田んぼの風土を醸す、
純米蔵の黄金色のお燗酒
島根県邑南町は総面積の8割が森林で、渓谷ありスキー場あり、河川には特別天然記念物であるオオサンショウウオが生息し、田んぼが広がる里山だ。
この地で1892年に創業した玉櫻酒造は、寒冷気候や水の良さを生かし、最盛期には4000石の酒を醸して広島県の酒蔵に桶売りしていた。
現在の杜氏は5代目蔵元の櫻尾尚平さんが務める。大学の研究室の先生が酒好きで、多種多様の酒を飲ませてもらううち、自分で酒を造ると決心。卒業後に広島県の酒類総合研究所で学び、蔵では但馬杜氏の中西円吉さんに6年間教わる。中西さんの引退時、杜氏に就任。
地の酒を求め、1995年に腕利きの農家を集めて酒米委員会を結成。町内産米の単一品種で純米酒のみを醸す。また、完全発酵させてから搾り、ブレンドせず、基本はタンク熟成。醸造年度ごとに無濾過のまま出荷する潔い酒造りだ。
「米の風味を素直に生かせ、燗酒は輪郭のはっきりした滋味ある味に」と尚平さん。
酒母は伝統的な生?造りと現代的な速醸?で醸すが、人気は生?で生産の半分以上を占める。だが、今年は生?が全て山廃?に。豪雪のために蔵人が来られず、人手が必要な?すり作業ができなかった。
「それもまた良しです。米が自然な形で酒になった方が面白い」。
新製品はカップ酒で、その名も「悠々燗々(ゆうゆうかんかん)」。蓋を開けると無濾過熟成の醍醐味、黄金色の純米酒が輝く。
「田んぼの面積がちょうどTシャツ1枚分の米を使います」。
地の酒で心和んでと一合に思いを込める。...