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「Excelが固まった」 14万件のデータ、手作業でまとめ……神社・お寺の口コミサイト「ホトカミ」の挑戦

寺社とコンビニの数(「ホトカミ」のWebサイトより)

日本国内のお寺や神社の数とコンビニの数。どちらが多いか、ご存じだろうか?

実は寺社の方が、コンビニの3倍もあるのだ。

文部科学省の「宗教年鑑 平成28年度版」によると、全国の神社・寺院の数は合計約16万。コンビニの総数約5万5000の3倍近い。

数だけ見ればコンビニより身近なはずの寺社だが、「コンビニの3倍、寺社を訪れている」という人はあまりいないだろう。お寺の檀家や神社の氏子も減っており、2040年には寺社の4割が消滅するとも言われている。

「寺社が消滅すると、その町の文化や歴史、地域のつながりも失われてしまう」――こんな危機感を抱き、立ち上がった若者がいる。寺社の口コミ投稿サイト「ホトカミ」を運営するベンチャー企業・DO THE SAMURAI代表の吉田亮さん(27)だ。

ホトカミは、神社やお寺にお参りした記録を、写真とともに投稿できるサイト。寺社の名前や住所(寺の場合は宗派も)を14万4000件も収録した。著名な寺社だけでなく、町中にある中小の寺社まで網羅し、その数は「日本一」を自負している。

ユーザー登録すれば、寺社で撮った写真やお参りの思い出などを投稿できる。「本堂が立派」「お祭りが楽しかった」といった感想から、「池に亀がたくさんいた」などちょっとした情報、御朱印の写真など、ガイドブックや公式サイトには載っていない生の声が寄せられており、今年4月のオープンから半年で7000投稿を超えた。

14万超の寺社のデータを1人でExcelにまとめ、寺社ならではの事情に配慮し……「寺社口コミサイト」という前代未聞の取り組みは、試行錯誤の連続だった。

寺社と人の「ご縁」、Webでつむぎたい

NHK大河ドラマ「利家とまつ」にハマったことがきっかけで、小さいころから歴史が好きだった吉田さん。東京大学在学中には寺社や史跡のツアーを主催したり、歴史を面白く語る楽曲を自作し、イベントやライブハウスなどで披露してきた。

活動の中でよく、こんな相談を受けたという。「実家のお寺を継ぐ人がいなくて困っている」「檀家さんが減ってしまって経営が苦しい」「うちの神社のお祭りが縮小し、参拝者も減っている」――。その一方で、吉田さんが主催する寺社や歴史ツアーは毎回、満員御礼状態。「お寺や神社にもっと行きたい」という人の多さも実感していた。

このギャップを解消し、寺社を応援できないか――寺社の口コミサイトを発案したのは、こんな思いからだ。「食べログ」の評判を見て、その店に訪れる人が増えるように、寺社の口コミサイトを作れば、寺社を盛り上げられるのでは――と考えた。

「来てほしい寺社と行きたい人の“ご縁”をつむぐことができれば、両方ともめっちゃうれしい。その結果、神社やお寺が将来も残っていけば、未来の人もうれしいはず。僕はこれに賭けよう」

14万件の寺社情報、3カ月かけ整理 「Excelが固まった」

サイトを作り始めたのは昨年10月ごろ。まず、寺社名や住所といった基本情報を手作業で集め、データベース化していった。

「神社やお寺のリスト、持っている人はいませんか?」――TwitterやFacebookでこんなふうに声をかけ、寺社マニアなど多くの人からリストを提供してもらった。集まった寺社情報は14万4000。「当時はデータベースの知識がなかったので」手作業でExcelにまとめた。1人きりで、3カ月かかったという。

入手したリストはほとんどがCSV形式。MacbookのExcelで開くと「めっちゃ文字化けした」と笑う。WindowsのExcelやMacの表計算ソフト「Numbers」で開いてみるなど、あらゆる手段を試して整えていった。

全データを1つのシートにまとめるのも大変だった。「Excelって、1万行ぐらいコピペすると固まってしまうんです。1回コピペするにも3分ぐらいかかるので、読書しながらコピペしたりしていました」

ようやくまとめ終わると、エンジニアに頼んでデータベースに登録し、サイトに実装していったが、また問題が起きた。登録した情報を基にGoogle Mapで位置を取得すると、3万件もエラーが出てしまったのだ。

一部のデータが古く、市町村合併などで住所が変わっていたことが原因だ。「どうすれば」……解決策は意外なところに転がっていた。「年賀状ソフト」だ。

年賀状ソフトには、旧住所を新住所に変換する機能が備わっている。ただ、大量に同時入力処理すると処理が追いつかず固まってしまうので、「2000件ぐらいずつに小分けして変換しました」。

歴史や寺社の知識もフル活用してデータを整理した成田山新勝寺の「成田山」など「山号」をどう扱うかや、高野山金剛峯寺の「奥の院」など、大きな寺社の中に小さな寺社が含まれている場合どう分けるか――など、歴史の知識を総動員して判断していったという。

データベース構築などバックエンドはエンジニアの友人に頼んだが、フロントエンドは自分で書いた。プログラミング経験はなかったが、本やWebサイトを使って4日間集中的に勉強し、だいたい身につけたという。

「カミホト」か「ホトカミ」か……寺社サイトならではの配慮

配慮したことも多い。サイト名の「ホトカミ」は「神社」の神様を表す「カミ」、「お寺」の仏様を表す「ホト」の組み合わせだが、その順番にも悩んだ。「カミホト」だと「神フォト」にも聞こえてしまうと考え「ホトカミ」にしたが、説明文では「神社・お寺の投稿サイト」と逆順にすることで、平等になるよう配慮した。

寺社を評価する機能は避けた。神職・住職など寺社の関係者は、点数などで評価されることに抵抗が強い。一般ユーザーが知りたいのは、寺社の雰囲気や参拝の可否などであり、評価ではないとも判断した。

場が荒れないための工夫も施した。ホトカミの投稿フォームには「個人的な思い出、感想を投稿しよう」と書かれている。あくまで個人的な内容を投稿してもらうことで、歴史認識に関する論争などが起きにくいようにするための配慮だ。「歴史認識は専門家の間でも一致しないことがあるぐらい難しい問題。素人が議論しても、何も良い結果を生まない」と吉田さんは言う。

寺社の解説文をユーザーが投稿することもできるが、投稿フォームには「中学2年生でも読めるような伝わりやすい言葉で表しましょう」と記載。簡単な言葉で表現してもらうことで、寺社をより身近に感じてもらいつつ、難しい言葉を使った論争が起きづらいよう工夫している。

「あなたでも神主さんになれる方法」「座禅の心得と、都内で座禅できるお寺」「宮司さんインタビュー」など、読みものコンテンツも充実させている。読みやすい記事を通じて、一般の人が感じている「寺社への近づきづらさ」を縮めたいという思いからだ。

「投稿にはお金以上の価値がある」

サイトは17年4月にオープン。当初は利用が伸びず、つらい時期を過ごしたが、ユーザーの声を聞きながら地道に改善し、投稿も閲覧も徐々に増加してきた。

投稿には吉田さんがすべて目を通し、初投稿した人には全員にメールを送っているという。「投稿には、お参りをした時の想いが詰まっているし、手間をかけて一つ一つ書いていかないといけない。投稿にはお金以上の価値があるのでは」。そんな風に思っている。

数の拡大だけを目指すなら、アルバイトを何人も雇って口コミを書いてもらうなど、一気に情報量を増やすことも可能だが、そういった手段は採るつもりはない。「それだと“思い”が乗っていない。思いがあることで、じわじわやりたい」

クラウドファンディング風に投稿募る「ご縁ポスト」

ホトカミへの投稿をクラウドファンディング風に募る「ご縁ポスト」も行った。一定数投稿すると、吉田さんが出雲大社に参拝して「リターン」を提供するという企画。リターンは、投稿者の氏名や願い事の奉納、絵馬の代筆などだ。

大学生のころ、山口・萩の松陰神社への旅費をクラウドファンディングで募ったことが、発想のきっかけだった。絵馬の代筆をリターンとして提供したところ、絵馬を代筆した人から「医者になれた」「転職に成功した」などの報告が絶えず、とてもうれしかったという。同じことをホトカミで再現できれば、と考えた。

大学時代のクラウドファンディングは、起業を考えるきっかけにもなったという。「歴史ツアーなど僕の活動は『面白い』と言ってもらえるけれど、お金を払ってもらえるほどのものなのだろうか」――旅費のクラウドファンディングを試したのは、そんな思いがあったからだ。目標とした3万6600円はわずか2日で達成。「自分の活動は、お金を払ってもらえる価値がある」と自信をつけ、歴史に関する事業を本格化していった。

「100年残るデータベースに」 VCの出資は受けず

今後もホトカミのデータや投稿を充実させ、1年半後ぐらいには「神社やお寺を検索するのはホトカミ」だと日本中の人に思ってもらえるブランドに育てる計画。10年、100年とじわじわ育てていく考えだ。

「100年残るデータベースにしたい」。ホトカミのデータは“最大の価値”だと考えている。

「100年後にWebサービスはないと思うので、『ホトカミ』というサービスは残っていないと思うが、ホトカミに集まった、一般の人のお参りの記録や生の声は残したい。このお寺がここにあり、こういう人がお参りしていたという記録は、100年、200年後の人にとっても、価値になるのでは」

同社は16年4月、資金調達を行った。出資者に株式を割り当てず、売り上げの一部を分配する「匿名組合出資」という形。日本古来の金融システム「頼母子講」に似ているという。株式は吉田さんが100%保有したままだ。

ベンチャーキャピタルから出資も検討したが、VCからの出資を受けると一般的に、5〜7年程度でIPO(新規株式公開)や事業売却などエグジットを求められる。ホトカミというサービスにはマッチしないと判断した。

「VCから出資を受けると短期で結果を出さなくてはならず、結果が出なければ、例えば、『墓石の販売サイトにして利益をあげろ』などと言われるかもしれない。それは絶対に嫌だ。ホトカミのデータを100年後に残したいのに、7年ぐらいの期限をつけるのは、コンセプトに反している」

サイトのページビューは徐々に増え、月間10万を突破した。まずは広告収入で売り上げを立てる計画。AdSenseを導入したり、寺社に関連するツアーやイベント、商品のバナー広告を出すといったイメージだ。将来は、ホトカミを通じて寺社を知った人が、座禅体験など有料サービスを予約した際、料金の数%を手数料としてもらう――といったビジネスモデルを検討。「収益は、100年後にも感謝される形でさらに生かしたい」

100年後の人も幸せに

神社やお寺はかつて、人々が集まったり、年長者が子どもを教える場になるなど、地域のハブになっていたが、現代、その役割が薄れている。一方で、行き場のない悩みを抱える個人は多い。

「社会問題の一番の根幹は、人とのつながりが希薄化していることでは、と考えている。ホトカミを通じて神社お寺に人が集まり、つながりが生まれれば、いろんな問題が解決したり、新しいものが生まれるのでは」。

そのつながりは100年後の人の幸せに貢献できると、吉田さんは考えている。

提供元:ITmedia NEWS

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