米津玄師・MISIA…ドラマ主題歌ヒットが続々 復権のカギとは

  • MISIAのシングル「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)」が8/27付オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングで2週連続1位を獲得

    MISIAのシングル「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)」が8/27付オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングで2週連続1位を獲得

 TBS系ドラマ『義母と娘のブルース』主題歌のMISIAの新曲「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)」の先行配信シングルが、8/27付オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングで2週連続首位を獲得したのに続いて、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』の星野源の配信限定シングル「アイデア」が9/10付の同ランキングで2週連続首位を獲得するなど、今期はドラマ主題歌からヒットが相次いでいる。「ラブ・ストーリーは突然に」や「SAY YES」など、テレビドラマ主題歌から数々のメガヒットが生まれた1990年代のように、ドラマと音楽は再び幸福な関係を築くことができるのか? 近年のヒットの傾向から主題歌復権のカギを探る。

2010年以降、ドラマ主題歌発のヒットが減少

 1990年代にダブルミリオンを記録した米米CLUB「君がいるだけで」、CHAGE and ASKA「SAY YES」、Mr.Children「Tomorrow never knows」、小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」、DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」、安室奈美恵「CAN YOU CELEBRATE?」、藤井フミヤ「TRUE LOVE」といった名曲の数々。これらの楽曲に共通するのは、いずれも連続ドラマの主題歌だったこと。アラフォー以上の人であれば、これらの楽曲のメロディーと共に、タイトルバックやドラマの名シーンが浮かんでくるのではないだろうか。

 マーケット規模が縮小しつつあった2000年以降も、MISIA「Everything」、SMAP「世界に一つだけの花」などのメガヒットがドラマ主題歌から生まれている。ところが2010年に入ると、薫と友樹、たまにムック。の「マル・マル・モリ・モリ!」といった例はあるものの、ドラマ主題歌発のヒットは一気に減少する。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年)、『半沢直樹』(2013年/TBS系)といった高視聴率ドラマでテーマ曲に起用されたのはインストゥルメンタルだった。

 ようやく光明が差したのは、星野源「恋」のヒットだ。自身も出演したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年/TBS系)主題歌の同曲は、ミュージックビデオの振り付けを登場人物たちが披露するという形でドラマ演出の一部ともなっており、そのエンタテインメント性の高さから視聴者を巻き込んだ“恋ダンスブーム”を生み出した。

オンデマンド配信やTVer、楽曲配信やサブスク……新たなヒットの指標が定着

 ところでドラマ主題歌ヒットが生まれにくくなった原因の1つとして、視聴者のテレビ離れが指摘される。しかし近年はオンデマンド配信やTVerなど、現代人の生活スタイルに合わせてドラマを視聴できるサービスが普及。リアルタイム視聴率の数字では計れないヒットドラマも増えている。

 一方、音楽業界側もかつてのようなフィジカルによるメガヒットを生むのは難しくなったものの、ダウンロードやサブスクリプションといった新たなヒットの指標が定着。フィジカルに先駆けて先行配信、サブスク開放する施策も主流となった。さらに今年に入ってからは、ドラマ『隣の家族は青く見える』(2018年1月〜/フジテレビ系)主題歌のMr.Children「here comes my love」、ドラマ『トドメの接吻(キス)』(2018年1月〜/日本テレビ系)主題歌の菅田将暉「さよならエレジー」と、ドラマの初回放送と同時に配信リリースするケースも増えている。ドラマの余韻が冷めやらぬ間に先行配信を行い、デジタルならではの施策でロングセールスに繋げるという新たなヒット事例だ。

 一方でドラマ『花のち晴れ 〜花男 Next Season〜』(2018年4月〜/TBS系)主題歌の宇多田ヒカル「初恋」は、初回放送から1ヶ月ものブランクを経て配信リリースされた。この狙いについてTBSの瀬戸口克陽プロデューサーは、「中盤からシリアスな展開になるのですが、それは『花より男子 リターンズ』(2007年/TBS系)の空気と近いものがあり、(『〜リターンズの主題歌も手がけた』)宇多田さんの世界観がぴったりなのではないかと思った」(雑誌『コンフィデンス』2018年4月30日号より)と、ドラマの盛り上がりに合わせた配信タイミングを明かしている。なお同曲は、6/18付オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングで2週連続首位のヒットを記録している。

ドラマと主題歌の本質に迫った制作方法で良質な主題歌を量産

 しかし今年に入ってドラマ主題歌のヒットが続いている根本的な理由は、こうしたシステム面の整備だけではない。今年、ドラマと主題歌の最も理想的な関係が築かれた例と言えば、『アンナチュラル』(18年1月〜/TBS系)主題歌の米津玄師「Lemon」だ。同ドラマを手がけたドリマックスの新井順子プロデューサーは「かなり時間をかけて制作していただきました。1話の仮編集が終わり、劇伴音楽も入った状態の映像も観ていただいて、『このタイミングで、ここに曲が入ります』という説明もしました。そこで1回出来上がったものをさらに練り直していただいて、主題歌の『Lemon』が完成しました」(雑誌『コンフィデンス』2018年3月5日号)と明かしている。ドラマの展開をより印象的なものとした同曲は、配信だけでなく、フィジカルシングルも好セールスを記録、2018年上半期のドラマ主題歌最大のヒットとなっている。

 また、今期のドラマ主題歌ヒットとなった「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)」を歌うMISIAは、ドラマ『義母と娘のバラード』について「脚本を読んで、とても心が揺さぶられました。こんな素晴らしいドラマが今の時代に必要だと思います。アイノカタチは人それぞれだけど、愛することは素晴らしい。たくさんの“アイノカタチ”に寄り添い、大切な人に『あのね大好きだよ』と伝えるお手伝いができるよう、心を込め歌いました」と特設サイトでコメントを寄せている。

 そして星野源の「アイデア」も、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』のために書き下ろされたもの。星野はドラマで描かれる物語と同様に、明日へのパワーの源となるような力強い同曲が生み出された背景を、「星野源としてやってきたこと、もっと言えばSAKEROCKの時からやってきたこと。そして『YELLOW DANCER』以降、作ってきたイエローミュージックというもの。すべてを含み、すべてを越え、すべてを壊し、未来に進むパワーを持つ楽曲、そんなものを作りたいと思いました」と語る。米津玄師を始め、MISIA、星野源ともに、ドラマの世界観に寄り添った楽曲制作が行われた。

 一時期、ドラマ主題歌からヒットがなかなか生まれなかった原因。それは“タイアップ=ヒット”という図式に頼るあまりに、ドラマと主題歌が乖離していたからではないだろうか。たしかにタイアップには一定の効果がある。しかしそれも、ドラマと主題歌の世界観が絶妙に噛み合っていてこそ。今年の主題歌ヒットの傾向からも、ドラマと主題歌の本質に改めて気づいた制作者が増えていることがドラマ主題歌の復興につながっていると推察できる。幸福な関係で結ばれたドラマと主題歌は、「一粒で二度おいしい」ヒットを生む。そしてそれは、エンタテインメントを堪能したい我々視聴者にとっても喜ばしいことでもある。

[18年9月10日号 雑誌『コンフィデンス』より]
(文/児玉澄子)

MISIAの「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)」ミュージックビデオ

星野源の「アイデア」ミュージックビデオ

提供元: コンフィデンス

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