カズ共演CMで話題のbanvox、HIP HOPが人気な理由を語る
HIP HOPが人気な理由は、ポップスと上手に融合したからだと思う
banvox 僕自身、2018年は“ダンスミュージックを作らない宣言”をしてるんです。もともと僕はジャンルにこだわって曲を作ってきたわけじゃなくて、ただ最初にバズッたのがダンスミュージックシーンだったので、たまたまそういう活動が多くはなっていましたけど、そこに縛られる必要はないなと。それよりも自分が好きで作っている音楽を1つのシーンだけでなくて、もっと多くの人に届けることを考えていきたいんです。
──たしかに、ワールドヒット=「多くの人に届いた」楽曲。そして今回のプレイリストにはHIP HOPが目立ちます。
banvox やっぱり今、世界で一番聴かれているジャンルだし、僕も大好きということもあって。HIP HOPがこれだけ多くの人に受け入れられたのって、マニアックなシーンに止まらずに、ポップスと上手に融合したからだと思うんですよ。一方で『Shape of You』にも、言葉の詰め方とかビートとか、明らかにHIP HOPの系譜が感じ取れます。クリエイター目線で分析すると、今回のプレイリストにも入れたN.E.R.D &リアーナの「Lemon」のビートをもっとスローに、歌をもっとメロディアスにしたのが、「Shape of You」だと思うんですよ。
──曲の構造的に、ワールドヒットは必然だったということでしょうか。
banvox 頭で構造を理解しなくても、感覚的に「この曲いい!」ってなりますよね、きっと。そういう計算がすごくなされている楽曲だと思います。たぶんエド・シーランは、世界的なサウンドのトレンドを取り込むことで勝負に出たんじゃないかなと思います。これまでの彼の音作りのスタイルとは、まったく発想が違いますから。
──ちなみにプレイリストには入ってないですけど、昨年大ヒットしたルイス・フォンシの「Despacito」が、YouTube史上最も再生された楽曲となったそうですね。
banvox あれも絶対にヒットさせるために作った曲だと本人たちがコメントしてました。曲の構造としてちゃんと計算したってことですよね。その後、メジャー・レイザーが新譜でJ・バルヴィンやショーン・ポールといったラテンやレゲトンのアーティストをフィーチャリングしてたのも、「Despacito」のヒットと関連があるんじゃないかなと思います。世界的に受け入れられているサウンドの潮流を取り込んだという意味で。
ただ、「Despacito」があれだけヒットしたのは、もちろん楽曲もいいけど、すごくデリケートな話をすると人種的な背景も大きかったと思うんです。ラテン系の人たちがルイス・フォンシを「俺たちのヒーローだ、リーダーだ」と認めて、その熱狂的な支持を引き金に広まって、それでやっぱり曲がいいからやがて世界的にヒットして──という流れだったんじゃないかと。
──曲の良さは大前提で、ヒットするにはいかに共感を呼ぶかが重要ということでしょうか。
banvox そうだと思います。だから「Despacito」って世界的にはあれだけ売れたけど、日本ではYouTubeとかで聴いてる人はたくさんいても、楽曲として買った人はあまりいなかったと思うんです。ラテン的な背景にあまり共感がないですから。結局、どんなに曲がよくてもそのアーティストを好きにならなければお金を払わないという傾向は、世界的にもますます強くなってると思います。
日本でも“若者の洋楽離れ”とか言われますけど、その点は不利ですよね。今の若い子って行動力があるから興味があったらどんどんライブに行ったりするけど、洋楽だとそういうわけにもいかないし、そもそも好きになる要素が薄いんじゃないかな。そのアーティスト自身の人間味を感じる機会が少ないですから。Instagramの見せ方が上手なテイラー・スウィフトなんかは、日本の女の子にも熱狂的なファンがたくさんいますよね。
世界で挑戦するには、名刺代わりのヒットが必要
banvox テレビってやっぱり影響力がすごいなと思います。僕も今回、リポビタンDのCMに出させてもらったんですが、けっこう「banvoxって普通にしゃべるんだ」「動くんだ」という反応が多くて(笑)。僕の名前とか曲とかは知ってる人にも人間味はあんまり感じてもらえてなかったんだなと、そこはすごく課題に感じました。
──昨年はアメリカツアー、アジアツアーを展開したりと世界的に活躍されてますが、それでも国内の反応は意識しますか?
banvox 逆に世界で活動してきたからこそ、強く意識するようになったんです。アメリカツアーのとき、出演者用の入口で「子どもはこんなとこ来ちゃいけないよ」って止められたんですよ。しかもお酒NGのスタンプを押されて(苦笑)。
──やっぱりアジア人は若く見えるんですね。
banvox でも、つまりは音楽として楽しんでくれてはいても、“人”としては知ってくれてないわけですよね。一方でアジアツアーではマレーシアで『大好き!』と抱きつかれたりと、アジア人同士だけに人として共感というか親近感を持ってくれてるのかなと感じた場面がたくさんありました。でもやっぱり一番リスナーに近いのは日本であって、ここで人間味を感じてもらえる活動をしないのは、音楽を作っている人間としてもったいないなと気づかされたんです。
──リポビタンDのCMに使用されている楽曲には、banvoxさんとしては初めてご自身の歌を全編に盛り込んでいます。これも人間味という点に通じるのでしょうか?
banvox そうですね。僕はこれからも、世界各国で活動したいと思ってます。だけど一番身近な日本での支持を厚くしないことには、世界に出ても結局は“日本から来た一アーティスト”で終わってしまう。ようは名刺代わりのヒットが必要なんです。それを自分の好きで作ってる音楽で実現するためは、ポップス+αのいろんな要素を融合させた音楽で、かつ“顔”が見える活動をすること。それが今年以降の僕の活動テーマだと思っています。