ユーロビート界の重鎮・DJ BOSSが語る DA PUMP「U.S.A.」ヒットの秘訣

 ユーロビートのコンピレーションアルバム『SUPER EUROBEAT』(以下SEB)シリーズ。その250作目となる『SUPER EUROBEAT VOL.250』が発売される。SEBシリーズの集大成とも言える本作は3枚組。同シリーズのプロデュースを手がけてきたDJ BOSSにユーロビートシーンと“パラパラ”、昨今のDA PUMP「U.S.A.」のヒットを語る。

パラパラは、みんなで一緒に踊るというスタイルが日本人に合っていた

 同シリーズのプロデュースを手がけてきたDJ BOSSは本作について「ユーロビートの歴史を振り返るような作品」と説明する。
DJ BOSS 今回でSEBシリーズに一区切りを入れることになり、VOL.1から現在までの軌跡がわかる作品にしたいなと。DISC1はエイベックスの創始者であり、ユーロビートを日本で流行らせた立役者である松浦勝人会長にセレクトをお願いしました。DISC2は僕がこれまでのヒット曲、代表曲を選び、DISC3には浜崎あゆみ、Every Little Thingなどの楽曲のユーロビート・リミックスを収録。懐かしさを感じてもらいつつ、ユーロビートの魅力を味わえる内容になっていると思います」

 1990年に発売された第1作以来、28年に渡って続いてきたSEBシリーズ。ユーロビートがここまで日本で受け入れられたのは、「きらびやかなシンセのリフ、ノリやすい4つ打ちのリズム、哀愁のあるメロディーなど、日本人が好む要素が詰まっていた」と言い、ユーロビートの歴史は、同シリーズによって脈々と受け継がれてきた。特に90年前半のユーロビートの流行は、日本の音楽シーンにきわめて大きな影響を与えたと言っていい。
DJ BOSS 90年代に入った頃はジュリアナ・テクノと呼ばれた音楽がヒットしていて、ユーロビートはそれほど支持されていなかった。ところが松浦さんは当時からユーロビートの可能性を見抜いていて“良い曲が多いし、これからの日本のシーンに必要な音楽だから”とSEBシリーズをスタートさせたんです。その後“マハラジャ”を中心にユーロビートのイベントが増えはじめ、一気に火が付きましたね。安室奈美恵 with SUPER MONKEY'Sの「TRY ME〜私を信じて〜」(1995年)、MAXの「TORA TORA TORA」(1996年)などのヒットも大きなきっかけでした。人気アーティストがユーロビートのヒット曲を日本語でカバーしたことで、ユーロビートの魅力がお茶の間に伝わったので。

 ユーロビートを語るうえで欠かせないのが“パラパラ”。ノリのいい4つ打ちのリズムに合わせてステップを踏み、揃いの振り付けで踊る“パラパラ”は1990年代中盤に10代〜20代の女性を中心に大流行。ユーロビートをさらに幅広い層に広げるきっかけになった。
DJ BOSS パラパラはもともと、マハラジャなどのディスコの店員のお披露目のために考案されたものだったんです。それをお客さんがマネするようになったのですが、みんなで一緒に踊るというスタイルが日本人に合っていたこともあり、あっという間に大ブームになりました。当初はサビだけに振り付けがある簡単なものだったのですが、徐々に複雑になり、そのうちに“知らない人は踊れない”という状態に。それがユーロビートの人気を低下させる1つの原因になったかもしれないですね。

 アニメ、ゲームなどと融合し、新たなユーザーを獲得し続けているのもユーロビートの特徴。アニメ『頭文字D』のサウンドトラック、ダンスシミュレーションゲーム『Dance Dance Revolution』にユーロビート系の楽曲が使用されたのは、その好例だろう。
DJ BOSS 特にアメリカでは、アニメ、ゲームからユーロビートに興味を持つ人が多いようですね。ここ数年は日本でも同じような傾向が見受けられます。コスプレイヤーの方がユーロビートのイベントに足を運んでくれることも増えているし、それをきっかけにして“SEBシリーズ”を知る人もけっこういるんですよ。“ユーロビートの総本山はこのコンピだったのか”と。

安室奈美恵やMAXらの“J-EURO”の手法が、現在も有効だと証明したDA PUMP「U.S.A.」ヒット

 一時は下火になったものの、ここ数年、ユーロビートは再び注目を集めている。そのきっかけはやはり、DA PUMPの「U.S.A.」。1992年のユーロビートの楽曲をカバーした「U.S.A.」のヒットは、「TRY ME〜私を信じて〜」「TORA TORA TORA」と共通する、いわゆる“J-EURO”の手法が現在も有効であることを証明した。そのポイントについてDJ BOSSは“現代的にアップデートされたアレンジ”“SNSで拡散したくなるダンス”のふたつの要素を挙げる。
DJ BOSS DA PUMPの『U.S.A.』は確かにユーロビートのカバーですが、EDMの要素を取り入れるなど、いまの若いリスナーが受け入れやすいようにリアレンジされています。ダンスもパラパラではなく、いまのトレンドをしっかり取り入れている。青山テルマがパラパラを踊った楽曲(「世界の中心〜We are the world〜」)もそうですが、1990年代のユーロビートをそのまま持ってくるのではなく、現代のシーンに合わせてアップデートさせることが必要不可欠でしょうね。もうひとつのポイントは、SNS、動画投稿サイトの使い方。「U.S.A.」がこれだけ注目されたのも、10代、20代の女性がダンスをマネして、Tik Tokなどで拡散させたのが大きな要因なので。「ダンシング・ヒーロー」が注目されたのも、登美丘高校ダンス部がバブルの頃の印象で踊ったのがきっかけですし。「U.S.A.」がユーロビートだと知らなくてもいいんですよね。“この曲おもしろいね”“このダンスやってみたい”というところで興味を持って、そのうちの何割かが“これってユーロビートなんだ”とわかってくれたらいいかな、と。こちらから“この曲はユーロビートで”と説明しても、いまの若いリスナーは受け入れてくれないでしょうね。

 少しずつ形を変えながら、30年近くに渡って日本のシーンをサバイブしてきたユーロビート。この先の見通しについてDJ BOSSは「よく“またブームになっていますね”と言われますが、ユーロビートのイベントの動員はそれほど増えていない。いまの好状況をどうつなげるかが大事」と語る。
DJ BOSS ユーロビートの歴史は約30年。ディスコやソウルミュージックのように、そろそろクラシックになっていい時期だと思います。そういう意味でも、ユーロビートの軌跡を振り返ることができる作品(『SUPER EUROBEAT VOL.250』を発売できたことは良かったのかな。若い人たちにどう訴求するか、どうやってイベントに足を運んでもあるかなど課題はいろいろありますが、全国各地でイベントを続けている方々、“SEB”シリーズを求めて続けてくれるリスナ―がいる限り、ユーロビートはこれからも続いていくでしょうね。

(文/森朋之 写真/鈴木かずなり)

提供元: コンフィデンス

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