ORICON NEWS
1型糖尿病患者のキャンプが中止に、「患者さんへの励ましになれば」支援者ら制作の漫画に込められた思い
漫画『げんきの森日記』を読む(外部サイト)
「キャンプは仲間との出会いを通して病気を受け入れていく最初のチャンス」
――1型糖尿病の患者さんたちのキャンプを題材に漫画配信を企画したきっかけは?
「4月に入りキャンプの多くがキャンセルされると聞き、子どもたちを中心とした参加者、医療従事者双方にとって貴重な機会が失われることを残念に思っていました。キャンプに代わって、患者さんへの励ましにつながるものを提供できないか考え、漫画制作を思いついたんです」
――夏のキャンプの目的は?
「1型糖尿病患者さんは血糖のコントロールに悩みながら生活されています。思うようにコントロールできずにいる方や、診断されて間もなく新しい生活に戸惑う方もいらっしゃる。キャンプで日頃出会う機会が少ない患者さん同士で自然に会話しながら、気づきや学びを得て、さらに刺激と勇気をもらって、皆さん再び普段の生活に戻っていきます。一方、医療従事者は患者さんとともに生活することで治療の指導に結び付けることができます」
――キャンプのプログラムは地域ごとに行われて、実施する患者会によって規模、日程、イベント、過ごし方、参加者なども様々なんですよね。運営を支えるスタッフの方には、どのような方がいらっしゃるんですか?
「1型糖尿病の治療は食生活を含めた日常生活の管理にまで及びます。漫画『げんきの森日記』のなかでも触れましたが、医師、看護師、栄養士、薬剤師、研修医、など幅広く医療関係者が参加されます。また弊社のような医療機器メーカーや製薬会社も参加してサポートしています。弊社では営業社員が中心に参加し、主催者の運営サポートをします。担当となる子どもたちのケア、食事やイベントの準備、運営のお手伝いをします。スタッフは睡眠時間が十分にとれないなど肉体的にも精神的にもハードなので、事前の体調管理が大事になります」
――漫画『げんきの森日記』を読んで、患者さんやご家族からはどんな反響が?
「中止になった時に直接お伺いしたわけではありませんが、今回の漫画への感想には、患者さん・ご家族も医療従事者も中止を残念に思っていた、という声はいただいています。個人的には、今年1型糖尿病と診断されたばかりの患者さんにとっては、仲間との出会いを通して病気を受け入れていく最初のチャンスを失った方もいるのでは、と気になっています」
――漫画では、お子さんが親御さんと離れるときに泣いてしまったり、自分でインスリン注射を打てるようになるまでの様子があったりなど、キャンプのテーマになっていることが詳細に描かれていたようにも思います。とくにこだわった部分は?
「作者である漫画家の山田圭子さんにお願いする際に意識したのは、『漫画でキャンプを体験できること』です。キャンプでの具体的なエピソードはもちろん、『成長』を切り口にしてほしいとお話ししました。キャンプには年齢も患者歴も異なる子どもたちが参加します。おとなしい子もいれば、苦手なことも異なります。できるだけ多くの読者が共感を持てるようにタイプの異なる子どもに向けて様々なエピソードを組み込むことを意識しました」
――今回の漫画に込めた“思い”や、今後への展望がありましたらお聞かせください。
「患者さんとお話ししていると、キャンプに参加して人生が変わった…とお話しされる方によく出会います。日頃は出会うことが少ない同じ立場の患者さんと一生の友になることも多いとお聞きします。漫画は、英語、仏語、韓国語、中国語でも公開します。キャンプの意義は世界中で共通すると信じています。この漫画はコロナ禍で参加機会がなかった患者さんはもちろん、今まで参加する勇気が持てなかった患者さんにもこっそりキャンプの魅力を伝えて、『来年は参加しよう!』と思ってもらうことも期待しています。キャンプに参加しようか迷う子どもの後押しをするような、毎年長く読み継がれていく漫画になることを願っています」
作者語る「この漫画が世界中に広がり読んでもらえることを願っています」
――漫画の依頼があったときどのような印象を持ちましたか?
「依頼があったのは今年の4月でした。自分の漫画の次回作に集中しなくてはならなかった時期でしたが、コロナの不安で押しつぶされそうで仕事にならず悩んでいました。依頼された瞬間はとてもお受けする余裕はないのでお断りしようと思ったのですが、子供たちが何よりも楽しみにしている行事がコロナでほとんど中止になるであろうことを聞き、『私も不安だけど、だからこそ患者さんやご家族を励ます仕事をしたい!』と想いが深まりお受けしました」
――1型糖尿病というテーマがとても難しい題材のように思いますが、漫画のストーリーを考えるうえでどんなリサーチをされたのでしょうか?
「実は私の姉が小学5年生で1型糖尿病を発症して、今年で46年目。1型糖尿病をテーマに漫画を描く機会が、今回だけではなく7年前から度々ありました。今回も、まず姉にインスリン注射や処置の方法を聞いてノートを取りました。そして姉の主治医の先生、姉がキャンプでお世話になった先生にも質疑応答を頼み、NPO団体IDDMネットワークさんのお力添えで患者会にも伺うことができました。今回もその時からご縁の繋がった、小児科医の川村智行先生に監修していただけました。そして依頼主の日本メドトロニックの方々が本当に熱心で…キャンプやポンプのことなども何回聞いても答えてくださるのでとても心強かったです」
――特に印象的だった1型糖尿病のエピソードは?
「子どもたちの話も関係者の方々から沢山聞いたのですが、子どもたちをキャンプに送り出す親御さんたちも本当は心配でたまらない方々が多いと監修の川村先生から聞きました。離れている数日間の間に、親御さんも強くなり成長するのだと…。まさにそれも漫画で描きたいテーマの一つだったので、背中を押された気持ちでした。また、キャンプで同行する医療スタッフの方々も責任重大で夜も寝れなかったりという話を聞き、子どもたちを取り巻く大人たちの物語にも心を打たれました」
――漫画のなかでもっとも描き方にこだわったシーンは?
「熱意を込めて描いたのは、キャンプのプログラムにもよく取り入れられている、山登りのハードさですね。多くの子どもたちが懸命に歩き続ける場面です。大人でもキツい山道を1型の子どもたちが大勢で、うんと小さな子どもたちも登っていくんだなあと思うと、とにかくすべてに食らいついて描写せねばと頑張りました。集団の描写なので描いても描いても終わらず大変でしたが、いい思い出です」
――今後、漫画家としてどのようなことを発信していきたいですか?
「実際には次回作で戦国漫画を思いきり描きつつ、ロマンス漫画も頑張り、多彩なジャンルに挑戦していくのが一生の課題だと思っています。1型糖尿病の漫画は、また機会があれば取り組みたいです。今回は英、仏、中、韓国語版も制作したので翻訳会社さんとのやり取りも大変に多く、1作目より遥かに膨らんだなという実感があります。この漫画が世界中に広がり読んでもらえることを願っています」