ORICON NEWS
又吉直樹、芸人としての矜恃はない「“書くこと”は地続きにあるもの」
“書くこと”は好きでやっているので、しんどくもない
又吉直樹 そうですね。ただ今回は、椅子をモチーフにしてほしいということだったので、面白そうだなと思って引き受けたところもありました。もともと椅子というものがすごく好きで、椅子の持つ背景や特性から物語の着想を得ていったので、男性が主人公でも成り立つ物語もあると思います。
──自分の手を離れて登場人物たちが動き出すのは、作家としてはどんな感覚ですか?
又吉直樹 面白いですよね。演じる人によって自分の思ってもみなかった感情が引き出されたりするのは。小説と違って、映像や舞台、ユニットコントといった皆で作るものは、書いている段階でそこまで計算したらダメだと思っています。むしろ自分の手を離れたらどうなるのかを、期待して書くことが多いです。
──作家・又吉直樹の新作として期待している人も多いと思います。「書くこと」のオファーが引きも切らない今をどのように捉えていますか?
又吉直樹 20歳からエッセイを書き始めて、コントも年間何十本と書くような生活を15年くらい送ってきたので、物語を書くことにはさすがに慣れました。好きでやっていることなので、しんどくもないですし、このまま好きなことをやってなんとか生きていけたらいいなと思っています。
お笑い芸人をやめて作家になったわけではない…誤解を解くことが大変
又吉直樹 「お笑い芸人をやめて作家になったんですね」と誤解されることが増えて、それを説明しないといけないことが大変です。月1回の自主企画や単独ライブは、当たり前のように続けてきたけれど、それが注目されることはほとんどなくて、小説を書いたことばかりがフィーチャーされてしまって…。「いや、芸人やっていますよ」って主張しないといけないようになってしまったことは、悲しいですね。
──それはやはりお笑い芸人であること、お笑い芸人としての活動にこだわりがあってのことなのでしょうか?
又吉直樹 僕は選択肢がいっぱいあるなかでお笑い芸人になったわけじゃなくて、他に何もできることがなかったので、この世界に飛び込んだんです。だからお笑い芸人としての矜恃とかは特にないです。ふざけたり、変なことを言ったりするのは、僕にとって息をするのと同じくらいのこと。やるなと言われてもやるし、というのがまず大前提としてあるんです。
──「お笑い」の仕事は、又吉さんにとってなくてはならないものなんですね。では、「書く」お仕事については、どのように考えているのでしょうか?
又吉直樹 ほぼその地続きにあるものですね。世間では急に小説を書いたと思われているけれど、コントや舞台の脚本はずっと書いてきました。友だちや同期のお笑い芸人には、「昔と書いていることが変わらないね」と言われます。好きなことをやって生きていくのはなかなか難しいなと年齢を重ねるごとに感じますが、自分はこれしかできないから頑張るしかないよな、という感じですね。
──現在はコンビでの活動は休止中ですが、「ピース・又吉」の名義は大切にされているんですね。
又吉直樹 正直そこまで深く考えてないんです。サインを書くときも「ピースって書くんですね」と言われるのですが、「いや、ピースやし…」というくらい自然なことだと思っています。
“面白い小説が書けなかったら死ぬ”わけではない、どんな形でも生きていればそれでいい
又吉直樹 僕が「コンビでやりたい」って言ったら変なことになるし、「やりたくない」って言っても変なことになる。それに関して僕としての意見は特にないです。綾部はやりたいことがあってニューヨークに行っているので、僕はそれを応援したい。あっちで映画とか出てくれたらカッコいいなと思っています。
──40代になり又吉さん自身は、これからの自分の仕事についてどのように考えていますか?
又吉直樹 僕は両親のことを誰よりも尊敬しています。だけど両親はお笑い芸人でもないし、小説家でもない。僕がどれだけ仕事を頑張っても、2人に辿り着くことはできないんですね。ということは、「この世界は、“面白い小説が書けなかったら死ぬ”みたいなものじゃないんだな」と考えるようになったのは、この年齢になって変わったことかもしれません。
──表現の世界に生きていると「何者か」になることを渇望したり、求められることもあるかと思いますが、いかがでしょうか?
又吉直樹 僕は、たまたまこの仕事しかできないからやっているけれど、皆それぞれが自分の持ち場で頑張っているんだなと。そう思うと、どんな形でも生きていればそれでいいのかなという思いは、昔よりも強くなりました。
(文/児玉澄子)
過去に『又吉直樹マガジン 椅子』の編集長を務めた経験もある無類の椅子好きが転じて、ドラマ化が実現。「椅子」と女性の人生を重ねて描くオリジナルのオムニバスドラマ。1話につき1脚の実在する著名な椅子が登場し、物語はその椅子の成り立ちや特性も織り込んで紡ぎだされる。
【放送予定日】5月27日放送・配信スタート 毎週金曜日23時30分〜(※第1話無料放送/全8話)
【主演】吉岡里帆、モトーラ世理奈、石橋菜津美、黒木華
第1話『電球を替えたい』(No.14)
【出演】吉岡里帆/岩崎う大(かもめんたる)、水間ロン
第2話『最高の日々』(スツール60)
【出演】吉岡里帆/銀粉蝶、但木宏成
第3話『海へ』(ラ シェーズ)
【出演】モトーラ世理奈/堀田真由 河合優実 石井杏奈
第4話『オモイデ』(Y-チェア)
【出演】モトーラ世理奈、吉村界人、智順、山中聡
第5話『まぼろしの』(ルイ・ゴースト)
【出演】石橋菜津美/白鳥玉季、ジャガー横田、又吉直樹
第6話『雨が降っている」(ネイビーチェア)
【出演】石橋菜津美/中村蒼
第7話『人間達の声がする』(A-チェア)
【出演】黒木華/ムロツヨシ、永野宗典、本多力
第8話『椅子を取りに行く』(アリンコチェア)
【出演】黒木華/穂志もえか、アン ミカ、奥野瑛太
◆『WOWOWオリジナルドラマ 椅子』オフィシャルサイトはこちら(外部サイト)