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野菜や果物の”適正価格”ってどう決まる? 価格高騰から「直接取引すればいい」批判の声も…仲卸業者の役割とは
買受方法は相対取引が8割 入荷数量などを元に商品価格を設定する
買受方法としては、以前はせりが100%だったが、最近では相対取引8割、せりは2割ほどになっているという。これはスーパーなどの量販店が増えたことが関係している。
「せりは7時に始まって終わるのが9〜10時なので、それからトラックに積んで運ぶと、着くのが昼前ぐらいになります。しかしスーパーは9〜10時オープンなので、遅くとも8時頃までに1便が入らないと売り場が作れません。売り場を作るには、せりにかかる前の商品をもらって納品するしかない。それで相対取引が増えてきたんです」(小林青果・岩本良一代表取締役社長、以下岩本氏)
相対取引では、入荷数量とJAや産地の希望価格を考慮し、さらに全国相場を参考にして、お互いが協議しながら決めていくという。
「野菜や果物はどうしても入荷数量の増減が激しく、それによって日々相場が大きく変わります。一番大きいのは天候ですね。たとえば大根やレタスなどは、北海道や長野あたりに産地が集中しているので、その産地に長雨や台風が来ると、相場が予想以上に上がります。数年前だとレタスが1ケース1万円、ひと玉600円になった時もありました。最近玉ねぎやニンジンが高かったのも、夏場に北海道に雨が多かった影響です」(同社・末島美則専務、以下末島氏)
「安く仕入れ、安く売る」、販売ルート多様化で今後どのように変わっていく?
「卸売市場はどちらかというと生産者寄り、僕ら仲卸や小売屋さんは消費者寄りの立ち位置なんです。卸売は高く売ろうとするのが普通で、僕らは安く仕入れて消費者に安く買ってもらいたい。そこで価格のせめぎ合い、駆け引きが行われるわけです。ただ今は仲卸も市場から仕入れるだけじゃなく、生産者と直接取引することが増えてきました。そういう時は生産者とも話すので、そちらに情が移ることもあります(笑)。でも大体は消費者の立場で、少しでも安く買いたいというのは本音です」(末島氏)
昨今は道の駅やネットなど直接販売のルートが増え、販売ルートが多様化しているが、青果卸売市場に対して危機感を感じることは?
「確かに販売先が多様化してきましたが、生産者が道の駅やネットで販売する出荷量は、全体からみれば微々たるもの。多く捌くためには、やはり農協に出荷したり、地元の市場に出荷することが必要です。だから市場がなくなることは今後もないと言えるでしょうね。
数年前に、仲卸や卸を通すと経費やマージンが増えて高くなる、直接取引すればいいという「流通革命」という考え方が話題になりました。実際に直接販売する量も増えてはきましたが、結局われわれを通して販売するのが一番多いです。卸売市場で集まってきた商品が卸→仲卸→小売店→消費者と渡っていく流れは崩れないのではないかと考えています」(岩本氏)
スーパーで売れないものも捌き切る、小売店の好みを熟知する仲卸の存在意義
「たとえばスーパーが直接生産者と交渉して商品を取る時、売りやすいところしか取らないんです。サイズが大、中、小とあったら、商品として売りやすい中だけを取っていく。生産されたものは大きいものから小さいもの、形の良いもの、悪いのもありますが、それらを全部スーパーで売れるかと言ったら、売れないんです。売り場面積も限られているので。そこで僕ら仲卸は大、中、小を全部仕入れる。大きいものは大きいのが好きな小売店に、真ん中はスーパーに売って、小さいものは小さいのが好きな小売店に売ります。『あそこの八百屋の店主は小さいのが好きだから…』とそれぞれの小売店の好みを知り、ルートを確立している。それが仲卸の存在意義ですね。
またスーパーから売れた商品を追加してほしいと言われたら『じゃあ、2便で持って行きましょう』とすぐ対応できるストック能力もあります。それと、われわれで袋詰めにしてスーパーに持って行くと、すぐに売り場に出せます。そうした加工能力も特出しています。さらに『えのき50袋は多すぎるので、20袋ぐらいでいい』と言われた時に20袋だけ出せる小分け能力、店舗別に振り分けた商品を積んでお店まで届ける配送能力も。当社では、袋詰めをする際の袋やシールのデザインを考えるなど、売れるための商品企画を考えて提案するマッチング能力も備えています。売り場ではできない、いろいろなことを仲卸がカバーしています。それが僕らの存在意義です」(岩本氏)
「地域の生産品を他所に広げていく、後世に伝えていく役割も私たちが担うことができる」
「企画一つ、デザイン一つで商品が売れたり売れなかったりするので、良い企画を作って販売したいと。たとえばみかんの販売一つとっても、1.5kgの大袋であったり、産地保証のこだわりみかんだったり、いろんなSKUを増やして販売する企画力ですね。商品のデザインもよく考えますし、産地を開発してスーパーに引っ付けていくマッチング能力もやっぱり強化して行きたい。この能力があるとないとでは随分差が出てきますから」(岩本氏)
最近ではネット販売に力を入れているという同社。ネットショップで求められる、スーパーに卸すものとは別軸の企画力が伴う商品に勝機を見出している。
「ネットショップでは、スーパーとは別の企画力が必要になります。特に果実にはかなりこだわっていて、例えばスーパーではみかんの大袋が売れますが、ネットであれば『糖度●度以上』という括りで。地域特有の美味しいみかんの長所や生産者をアピールしながら売ることもできます。地域の生産品を他所に広げていく、後世に伝えていく役割も私たちが担うことができるからです。とはいえ、ネットの方が卸市場での取引よりも少し利幅が大きいですが、ネットで販売する金額は全体の1%ほど。今後、ネット販売をもっと増やしていきたいと考えています」
取材・文/水野幸則