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息子が旦那の浮気を発見、「離婚しない」選択に賛否両論の声 作者語る“理想の家族”とは
「この経験を子どもたちに残したい」漫画を描き続ける意味
うえみあゆみさん本作は、いわゆる“サレ妻ルポ漫画”として描いているつもりはないんです。もちろん夫の浮気や、それに対して私がどんな行動を取ったかは事実を描いているので、そういう読まれ方をしてもいいんですけど、むしろ私は、この家族のリアルな経験を子どもたちに残したいと考えて描いているところがあります。
──本作は息子さんが旦那さんの浮気を発見するという衝撃的な幕開けをします。
うえみさん今時の子ですから、スマホの操作はお手のものですよね(笑)。旦那のスマホを借りたときに証拠を見つけて、すぐに自分のガラケーにコピーしていました。夫が家を空けたり、夫婦の関係が壊れていったりする様子は、子どもたちも見てきたと思います。ただそのときに私にどんな葛藤があって、なぜその行動を取ったのかといった過程はいつか知ってほしいです。
──それをお子さんに読んでもらいたい?
うえみさん今すぐではなくて、たとえば前作『カマかけたら〜』は私が29歳頃の話なんですが、娘が29歳になったときには『自分と同い年の女性の経験』として読むことができるでしょうし、息子が結婚して、万が一、“家族に問題”を作ってしまったとき、あるいは男として自分の弱さに向き合ったときに、『同じ立場だったパパ』を理解できることもあると思うんですね。
──たしかに、年齢なりにぶつかる悩みや問題は変わってきますね。
うえみさん完璧な人間なんていないように、私も完璧な親ではありません。ただ、ほんの少し長く生きてきた人間として子どもたちに残せるのは、成功も失敗も含めた経験なのかなと。それがこの漫画を描く一番の動機になっています。
「子どもの教育のため」離婚しない選択をした理由
うえみさん家計を支えるのが1人になったときに、いかに子どもたちに与えられる教育の機会やクオリティを下げないでいられるか? という問題でした。そのために必死で仕事を増やしたんですが、精神的にも体力的にもキツかったですね。
──こだわったのは教育の機会?
うえみさん親が子どもに与えられるものって、年齢によって変わってくると思うんです。幼児のときは体験や一緒に過ごす時間。そして10代はやはり教育なんですよね。もともと私は子どもの貧困問題に関心があり、別の仕事で取材を重ねてきて、10代の頃に受けた教育がいかに大人になって影響するかという事例をいくつか見てきました。
──それが我が身やお子さんにもリアルに降りかかってきたわけですね。
うえみさん取材でわかったのは、教育というのは子どもの選択肢を広げ、いずれ夢や希望への挑戦権になるというサイクルです。それを与えてあげられないのは、親として違うなというのが私の判断でした。
──漫画には高校生になった娘さんが家計を助けようと「アルバイトをする」と言ったときに、反対する場面もありましたね。
うえみさん子どもって順応力があるから、自分の気持ちに蓋をすることがあるんですよ。環境的に教育を受けられなかったとしても、『自分にはこれが合ってたんだ』とか。だからこそ、私は子どもの判断に頼ってはいけない。というか、夫婦の問題のしわ寄せが子どもに行くのは絶対にダメだと思ったんです。
「ひとつの間違いで全否定しないで」子どもに伝えたい想像力
うえみさんわざわざ私には言わないですけどね。うちはわりと物理的な距離感が近くて、娘も大学生になった今でも私の膝に乗ってくるので、何を考えてるのかがけっこう伝わるんです。夫に対する想いも、私と違います。彼女の思考はいつもしっかりとして穏やかです。それが娘の人格だと思いますね。自由に自分なりの考えを持つことができて、よかったなと思います。
──漫画だけ読んでいると、つい「旦那さん、ひどいな」という感想を持ってしまいます。
うえみさんレビューにもけっこう書かれます。『旦那が胸糞悪い』とか。またそういう男と結婚したのは、私の自己責任だと言う方もいます。だけど人生って、どうにもならないことってたくさんあるんですよね。
──だから本作のようなドラマチックな実話も生まれたりする。漫画として面白いというのも申し訳ないようですが…。
うえみさんいえ、楽しんでくださっていいんです。ただこの経験を通して描いているのは、やはり人間は完璧ではないということ。迷ったり、間違ったりすることもある。そういう人のむき出しの心を、あえてそのまま描くようにしています。
──芸能人の不倫問題でも、自分の正義をぶつける風潮がネット空間ではありがちです。
うえみさん少なくとも自分の子どもたちには、そうなってほしくないんですね。自分の正義をぶつけていいのは、苦しい思いをしている家族だけですから。他人には、1つしか見ていない事実でその人の人格を決めつけるのではなく、擁護はしないまでも『人間のどうしようもない弱さ』にもっと想像力を持ってほしい。両親を見て、そういう視点は育っているかなとは思いますが(苦笑)。
──ご自身の経験を通して「こうしておけばよかったな」と思うことはありますか?
うえみさん私はわりと小さい頃から結婚に理想を描いていて、『いい奥さん、いいお母さん』になりたかったんです。10年前の『カマクロ』の頃は、まだまだ『家族はこうあるべき』という理想に向かってフルスロットルで戦っていました。だけど、そんな理想に縛られていたことが、逆に自分を苦しめていたんだと気付いたんですよね。
──完璧はない、ということを受け入れられるようになったんですね。
うえみさんそうですね。結婚が勝負だったら、『浮気夫と離婚して慰謝料と養育費で生活』は完璧な勝利でしょうが、結婚は勝ち負けじゃないと理解し、受け入れるには少し時間がかかりました。でもだからこそ、正義を振りかざして理想を押し付ける自分にはもう戻りたくないです。それらは全て、相手にではなく、自分自身に押し付けているようなものですから。