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アリ・アスター監督×こがけん『ボーはおそれている』公開記念対談
“アリ・アスター”というアトラクションの中で楽しんでほしい
アリ・アスターもちろん。ダーク・コメディーです。
こがけんよかった。ボーがどんどん災難に見舞われて、災難の数の多さ、理不尽さ、意味のわからなさに思わず笑ってしまったんですよ。観る人によっては圧倒されて笑うタイミングを失う人も出てくるんじゃないかと思うくらい、ひたすら主人公に災難が起こる。それをどう演出するかですが、例えば、サイレント映画時代のバスター・キートンのように、身体を張ったアクションを無表情で一途に演じて、笑いをとる手もありますね。アリ・アスター監督の演出は、観客に笑ってほしいけど、これは絶対に譲れないみたいなものがあるように思えるのですが…。
僕なりのメソッド的なものはないんですけど、『ヘレディタリー/継承』も『ミッドサマー』も我ながら笑っちゃうところがたくさんあるんです。『ボーはおそれている』をつくる上でも自分で笑っちゃうようなこと、可笑しいと思えるものを細部にわたってちりばめられています。
『ボーはおそれている』については、こんなことが起きてしまうなら、もっとひどいことが起きるんじゃないかと観客が心配になってきたところに、さらにひどいこと、数倍ひどいことが起きます。それがひたすら続いていく。途中で手を緩めることを一切せず、最後まで貫こうと思ってつくりました。
アリ・アスター僕は常に最悪の事態を想像してしまう性質なんです。デフォルトでそんな状態です。だからいつも不安を抱えながら生きています。何か決断を下した時は、その因果で何か起こるんじゃないか、といつも心配しています。だから優柔不断なんです。
例えば、今日の昼食を何にしようか、と考える時、お昼にこれを食べたらどうなるかな、といちいち心配しちゃう人間なんです。なので不安の種はそこらじゅうにあるんですよ。こうやって取材を受けるのも不安だし、こがけんさんの話を聞きながら、頭の片隅でなんで今日はこれでよかったんだろうか、とそんなことを考えますね。
こがけんボーは監督なんですか?
アリ・アスター残念ながらそうです。
アリ・アスター『ボーはおそれている』も不安になってほしいですね。
こがけん十分、不安になりました。「不安になってほしい」という言葉を聞いて、映画ファンは喜ぶと思うんですけど、「なんて悪趣味なことを言う人なんだ」と思う人もいると思うんですよ。そういうのは大丈夫なんですか?
アリ・アスターそういう映画が好きじゃない人とはお付き合いできないでしょうね。
こがけん常に不安を抱えている“アリ・アスター”というアトラクションの中で楽しんでほしいという感覚があるってことですかね。
アリ・アスターそのとおりですね。
家族ってわずらわしい。だからドラマの原点になる
アリ・アスターそもそも幸せな家族の物語って、面白いんですかね?そういう作品を観なくはないですけれど、面白い作品は少ないんじゃないかな(笑)。家族というのはいいものだ、ありのままの自分でいられて、冷たい世界から身を守ってくれる安全な場所だ、という思い込みがある一方で、家族って切っても切れない関係ゆえの義務がつきまとい、わずらわしいものでもあると思うんです。
自分がどういう家族を作るか、ということにおいては選択肢がありますけれど、生まれながらにして背負ってきた家族は選択肢がなく、仕方なくお付き合いすることになるわけで、そういったことが、いろんなドラマの原点になるんじゃないかなと思っているんです。家族の関係性って、大概うまくいかないものじゃないですか?調和を目指そうとしても、なかなかうまくいかないことの方が普通ですから、そういったところに僕は興味があるんですよね。
こがけんある男の「里帰りするの嫌だな」という気持ちが、ここまで壮大な作品になったことを考えると、本当に面白い。最高だと思います。最高のコメディーです。
アリ・アスターそう言ってもらえてうれしいです。ありがとう。