来年結成15周年のmoumoon、ブレずに活動できるワケとは
15周年に向け次に進むエネルギーに溢れた作品
YUKA この1年間、3曲ずつ配信を続けてきて、最後に新曲の3曲(「ゆいいつむに」「カタルシス」「LED」)ができたとき、“またいい曲が生まれた。これで次に進んでいける”と思えたんですね。『Flyways』は明るいアルバムで、大好きな作品なんですが、それを飛び越えるようなものを作れたなって思いました。
MASAKI 昨年は、たくさん曲を作り、制作が進むにつれて、自分たちのなかでフォーカスが合ってきた感覚があって。サウンドと歌詞がしっかり合っている手応えがありました。もちろん制作中は大変なこともあったけれど(笑)、エネルギーに溢れた作品になったと思います。
本作の充実ぶりを端的に示しているのが、1曲目の「ゆいいつむに」。生々しいストリングス、海外のインディーポップを想起させるサウンド、そして、カラフルなポップ感と切実なメッセージ性を共存させた歌が1つになった同曲は、メンバー2人の化学反応がもっとも良い形で発揮された楽曲と言っていい。
MASAKI 『ゆいいつむに』はアルバムのなかで最後にできた曲。生のストリングスを使った強い曲を作りたいと思っていたのですが、アルバム全体のイメージを示す曲になったんじゃないかなと。ストリングスのレコーディングをしているときに、YUKAちゃんが感動して泣いてたんですよ。
YUKA 弦一徹ストリングスの皆さんに演奏してもらうと、いつも泣いちゃうんですよね(笑)。この曲はリズム録りの段階から素晴らしくて、急遽“今日、歌も録っちゃおうか”ということになって。ストリングスも含め、全部が1日で揃ったんですよ。そういう奇跡的なことが起きると、やっぱりいい曲になるんだなって。
社会のなかで自分だけの居場所を見つけようとする女性を描いたリリックも印象的。この歌詞には、YUKA自身の経験も強く反映されていると言う。
YUKA 社会に出ると“人に必要とされるって、どういうことなんだろう?”とか“自分にしかできないことって何だろう?”って考えるじゃないですか。『ゆいいつむに』の歌詞には実際のモデルがいて、彼女は自分の目標に向かって頑張っていたけれど、事情があって別の道に進むことになった。壁にぶつかったときに、そのまま頑張り続けるのか、次の新しい場所を目指すのか……そういう選択をしなくちゃいけないときって、一番辛いと思うんですね。そんなことを考えてるうちに、満員電車にもみくちゃにされている主人公の女の子が浮かんできたんですよね。
一番大切にしていることは、デビューの頃から変わっていない
YUKA 心理学の研究者の方が“アーティストは年齢によってぶつかる壁が違う”ということを書かれていて。20代のときは“自分の作品は(影響を受けたアーティスト、作品などの)マネかもしれない”という葛藤があって、30代になると本当に表現したいことが出てくる。40代でそれを打ち砕かれるような体験をして、本当の意味でその人だけの世界が形成されるっていう。私は30代ですが、振り返ってみると“確かにそうかも”と思うし、この先の自分たちがどんなものを作るのか確かめたいという気持ちになるんですよね。
MASAKI いろいろなものからの影響が絡み合って自分たちの作品ができているんだと思うし、唯一無二でありたいと意識してもしょうがないのかなという気もします。大切なのは“聴いてくれた方がどう評価するか?”だと思うんですよね。ライブでファンの皆さんの表情を見たり、“あの曲が好きです”と直接言ってもらったり。そういうフィードバックを感じながら続けていくしかないと思いますね。
また、映画やドラマなどのタイアップ曲においても、moumoon独自の音楽観をしっかり表現できるようになっているとか。
YUKA 例えば「One Time」もそうですが、映画の世界に寄せつつ、自分たちがやりたいこともしっかり重ねることができて。監督さんからストーリーと“こういうシーンで使いたい”と伝えてもらったときに、“冬の朝、凛とした空気のなか女の子が進み出す”というイメージが浮かんできたんですね。それは私が表現したいことでもあったし、自然とリンクできたんですよね。
“新月”を意味する『NEWMOON』というタイトルからもわかるように、moumoonの音楽はいま新たなモードに突入している。来年は結成15周年。独自のスタイルをしなやかにキープしてきた2人は今、さらなる充実期を迎えつつあるようだ。
YUKA タイトルを『NEWMOON』にしたのは、このアルバムを作ったことで“次の段階に来た”と思えたから。1周して元に戻ったのではなくて、螺旋上に少しずつ上がっているイメージですね。たぶんブレてることもあるんだけれど(笑)、15年間ブレずに活動できてる理由は、自然とmoumoonのカタチに戻ってくるというか。一番大切にしているのはデビューの頃から変わっていなくて、“この2人でしか生まれない音楽があるから、制作の環境を整えて、健康な心持ちで続ける”ということだけなんです。逆に言うと、そのほかの部分をスタッフの皆さんに支えてもらっているから続けてこれたんだと思います。やっぱり、音楽を楽しむことが一番ですから。
MASAKI もともと“○○年代風の音楽をやろう”みたいなコンセプトを決めていたわけではないし、臨機応変に変わってきたと思うんですよね。ただ、“大きく捉えてJ-POP”というところはずっと変わってなくて。その点において自分の感覚がブレるのは良くないと思うけど、今のところ、そういうこともなさそうだなと(笑)。これからも“聴いてくれる人がいるから続けられる”という気持ちを持って、自分たちがいいと思える音楽を作っていきたいと思います。
(文/森朋之)