。

YouTubeで新曲歌唱模様の生配信も 42年目を迎えてなお挑戦は続く

 そして、何より語るべきは、「国民的バンド」としてこれだけの輝かしいキャリアを経てきたサザンオールスターズが、今もなお「懐かしのあの曲」ではなく「まっさらな新曲」で勝負している、ということだろう。

『SOUTHERN ALL STARS YEARBOOK「40」』にはメンバー5人のインタビューも掲載され、公式サイトにもその一部が抜すいされている。その中で桑田は、かつての自分だったら未発表の曲をアリーナやドームクラスの会場でやろうとは思わなかったが、それを「やってみよう」と思えたのは40周年を迎えた自信と、メンバーとお客さんへの強い信頼があったからだ、と語っている。
 また、この曲は桑田がパーソナリティを務めるラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(TOKYO FMをはじめJFN 38局ネット)の8月17日の放送回「真夏の夜の納涼生歌SP」でも生演奏で披露された。この日はラジオと同時にYouTubeでのライブ配信も実現。「素敵な音楽仲間たち」と桑田が語るサザンのライブでもお馴染みのミュージシャンたちとこの曲を含む数々の楽曲を浴衣姿で歌い、深夜にも関わらずYouTubeだけでも5万人以上が同時視聴。日本中を魅了した。
「大概のことはやりきったかに思えたその矢先、また新たなチャレンジが私を待ち受けておりました」と、番組で桑田は“ひよっこYouTuber”としての生配信について語っていた。バンドのキャリアは42年目に突入したが、まだまだ新たな挑戦は続いている。今のサザンは、そんなワクワクを感じさせてくれる。

文/柴那典

提供元: コンフィデンス

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