• ホーム
  • スポーツ
  • 長友のいないサンシーロは寂しい。インテリスタが嘆くユートとの別れ。

長友のいないサンシーロは寂しい。インテリスタが嘆くユートとの別れ。

あっという間にチームに溶け込み、キャプテンマークを巻き、長友佑都は走り続けた。インテリスタは彼を決して忘れないだろう。

長友佑都はもうサンシーロにいない。
小さなジャッポネーゼは、冬の移籍市場最終日にインテルからトルコの強豪ガラタサライへの移籍が決まり、イスタンブールへと旅立った。
今年創立110周年を迎えるインテルのクラブ史上、1試合でも出場記録を持つ選手の数は900人以上に上る。
7年前、連綿と続くネラッズーロ(黒・青)の潮流に加わった長友は、歴代49番目に相当する総出場数210試合を積み重ねた。世界中の同業者相手に誇れる数字だ。
足かけ8シーズンもの間、監督やオーナーが代わっても、長友はずっとインテルの一部そのものだった。
2011年1月、移籍市場最終日の土壇場で決まったインテルへの電撃移籍は、まさに驚天動地のインパクトをもたらした。
半年前に昇格組チェゼーナでセリエAデビューしたばかりの日本人DFが、クラブW杯を制したばかりの世界No.1クラブへ大出世したのだ。

ビッグクラブの入団会見から、ハートは強かった。

「目標はここ(インテル)で試合に出て、クラブ世界一になること。そして個人的には世界一のサイドバックになりたい」
上を目指して、とにかく突っ走る。ちょうど7年前、入団会見で長友はまっすぐに断言した。聞いた瞬間、長友から“皆でいっしょに大きな夢を見ようぜ”と投げかけられた気がした。
欧州の辺境国や南米出身選手はもちろん、イタリア人の若手でもインテルのような権威あるビッグクラブに入団ともなれば、萎縮したり気後れしたりすることは珍しくない。なのに、わずか数カ月前までJリーグでプレーしていたはずの長友は、入団会見で「スクデット獲得は義務」とまで言い切った。そのハートの強さに驚かされた。
悔しいことに、長友はついぞスクデットを獲得することはなかった。初年度に戴冠したコッパ・イタリア以降、インテルはあらゆるタイトルから長く遠ざかっている。

長友が内田に言った「俺はあきらめないよ」。

悔しいことに、長友はついぞスクデットを獲得することはなかった。初年度に戴冠したコッパ・イタリア以降、インテルはあらゆるタイトルから長く遠ざかっている。
山あり谷ありだった在籍期間を振り返ると、長友のピークは2度あったように思う。
1つ目は、入団から出場6試合目のセリエA初ゴール、それからシャルケDF内田篤人(現鹿島)とのCL対決へと至る2011年の春だ。
長友は、観る者の理解が追いつかないほどのスピードで急成長を続けた。
東日本大震災のショックも未だ冷めやらぬ4月初旬、CL準々決勝でシャルケと対戦したインテルはサン・シーロでの初戦を2-5で落とした。敗退ほぼ不可避の重い敗戦だったはずなのに、試合後のミックスゾーンで長友の芯の強さを見た。
気丈に振る舞いながら「あきらめないよ。なに勝負はもう決まったような顔してるんだよ。俺はあきらめないよ」と内田に突っ込んだ、軽妙なやり取りはきっと一生忘れられない。

思想も戦術も母国語も違う10人の監督との関係。

2つ目のピークは、智将マッツァーリ(現トリノ)の指導を受けた'13-'14年シーズン、とりわけ攻撃面が開花した前半戦だろう。
“メッザーラ”と呼ばれる左サイドハーフにポジションを上げ、チャンスを作り、5ゴールを上げた。インテルの左サイドには、確かにナガトモという名の永久機関が存在した。シーズンが終わったとき、長友はローマDFベナティア(現ユベントス)と並んで、リーグ最多得点DFになっていた。
誰もが羨むビッグクラブにいたとはいえ、通算8シーズンの間、逆境はつねについて回った。右肩の脱臼や左膝の半月板と靭帯損傷など、長期欠場につながるケガに度々見舞われた。
だが、長友が本当に凄かったのは“内なる戦い”に勝利し続けたことだと思う。
1年目のレオナルドから今季のスパレッティに至るまで都合10人に及ぶ、思想も戦術も母国語もまったく異なる監督たちの指導に適応しようと、ハードワークを怠らなかった。

インテルはサイドバックを補強し続けた。

夏と冬には必ずといっていいほど、自らのポジションを脅かすライバルが次々にやってきた。
長友以降に加わったインテルのサイドバックをざっと挙げてみる。
'11-'12年 ジョナタン(サントス)、フアン・ジェズス(インテルナシオナル)
'12-'13年 ペレイラ(ポルト)
'13-'14年 ダンブロージオ(トリノ)
'14-'15年 ドド(ローマ)
'15-'16年 モントーヤ(バルセロナ)、テレス(ガラタサライ)
'16-'17年 アンサルディ(ジェノア)
'17-'18年 カンセロ(バレンシア)、ダウベルト(ニース)
※()内は前所属先
チームが芳しくない順位に終わる毎に、識者や現地メディアは「サイドバックが補強ポイントだ」と声高に叫び、クラブは大枚はたいて新戦力を買い集めた。
とりわけ南米王者ウルグアイ代表として鳴り物入りでやってきたペレイラや、チーム刷新を目論んだ指揮官マンチーニが獲得させたモントーヤとテレスへの期待は相当なもので、長友が抱いた危機感も大きかったはずだ。
移籍金額と実績、フィジカルや経験で上回るライバルが毎年やってくる、そのプレッシャーたるや想像もつかない。ようやくレギュラーをつかんだと思っても、決して安堵することは許されない。
出入りの激しいFWならいざ知らず、これほど厳しいポジション争いを7年もの間強いられてきた日本人DFは、長友をおいておそらくいないだろう。

最後には皆、長友に走り負け、蹴落とされた。

だが、彼はいつだって「それがビッグクラブの宿命でしょ」と事も無げに言った。笑顔とともに。
シーズンの初めこそ先発に名を並べたライバルたちは、最後には皆、長友に献身性で劣り、走り負け、蹴落とされた。相手のサイドアタッカーへしつこく食らいつき、封じきってしまう密着マークは、長友以外誰にもできなかった。
モントーヤはたった半年でスペインへ出戻り、テレスも後ろ盾だったマンチーニの解任とともに1年でインテルを去る羽目になった。1年半いたペレイラは、今プレーしているパラグアイでずいぶんと肉付きが良くなっている。

今も長友の能力は衰えていないが、監督は……。

今季、総額2600万ユーロで獲得された7歳年下のダウベルトと長友は開幕から先発の座を分け合ってきた。ポジション争いにはかつて期待の若手だったサントンも加わった。
三十路になったとはいえ長友の能力は年下の2人に決して劣っていない。しかし、この冬に入るあたりからの起用法からして、中長期的視野でのチーム作りを好む指揮官スパレッティは、クラブが大枚はたいたダウベルトを一人前に鍛え上げるため、今後も彼を辛抱して使い続けようと考えているフシがある。
何度かあった移籍話を断ってきた長友だが、今回ばかりはロシアW杯に向けて継続的にプレーできる環境を望んだ。
「インテルを愛しています」
取材のICレコーダー向けでもSNS上でも、日本人には言いにくい表現を照れなくくり返してきた男だけに、移籍決断は断腸の思いだったろうと思う。

7年間の取材記録に目立つ「日本」の文字。

7年間の取材記録を読み返してみた。
ミックスゾーンでは代表関連の質問が飛ぶことも多いせいもあるだろうが、長友にはやたら「日本」を強調した発言が多いのにあらためて気がついた。
「日本のサッカーを引っ張っていかなきゃならないし、こういう世界一の素晴らしいチームで経験積んで、日本に貢献したいっていう気持ちが強いです」('11年2月4日、入団会見)
「こういう厳しい環境、厳しいリーグでプレーするのは本当に難しいと思うんですよね。(中略)ミラノ・ダービーで日本人が対決できるっていうのは、今までの日本のサッカーの歴史では考えられなかったことだと思う。そういう道を僕たちがどんどん切り開いていきたい」('13年12月15日、本田圭佑のミラン入団報道を受けて)
今でこそフル代表に選ばれる前に欧州挑戦する若手は珍しくなくなり、まず「自分は」と強調する選手が増える中、長友は徹頭徹尾、日本を背負う覚悟を口にしてきた。
ファッションが垢抜け、「アモーレ」が流行語になっても、彼は日本男子としての心意気をもってカルチョの国でのし上がっていったのだと思う。

インテリスタは長友の放出を理解できずにいる。

今回のトルコ行きはあくまでレンタルだから、今シーズン終了と同時に長友は形式上、一度インテルに戻ることになる。
だが、トルコリーグで活躍し、ガラタサライが「是非来季もうちで!」とインテルに掛け合うのなら、それはそれでサッカー選手冥利に尽きるのでは、とも思う。
移籍市場が閉まった後の初戦、長友のいないインテルは残留を争うクロトーネに1-1で引き分けた。
リードして迎えた後半、気の抜けたシュートブロックしかできず、相手MFバルベリスにみすみす同点の一撃を許したのはDFダウベルトだった。ローマ勢に挟まれた4位争いを戦い抜くのに、左サイドの守備がダウベルトとサントンでは心許ないのは明白だ。スパレッティ監督は「今のうちは何と弱くなってしまったのか」と頭を抱えている。
MFラフィーニャとDFリサンドロ・ロペスを獲っただけで期待外れに終わった今冬市場の後、インテリスタたちはなぜ長友が放出されたのか、今も理解できない。
長友放出の一報が出た後、インテリスタたちは次々に惜別の声を並べた。特に印象に残った激励があった。
「あれほど愛したインテルを出ていくんだ。ユート、ロシアW杯で男になってみせろ!」
セリエAで揉まれた長友なら、熱狂で知られるトルコリーグにも順応できるはずだ。
インテルの熾烈な戦いは続く。長友のいないサン・シーロはやはり、少し寂しい。

提供元:Number Web

オリコントピックス