『バズリズム』Pが語る 多メディア時代の音楽番組の役割とテレビを意識しないアーティストへの危機感

 日テレ系『バズリズム02』では、毎年最初の放送で独自調査した人気企画『これはバズるぞ』を発表しており、WANIMAやMy Hair is Bad、ヤバイTシャツ屋さんらが1位を獲得し、新人アーティストの登竜門とも言われている。同番組を手がける日本テレビ 事業局IPビジネス部(兼)情報・制作局の前田直敬氏に、アーティスト起用時のポイントや番組制作で重要視していることについて話を聞いた。

テレビ界隈の人間は、すぐ手のひら返すみたいなイメージもある

  • 「これはバズるぞ!2019」 (バズリズム02 調べ)

    「これはバズるぞ!2019」 (バズリズム02 調べ)

──番組を作るうえでの、新人を注目する指標を教えてください。
前田 僕の場合は3つありまして、なかでも大きいのは、毎年最初の放送で発表する『これはバズるぞ』という企画で上がってきた新人です。この企画はイベンターやライブハウス、音楽専門誌、バイヤーなど関係者244人(2019年の場合)による注目の新人アンケートを集計し、トップ30までをランキング形式で発表するもので、第5回目の今年はKing Gnuが1位でした。

──King Gnuの今年1月発売のメジャーデビューアルバム『Sympa』は、でも非常に好調です。
前田 これバズの精度の高さには自負があります。近年は発表後の反響も大きく、SNSでも好意的な声から反対の声もありました。賛否両輪が出るのはそれだけ影響力を持った証拠だとポジティブに捉えいてます。

──そのほか上がったなかで、特に注目しているアーティストは?
前田 マカロニえんぴつが気になります。シンプルな“ほろ苦青春POP”かと思いきや、複数曲並べて聴くと引き出しの多さに気づきます。また、はっとり君の声に色気があり、桜井和寿さんや奥田民生さんに例える人もいます。

──そのほかの2つの指標は?
前田 周囲からの情報で音源を追いかけたり、ライブハウスに足を運ぶことを大切にしています。つい先日も渋谷WWWのGhost like girlfriendの初ライブに行ってきました。彼のことはサンプル音源をいただいたのとほぼ同じタイミングで、とあるライブ会場でお会いしたDJの藤田琢己さんが絶賛していて気になっていたんです。

──今年のこれバズには上がってませんが、ライブはいかがでしたか?
前田 伸び代と、何より本人の思いに惹かれましたね。3年半程前にライブをやめて坂を下る一方だったけれど、音楽が好きなことに改めて気づき、曲を発表していくなかで辿り着いたWWWのライブがソールドアウト。彼は毎日その光景を夢見ていたそうです。この日に彼の夢が終わり、新しい夢が始まる。その瞬間に自分も立ち会えたので、応援したい気持ちです。

──ライブを重視される理由は?
前田 良いと思ったアーティストには、なるべく早い段階で愛を伝えたいからです。売れたあとに「ずっと聴いていました」なんて言っても、それが事実だとしても社交辞令にしか聞こえないですよね。特にテレビ界隈の人間は、すぐ手のひら返すみたいなイメージもありますし(苦笑)。ブレイクしていく過程で急に景色が変わる時期には、各音楽番組からオファーが集中するものです。そのときに真っ先に出てもらえるかどうかは、それまで築いてきた個人的な関係性で決まることが実際に多いですし、またそれが正しいあり方だとも思っています。

ネット発信系アーティストの活動スタイルに、多少なりとも危機感を覚える

  • 日本テレビ 事業局IPビジネス部(兼)情報・制作局 前田直敬氏

    日本テレビ 事業局IPビジネス部(兼)情報・制作局 前田直敬氏

──では、今年の音楽シーンで気になる動きはありますか?
前田 米津玄師さんの大ブレイクを経て、ネット発信系アーティストのシーンが一周回り、新しい周回に来ているのを感じます。彼らはテレビ的な文脈とはまったく関係ないところで膨大なファンを抱えている。かと言って、かつてのネット系アーティストのようにマスに対するカウンターな意識があるわけではなく、マーケットもきちんと確立しているんですね。だからテレビの音楽番組に出ることに対してのモチベーションがまったくない。自分たちの表現したいベクトルを共有してくれる人がいるのがネットなので。テレビの音楽番組を作っている人間としては、多少なりとも危機感を覚えます。

──そうしたアーティストにはどのようにアプローチするのですか?
前田 ライブ稼働をしていない場合は、レコード会社の担当者を通じて愛を伝えるようにはしています。ただやはり大切なのは、毎回の番組を通してアーティストが表現したいことの本質をいかに伝えているかという、いわば『バズリズム』の“人格”をアピールしていくことだと思っています。視聴者はもちろん、アーティストからも選ばれる番組作りを意識しているということですね。

──これだけ多メディア化した時代において、テレビの音楽番組にはどんな役割があるとお考えですか?
前田 一夜にして昨日とはまったく違う景色に連れていく力は、もはやテレビにはありません。ですが不特定多数に対して投網を打てるのは、現時点ではまだ他メディアにはないメリットです。ただそれも、無風状態で打ってもあまり意味がない。いわばテコの原理と言いますか、ネットやライブなどで起きているザワつきが力点に加わると、広い場所に飛ばせるのがテレビの役割だと思っています。だからずっと追いかけているアーティストでも、無闇やたらにオファーするわけではなく、適切な方向に飛んでいけるようにテコの原理を使うタイミングは常に見計らっています。

(文/児玉澄子)

提供元: コンフィデンス

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