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世界初、“ととのう”状態を可視化したサウナウォッチが予約で完売 開発語る「ジェットコースターと近い感覚」

 健康志向を追い風にしたサウナブームが続く中、日本サウナ学会の代表理事で医学博士の加藤容崇さんが、世界初となるサウナで“ととのう”状態を科学的に数値化したサウナウォッチと「サの国アプリ」(100plus)を開発した。『大人の科学マガジン』(Gakken)の付録として発売され、初版、2刷と予約で完売。個人の感覚的なものと思われていた“ととのい”のデータによる可視化には、どのようなメリットがあるのか。日本人特有の文化的な背景や影響について、加藤さんに聞いた。

【動画】サウナウォッチを実際に使用した様子を紹介

ポータブル心電図での実証実験から“ととのう”デバイス開発へ

 加藤容崇さんの本業は、がんの遺伝子解析とがん検査法開発を専門にする医師。もともと米・ハーバード大学医学部附属病院がんセンターで膵臓がんの新薬開発などに携わっていたが、帰国後にがんの早期発見など、予防医療観点の技術開発に軸足を移した。

 サウナとの出会いは、帰国後に大学医学部時代の先輩に頼まれてゲスト出演したラジオ番組で、サウナが健康に良いという話がきっかけだった。当初は半信半疑だったものの、実際にサウナを体験して関心を持ち、ネットの情報ではなく、医学的な報告を探したところ、サウナに関する健康効果や疾患リスクの低減などエビデンスの裏付けがある論文にいき着いた。

 ところが、その研究はほとんどが海外のものだった。加藤さんは、日本式の入り方など日本民族のサウナ効果への研究の必要を感じ、正しい知識の啓発と研究を進める団体として、日本サウナ学会を2018年に設立。

 当初から“ととのう”を生体反応で数値化できると考えていた加藤さんは、2019年からデバイス作りをスタート。自らポータブル心電図など様々なデバイスをつけてサウナに入っては地道にデータを取り続けた結果、“ととのう”感覚が生体データの照合から数値化できることがわかり、そこからウエアラブルデバイス作りが本格化した。

 一方、『大人の科学』の編集者の新屋敷信美さんは、漫画『サ道』作者でサウナ大使のタナカカツキさんの担当編集者として長い付き合いで、以前から『大人の科学』の付録でサウナの“ととのい”センサーを作りたいと考えていたが難航。困った挙句、加藤さんに相談してみようと、オファーしたことで今回のコラボが実現した。

“ととのい”はシンプルな生体現象であり、体質や老若男女に関係なく個人差はない

 そもそも“ととのう”とは、“個人の感覚的なもの”という認識が一般的だろう。加藤さんはその定義を「サウナ後の休憩中に訪れる特殊な感覚のこと。言葉にすると人それぞれで、ふわふわ、きらきら、ドキドキするとか、特有な気持ち良さへのいろいろな表現がありますと言う。

 その抽象的にも思える感覚を、どう判定できるのか。加藤さんは「実はシンプルな生体現象であり、そんなに個人差はありません」とし、その原理を教えてくれた。

「“ととのう”は自律神経を見るとわかります。サウナから水風呂に入るのは身体にとって緊急事態なので、交感神経が活性化し、その時に必要がない機能を全部切っています。その後の休憩では、身体を修復するための副交感神経が優位になります。この副交感神経が大きく活性化した時にリラックスモードになりますが、交感神経が優位な状況から急激にスイッチングすると、アドレナリンやベータエンドルフィンといった興奮物質や多幸性を感じる物質が分泌されている状態と交錯し、深くリラックスしながら頭がはっきりする爽快な感覚につながります。それが“ととのう”という現象です」

 「サウナ」「水風呂」「休憩」を繰り返すことで、サウナウォッチが“ととのう”状態を教えてくれる。

「自律神経の状態はHRV(心拍変動)で測ることができます。時系列の活性化具合が波形で出ますので、そのパターンを解析したアルゴリズムで、“ととのう”を可視化しています。体質や老若男女に関係なく、“ととのう”ことがない人はいません」(加藤さん)

 予約だけで完売したサウナウォッチの製品化までの道のりは、苦難の連続だった。

「一番難しかったのは、デバイスをサウナの高温に対応させること。電池は、多くのデバイスに用いられている高容量のリチウムイオンポリマーを使うと爆発や液漏れします。かといって容量を下げて、サウナで使っている時に電池切れになるようでも困る。その兼ね合いが難しい。結局、付加的な機能をすべて削ぎ落とさざるを得なかった」(加藤さん)

 有志で集まったスタッフ全員が手弁当でサウナウォッチ開発への情熱を注ぎ、さまざまな折衝の過程での紆余曲折を経て、企画から製品化まで4年をかけてようやく完成した。

 サウナウォッチ開発への思いを聞くと、加藤さんは「予防医療には、健康的なライフスタイルが欠かせない。でも、運動をしないと身体に悪いといった脅かし型の行動変容は長く続かない。楽しい、気持ち良いなどポジティブな気持ちしか普段の行動は変えられない。それに生活の一部として継続しないと効果がありません。日常でサウナを楽しみ、その延長線上で“ついでに”病気のリスクも減る、という世界観を目指しています」と力を込める。

市場競争の厳しい温浴業界に危惧も…負荷をエスカレートさせて中毒状態になるリスクを防ぐ

 加藤さんは、近年市場競争の厳しい温浴業界において、サウナの熱さと水風呂の冷たさを競う施設が増え、身体への負荷をエスカレートさせていることを危惧する。サウナウォッチを「危ないサウナの入り方をしている人」や「初心者」には、特に使ってほしいと語る。

 サウナウォッチの“ととのい”値は、身体に負荷をかけて爽快感を得るための“熱中スコア”と、負荷をかけすぎてのぼせると急激に下がる“安全スコア”の2つの数値から算出される。長時間サウナに入るなど、ひたすら負荷をかけることは高得点につながらない。可視化された“ととのい”値から、各自がリスク管理できる仕組みになっている。

「負荷をかけ続けるとドーパミンが大量放出され、ランナーズハイのようになる。それ自体は悪くありませんが、いきすぎると、その刺激がないとパフォーマンスが下がってしまう中毒状態になっていきます。そうなるとだんだん“ととのう”ことができなくなります。負荷をエスカレートし過ぎるのもよくない。でも、ほどよい適度の負荷は人それぞれ違い、初心者にはわからない。その指標になるのがサウナウォッチです」(加藤さん)

 一方、新屋敷さんは、『大人の科学』にとっても新しい試みになったという。

「従来は、小学生向けの『科学と学習』の付録で人気があったカメラや望遠鏡など、自分で組み立てて仕組みがわかるアナログなものを大人向けに発売していました。サウナウォッチのように販売後もアップデートが可能なデジタル付録は、初めての試みです」(新屋敷さん)

自然環境と文化的背景で日本人は“ととのい”やすい「ジェットコースターや映画で泣いた後と近い感覚」

 ところで、サウナで“ととのう”のは、日本特有の楽しみ方なのだろうか。加藤さんによると「人類のメカニズムとしてはあるものの、それに適している自然環境がなかなかないのではないか」と言う。

「“ととのう”ためのファクターとして水風呂が重要。日本は水資源が豊富で、一般的に水温が通年で15〜20度。水につかる習慣があるため、サウナに水風呂があるのが一般的です。一方、例えばフィンランドでは、水風呂はなく、シャワーや冷たい外気、海や湖に入る人もいます。場所によって異なるので、“ととのう”という一致した概念が生まれにくい。基本的に世界中の人が得られる感覚ですが、日本人は自然環境と文化的ファクターによって、共通の感覚の合意が得られやすいことがあります」(加藤さん)

 では、日本でサウナ以外でも“ととのう”シチュエーションはあるのだろうか。

「基本的には交感神経を活性化させた直後に副交感神経を優位にしてリラックスさせるものであれば、なんでも“ととのい”ます。例えば、ジェットコースターに乗った後や映画で泣いた後など、急激に身体への負荷の緩急があることは似ています。ただ、サウナほど副交感神経が活性化しないので、近い感覚を得ることができるくらいです」(加藤さん)

 現状のサウナウォッチは、“ととのい”を可視化するために、サウナ、水風呂、休憩のラベリングが必要だが、サウナに集中するためにサウナウォッチ対応アプリ『サの国』では“オートラベリング機能”を実装している(プレミアムプランのみ、現在β版)。今のところ精度は9割ほどであるが、データを集積させて精度を上げていく予定だそう。

 その先には、日常のなかでの“ととのい”を測るデバイスに進化していくかもしれない。加藤さんは「汎用性があるデバイスなので、将来的にはずっとつけて測定して、ライフスタイルを通して“ととのい”値を測っていくことも予防医療に役立てられるかもしれません」とサウナウォッチの進化によって、楽しみながら送る健康的な生活へのさらなる活用を見据える。

(文/武井保之)
加藤容崇さん

取材者 加藤容崇さん

日本サウナ学会代表理事。
北海道大学医学部を経て、同大学院で腫瘍病理学分野にて医学博士号を取得。
医学部特任助教として勤務したのち渡米。米・ハーバード大学医学部附属病院腫瘍センターにて膵臓癌研究に従事。
帰国後、慶應義塾大学医学部腫瘍センターや北斗病院など複数の病院に勤務。
現在の専門は癌ゲノム(癌遺伝子検査)と癌の早期発見技術開発。

◆大人の科学マガジン「サウナウォッチ」の詳細はこちら(外部サイト)

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