大手事務所YGを独立したK-POPヒットメーカーが語るZ世代へのアプローチ 「全世界的にトレンドは一貫する」

 BIGBANGや2NE1、BLACKPINKらを輩出するYGエンタテインメントで理事長・クリエイティブディレクターを務めたSINXITY氏が、NAVERの出資のもと、韓国でクリエイティブ・プラットフォーム「AXIS」を創業。今年日本に本格上陸した。クリエイティブとファッション性の高いアーティストの音楽制作環境を有していると共に、有望なアーティスト・クリエイター・トレンドを発信するプラットフォーマーとして、従来の音楽プロダクションの概念を覆すトレンドコンテンツを提供する。世界的に人気を得ているK-POPシーンの中核で活躍してきたSINXITY氏が、韓国のエンタテインメント業界の現状と未来、Z世代にアピールできるアーティストやコンテンツ開発について語った。

クリエイティブ能力を持った才能の確保とイノベーションを起こす拠点に

──AXISを設立するに至った背景と経緯を教えて下さい。
SINXITY 私はYGエンタテインメント出身で、ブランド戦略や日本支社、中国支社の組織改編などを、クリエイティブサイドではアーティストの発掘や教育、デビュープロジェクト、ワールドツアー設計などに携わってきました。そして2017年よりYGの未来に向けた展開を研究し、アーティストがビジネスにとらわれることなくクリエイティブのみに集中するためには、新たなプラットフォームが必要だという結論に至りました。そのプラットフォームをYG内に整備することも考えたのですが、YGのヤン・ヒョンソク代表の「一度、自分で投資から設立、経営まで経験してみては」との後押しと、YG時代より深いお付き合いのあったNAVER社のご出資もいただけたことから、昨年韓国でAXISの創業に至りました。

──立ち上げスタッフにはどのような経歴の方がいらっしゃるのでしょうか。
SINXITY 韓国の三大大手プロダクションと言われるYG、SM、JYPで活躍してきたクルーのほか、IT企業で腕を振るってきた人間などマルチな才能が集まりました。またスタッフ半分以上が外国人で、韓国人スタッフの多くも海外で教育を受けてきた人材です。

──「新たなプラットフォーム」の概要について具体的にご説明いただけますか?
SINXITY 弊社のメインコンテンツはアーティストブランドで、現在は女性ソロシンガーのKATIE、ボーイズクリエイター集団のambitious ambitionの2組と専属契約しています。さらに専属アーティストのマネジメントやコンテンツ制作にとどまらず、外部のアーティストやクリエイター、新興〜中堅のプロダクションにも弊社のリソースを開放しています。良いクリエイティブのためにはスタジオやロケーションといったハード面から、プロモーションやマーケティングといったソフト面までが必要ですが、まだ世に出る前の若い才能であるZ世代(1990年代後半〜2000年生まれ)が、彼ら自身ですべてを揃えるのは至難の技です。そこを弊社が提供することで、さまざまなクリエイティブ能力を持った才能が集まり、イノベーションを起こす拠点にしたい。それが弊社が“クリエイティブ・プラットフォーム”であるゆえんです。

全世界的にトレンドが一貫するZ世代の意識変化

──今おっしゃったZ世代について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?
SINXITY 私は2003年に日本に留学したのですが、当時は日本と韓国のカルチャーの差がとても大きかったんですね。私も韓国で買った服のまま東京の街を歩くと、ずいぶん浮いたものでした(笑)。しかし今では、東京でもソウルでも若い人たちのファッションにほとんど違いがありません。この現象はアジア各国の都市で起きています。

──日本では若者を中心に韓国で流行っている着こなしやメイク、食べ物が人気です。
SINXITY たださらに次の世代、つまりZ世代になるとそのカルチャーがどの国から発信されたものかを意識せず楽しむようになるのではないかと思います。それはやはりネットの力が大きく関係しており、すでにアプリやサービスではその傾向が先行しています。

──LINEなどがそうですね。特に韓国発のアプリだとは意識せず、自然に使っている人が多いかもしれません。
SINXITY エンタメの世界でもその流れは加速してます。Netflixなどはまさにそうですよね。声高に「世界進出」をうたわなくても、最初から世界に向けてコンテンツが発信されています。音楽も同様にグローバル化がさらに進んで全世界的にトレンドが一貫され、また翻訳アプリの成熟で言語の壁も低くなったZ世代にとっては、その楽曲がどの国籍のアーティストが演奏していて、どこの国から発信されたものかは関係なくなるでしょう。

インターネット環境の充実により、「世界進出」は意味をなさなくなる

──そうしたなか、“K-POP”というジャンルもなくなるかもしれない?
SINXITY 少なくともK-POPをアイデンティティにするだけでは、Z世代にはアピールできなくなると思います。重要なのはその楽曲やアーティストのコンセプト、そしてその楽曲にとって最も適した言語で歌われていることです。たとえばKATIEの楽曲はすべて英語詞ですが、それは彼女が幼少期からアメリカで育ち、最も彼女の歌唱が生きるのが英語だからです。またambitious ambitionのデビューシングルは、4曲中3曲が英語詞で1曲が韓国語詞。彼らも英語ネイティブですが、韓国語がハマる曲が完成したのでそのようなラインナップになりました。

──Z世代にアピールできるアーティストやコンテンツを開発するノウハウをお聞かせいただけますか?
SINXITY まずコンテンツ作りについては国内だけで通用する価値観ではない、いわば哲学のようなものが重要だと考えています。また新人発掘においてはアーティストとしての才能はもちろん、グローバルな感性を持ち合わせているかも観点に置いています。ただグローバルの目線にさらされるのは、アーティストのメンタルに大きな負荷をかけます。ですから私たちはアーティストのイメージをことさらに飾り立てることはせず、むしろ外からのイメージと自己の内面のイメージを一貫させる人格教育を行っています。

──インターネット環境の充実によって「世界進出」はさらに意味をなさなくなるとおっしゃいました。それでも日本やアメリカに支社を設置している理由はなぜですか?
SINXITY YG時代に一緒に素晴らしい仕事をさせていただいたクリエイターの方々が、日本にはたくさんいるからです。AXISでもぜひそうした方々と協業して、新しいコンテンツを作っていきたいと考えています。アメリカ支社も同様に、安定したクリエイティブのオペレーションのために設置しました。現在はミュージックビデオとテレビドラマを融合させたハリウッド規模のドラマシリーズ「XYZ」を制作中で、2020年にグローバルの動画サブスクサービスより配信予定です。こちらにもぜひ注目していただけるとうれしいですね。

(文/児玉澄子)

提供元: コンフィデンス

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