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【クック諸島滞在記】第6回 週末の過ごし方 その2

土曜日はマーケット。そして翌日曜日は教会に行くのが、クック諸島の週末の過ごし方である。クック諸島の大半の人は敬虔なクリスチャン。人々は毎週日曜日の午前中は正装をして教会に集まる。正装と言っても、女性が身につけているのはハイビスカスの花やパンノキの葉などがデザインされた色鮮やかなアイランドドレスである。頭には貝殻をあしらった帽子を被り、その日の朝に庭で摘み取った色とりどりの花を添える。ふくよかな人々が色とりどりの服装で古い木造の教会に集まる様子は、それだけで絵になる。

教会の背後には雨をたっぷり吸って瑞々しい緑を湛えた山々が見守り、真っ白な熱帯鳥が吸い込まれそうな青い空を切り裂くように飛んでいる。耳を澄ませば波が砕ける音が響き、花々は燦々とした太陽の光を反射して輝く。まるで世界に祝福されたような光景である。

教会内に入ると、人々は席に着き、歌が始まる。どのような決まりがあるのかわからないが、誰かひとりが歌い始めると、それに合わせてまわりの人が声を重ねていく。その大きな体がから生み出される声は、男性も女性も太くて重いのにも関わらず、そこに濁りはなく、透明感に満ちているのが不思議である。歌は徐々に教会の内部の隙間を埋めていき、空間を満たしていく。木造の教会は歌を柔らかく反響する効果があるのか、心地よい振動が体に伝わってくる。そこにいる人間は、まるで歌の海にたゆたっているような気分になってくる。何か考えようとしても、すべての思考は歌に支配される。彼らが暮らす島の風景。海の青さ。鬱蒼とした森の生命力。さまざまな情景が頭の中に歌として流れ込んでくる。

しばらくして歌が終わると、牧師がマオリ語で話し始める。クック諸島では公用語は英語だが、教会ではマオリ語が使用されることが多い。人々は静かにその話に耳を傾ける。いつもは陽気な人々は、このときばかりはおとなしい。祈りを捧げ、心のなかで告解をし、自身に向き合う。週に一度、祈りの時間を持つことによって、人々は自身を見つめ直す。

しかしながら、キリスト教はこの島の土着の信仰ではない。クック船長が到来した1773年以降、西洋からの訪問者によってもたらされ、改宗された結果である。もともとはマオリの文化があり、自然を崇拝するアニミズム的な信仰がそこに存在していた。それはいまも残っており、島民は教会に行き、十字架を自身の墓に立てるが、同じようにマラエと呼ばれる神聖なる岩の遺跡の前で祈りを捧げる。

ちなみに、日曜日はキリスト教の安息日。人々は労働することは良しとされていない。自宅にいたとしても掃除や洗濯をしてはいけないことになっている。といっても、クック諸島の人は平日からふらふらと仕事をせずに暮らしている人も結構いるので、毎日が安息日のようなものなのだが。

また週末はお酒の販売も禁止である。なので、教会に行ったあとはすることはない。そこで人々は海に行く。パンダナスの葉で編んだマットを浜辺に広げ、大人も子供も巨大なアイスクリーム片手に浜辺でゴロゴロと転がるのだ。日曜日にあくせくと島をうろつきまわっているのは、外から来た人間だけである。ちなみにラロトンガ島には、たくさんのトレッキングルートがあり、山歩きを楽しむことができるのだが、運動が嫌いなクック諸島の人々が意味も無く山を登ることはまずない。島に流れる時間に身を任せ、のんびりと過ごすのが正しい日曜日の午後の過ごし方なのである。

郷に入れば郷に従え。私もこの日ばかりは、怠惰な一日を過ごすことにしたのだった。

次回に続く。

写真・文 竹沢うるま

(プロフィール)1977年生まれ。写真家。 ダイビング雑誌のスタッフフォトグラファーとして水中撮影を専門とし、2004年よりフリーランスとなり写真家としての活動を本格的に開始。2010年〜2012年にかけて、1021日103カ国を巡る旅を敢行。写真集「Walkabout」(小学館)と対になる旅行記「The Songlines」(小学館)を発表。2014年第三回日経ナショナルジオグラフィック写真賞受賞し、2015年に開催されたニューヨークでの個展は多くのメディアに取り上げられ現地で評価されるなど国内外で写真集や写真展を通じて作品発表。世界各地を旅しながら撮影をし、訪れた国と地域は145を越す。近著にチベット文化圏をテーマとした写真集「Kor La」(小学館)や「旅情熱帯夜」(実業之日本社)がある。

提供元:BE-PAL

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