西川貴教、起業家とソロ活動の2つの柱を語る「『天才てれびくん』“マーヴェラス西川”のような挑戦も必要」

『イナズマ』の強味は、地域の人たちの協力

――『イナズマ』はチケット代もかなり抑えられています。無料ステージも充実しているし、収支は厳しいのでは?
西川 3つあるステージのうち2つは無料に設定しています。その運営費だけで、もう1つフェスができるくらいの予算がかかる。他のフェスもそうだと思いますが、チケッティングだけでは運営できない。『イナズマ』の強味は、地域の人たちの協力です。大規模フェスにも関わらず、意外と手作りなんです。例えば昨年は(会場の最寄り駅)草津駅の周辺で大きな改修工事があり、シャトルバスの発着所が例年より遠い場所になりました。すると地元の方が“ただ歩いてもらうのは申し訳ない”と道沿いにパネルを立てたり、移動時間も楽しめるように工夫するなど、そうしたサポートが多いです。

――西川さんが1996年にT.M.Revolutionとしてデビューして22年以上が経ち、音楽ビジネスの在り方は一変しました。多角的な活動、さまざまなジャンルとのコラボ、海外との繋がりを含めて、時代の変化に適応し続けている印象がありますが、現在の音楽業界に対してはどんな捉え方をしていますか?
西川 まず、音楽を志す人たちが夢を持てなくなっているのは悲しいですね。いい曲を生み出し、いいライブをやれば、それに見合ったご褒美がないと続きません。曲を聴いてもらう、名前を知ってもらうことに勝る喜びはないのですが、作品を生み出すためには自分自身を削らなければいけないし、それを補うことも絶対に必要なんです。何かをインプットすること、作品作りの糧になるものを取り行こうとすれば、どうしても経費が必要。そうじゃないと、せっかく優れた作品を作る才能があっても、短命で終わってしまいます。

――コンテンツを生み出すアーティストに対するケアが必要だと。
西川 はい。アニメや映画も、魅力的な原作の減少が大きな問題になっています。制作サイドもユーザーも“もっと魅力的なコンテンツを”と求めるばかりで、どうやって継続させるかを考えているようには見えない。バジェットも抑えられ、現場で制作に関わっている方々の生活が立ち行かなくなっている。これは由々しき事態だと思います。クリエイターの方々を守る環境づくりはもちろんですが、ミュージシャンに関して言うと、“レーベルのスタッフは何をしてくれるの?”と待っているだけではなく、自分で考え、行動することが求められるでしょうね。僕は大きなレーベルに所属させてもらっていますが、今回のアルバム『SINGularity』の収録曲で、タイアップが付いているものの半分は、これまでの僕の活動や取り組みに共感してくれて、名指しでお話をいただいた案件だったりしています。

音楽ビジネスに関する教育や相談ができる場所が必要

――メジャーのレーベルに所属しながら、西川さん自身のネットワークを駆使している。
西川 僕が最初に所属していたアンティノスレコードがかなりユニークな体制のレーベルでした。マネージメント、レーベル、アーティストの三者契約で、アーティストの独立性もありました。例えばツアーを開催する時も、まとまった予算を渡されて、自分で判断しながら配分していく。そこで得た経験が、今に繋がっているのかもしれないですね。ただ“いい曲を書いて、いいライブをやることだけに徹したい”というアーティストには向いていないと思うし、リスクとメリットの両方があります。

――今の音楽業界のなかで、“ここを改善したい”というポイントは?
西川 最近思っていることは、若い世代に対して、音楽ビジネスに関する教育や相談ができる場所があればいいなということです。例えば音事協(一般社団法人 日本音楽事業者協会)や音制連(一般社団法人 日本音楽制作者連盟)、JASRACなどもそうですが、存在を知っていても、自分たちに何をしてくれるのか、明確に答えられるアーティストは本当に少ない。アーティストとレーベルの関係もそうですが、何でも世界標準に合わせる必要はなく、これまでの日本の音楽業界のシステムにもいいところはたくさんあると思っています。それならば、しっかりと若い世代に説明する責任があるのではないでしょうか。デビューして、楽曲の制作、ツアーなどに向かっていると、音楽ビジネスを学ぶ時間はなかなか取れないし、どこに相談していいかもわからない。それを請け負う場所は必要だと思います。個人的には、いろいろなレーベルのトップの方と話をしてみたいです。移籍とかそういうことではなく、情報交換をすることで、音楽業界全体に良い効果があると思っています。

――2019年には西川さんにとっても大きなターニングポイント。この先のビジョンを教えてもらえますか?
西川 『イナズマ』を10年続けてきたことで、僕自身も次のフェーズに向かう時期だと思っています。ソロとしての活動もその1つです。僕の活動の指針は、やはり“人が動くこと”です。インターネットを活用した施策もありますが、行動が伴う活動は大事だし、それによって次の挑戦も可能になると思います。

(文/森朋之 写真/西岡義弘)
西川貴教(にしかわ たかのり)

1970年9月19日生まれ。滋賀県出身。1996年5月、ソロプロジェクト・T.M.Revolutionとしてシングル「独裁-monopolize-」でデビューして以降、「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」などのヒット曲を送り出した。また、CM、舞台、バラエティ番組など、アーティスト以外の活動でも注目を集める。2008年10月、地元・滋賀県より初代「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、同県初となる野外ロックフェス『イナズマロック フェス』を主催し、地方自治体の協力のもと開催し、昨年10年目を迎えた。2016年5月には、T.M.R.デビュー20周年関連事業を企画・運営する「株式会社突風」を設立し、代表取締役社長を務めた。2018年から西川貴教名義での活動を本格的にスタート。常に新しい挑戦を続けている。
西川貴教 オフィシャルサイト(外部サイト)

提供元: コンフィデンス

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