日本でのカバーや共演を熱望する台湾の国民的スター、クラウド・ルー

 台湾で絶大な人気を誇るシンガー・ソングライター、クラウド・ルーが8月末に5枚目のアルバム(日本発売は3枚目)『What a Folk!!!!!!』のプロモーションのために来日した。来日中はインストア・ライブを精力的にこなし、J-WAVE「JK RADIO TOKYO UNITED」では、マイケル・ジャクソンの「マン・イン・ザ・ミラー」のアコースティック・カバーを披露。Twitterには「すごい」「神業」といった興奮の声が次々と流れた。
 1985年台南生まれのルーは「大学1年のときに交通事故に遭い、入院中にギターを覚えて曲を書くようになった」という。歌うことは子どもの頃から好きで、今は「台湾のごく普通の生活をシンプルに」に歌う。それが若者たちの共感を呼び、これまで発表したアルバムはどれも大ヒット。台湾では1万人規模のアリーナでコンサートを開いている。

 しかし、「流行に乗ることはしない。自分をしっかり持って表現しきることが大事」と自分の音楽性を守り、実は流行の移り変わりが早い(何せ小さな島で瞬く間に浸透するから)台湾に於いて、しっかり根をおろした音楽活動を続けている。

 最近は連続ドラマに主演。「田舎から出てきた何をやっても失敗してしまう男の子」を演じ、さらに人気が爆発。60代、70代と年配のファンも増えているとか。日本のインストア・ライブにもやはり年配の女性客が来ていたそうで、ルー自身は「どうやって来たんだろう?」と不思議がっていたが、なんだか分かる気がする。なぜなら彼の音楽はどこか懐かしい風景が見えてくる抒情的なもの。よく台湾の秦基博とも星野源とも評され、台湾映画の名匠・ホウ・シャオシェンが描くような、昭和の日本を思わせる景色が浮かぶからだ。
  • クラウド・ルーの5thアルバム『What a Folk!!!!!!』。日本語歌唱によるボーナストラックが収録された日本盤が8月23日に発売された

    クラウド・ルーの5thアルバム『What a Folk!!!!!!』。日本語歌唱によるボーナストラックが収録された日本盤が8月23日に発売された

 インストア・ライブに来た60代の日本女性は台湾旅行が好きなのかもしれない。ルーの音楽に、台湾そのものを重ね見ている気がする。彼もそれを自覚し、「僕は歌詞よりメロディーを大切にしていて、その端々には台北や台南の影が潜んでいるから、僕の曲を聴いて台北や台南に行ってみたいと思ってもらえたら嬉しい」と言う。台湾を愛する多くの日本人が求める――どこか懐かしい風景が広がり、穏やかな空気が流れ、優しく包み込む台湾の姿が、彼の音楽にはある。

 90年代のフェイ・ウォンに代表される中国語圏ポップス人気も今は下火だが、台湾観光の人気は非常に高く、7月にも雑誌『BRUTUS』が台湾特集を組んだ。台湾旅行に興味を抱く人たちに、ルーの音楽は訴求していく力は十分なはずだ。
 そんな彼の音楽に潜む郷愁は、実は幼い頃に父と聴いた「台湾語で歌われた日本の演歌」が理由かもしれない。「子供の頃、演歌を台湾語でカバーしたものがラジオからよく流れてきて、今でも歌えますよ」と言って懐かしい曲を口ずさむ。これぞ演歌!というメロディーの曲名は分からなかったが、「それをカバーしてみたら?」と提案すると、「アコーステイックで台湾語カバーをしてみたい」と興味津々でノッてきた。古き良き台湾の空気をまとった音楽性でカバーする日本の演歌、想像するだけで素敵だ。耳にすることが減った中国語のポップスがまた日本でブレイクするには、そういうカバーが入口になるかもしれない。と同時に、日本の歌が台湾で再発見されることにもつながるのでは?と期待が膨らむ。

 さらにルーは、「日本のシンガー・ソングライターと日本や台湾で一緒にライブをやりたい」と希望し、来日中には「くるり」とも親交を深め、共演を約束した。実現すれば、ルーの日本での活動にプラスになるだけでなく、逆に日本のアーティストが中国語圏で注目を集めるきっかけになる。事実、くるりのラジオ番組にルーが出演したことは、台湾の新聞がすぐに取り上げた。大がかりなプロモーションがなくても、地道なライブでの共演はアジア圏のアーティストたちの新たな市場開拓になるはずだ。

(文/和田静香)

提供元: コンフィデンス

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