固定概念に囚われない自由さの魅力 “女性ラッパー”時代の到来
若年層を中心に一般化しつつある新たなラップ文化
翻って日本では、「今夜はブギー・バック」や「DA.YO.NE」といった90年代初頭の大ヒットを起点として、ポップス曲にラップを盛り込むことが一般化。一方でRHYMESTERやBUDDHA BRAND といった本格的なラップアーティストも多数活躍した。さらに1999年には「Grateful Days」(Dragon Ash featuring Aco,Zeebra)が大ヒット。2000年代のKICK THE CAN CREWやRIPSLYMEといったポピュラリティのあるアーティストの活躍に繋がっていく。
ところが2000年代中盤以降、日本のメインストリームにおけるラップ/HIP HOPの勢いは急速に衰えていく。これは音楽業界全体の売上低下に伴うものでもあるが、それだけではなく、ラップ/ HIP HOPというジャンルの出自であり、また魅力の一端でもある「不良性」が一般にも浸透し、「いかにもわかりやすい悪そうなラッパー」のイメージから、大衆の心が離れてしまったことも原因として考えられる。
かくしてラップ/HIP HOPというジャンルを追求するアーティストはアンダーグラウンドでしのぎを削るようになり、日本の音楽シーンもグローバルのトレンドと、大きく乖離していった。この状況を打破したのが、2015年から放送されているEX系『フリースタイルダンジョン』だ。対戦者同士が即興ラップで罵り合うフリースタイルバトルのリアリティショー的な生々しい面白さはもちろん、よどみなく繰り出される即興ラップのスキルも視聴者を魅了。重要なのは、この番組を通して地上波という大衆性のあるメディアで放送され、人気を得たという点だ。
また同番組に先立つ2012年より、BSスカパー!のバラエティ番組『BAZOOKA!!!』の企画で開催されている
「高校生ラップ選手権」も、ラップ/HIP HOPを浸透させた功績は大きい。等身大の言葉で思いを表現する高校生ラッパーたちのまっすぐさは同世代の共感を呼び、今や“フリースタイルバトルの甲子園”として定着している。
型にはまらない表現の自由さも若い世代を惹きつけ、学校の放課後などに友だち同士で輪になり、そのときの感情や思いをラップで披露し合う「サイファー」に興ず光景も、今や全国に波及している。近年はトヨタ自動車の「実写版・ドラえもん」や、菅田将暉出演の「ファンタ」、桐谷健太出演の「ケンタッキーフライドチキン」など、ラップを盛り込んだCMも目立つ。リズムに乗せてキャッチーにメッセージを伝えるという手法は、たしかにCMとの親和性が高い。
他ジャンルと積極的にコラボする女性ラッパーが続々
その点では女性ラッパーは柔軟で、近年の例でも、あっこゴリラ×向井太一や、DAOKO×米津玄師といった、ジャンルを超えたコラボレーションが活発化。振り返ってみれば「今夜はブギー・バック」や「DA.YO.NE」も他ジャンルとのコラボによる成功例である。また、“女子高校生ラッパー”として話題となったちゃんみなは、頻繁に地上波のバラエティ番組に出演。請われればフリースタイルを披露することもあり、音楽以外からの入り口も広げている。
昨年1月には、プラチナムプロダクションが主催する女性ラッパーを対象としたMCバトル大会『CINDERELLA MC BATTLE』を開催。初代グランプリをあっこゴリラが獲得している。今年12月には第3回大会本選の開催が決定しており、新たな才能あふれる女性ラッパーの出現が期待される。
長らく日本の音楽シーンは、世界のトレンドとは異なる独自の発展を遂げてきた。それは良い面もあるが、一方でグローバル市場で勝負しにくいという弱点ともなっている。日本におけるラップ/HIP HOPのメインストリーム化は音楽シーンをバリエーション豊かなものにするとともに、世界で活躍できるアーティストの誕生にも寄与することは間違いないはずだ。
(文/児玉澄子)
[18年7月23日号 コンフィデンスより]