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柚希礼音が考える“本当にかっこいい”男役 元トップスターが語る忘れられない宝塚歌劇

この記事は、LINE初の総合エンタメメディア「fanthology!」とオリコンNewSの共同企画です。
⇒この記事をオリジナルページで読む(8月18日掲載)

圧倒的な存在感とダイナミックなダンス、心を揺さぶる演技で人気を集める柚希礼音(ゆずき・れおん)さん。1999年に入団した宝塚歌劇団では、2009〜2015年まで6年間にわたって星組トップスターとして活躍。2014年の宝塚歌劇100周年の幕開け公演で主役を務め、2015年の退団時には、劇場の前に史上最多1万2000人のファンが駆けつけ、伝説となりました。

今年5月にはコロナ禍のなか、柚希さんの呼びかけによって元宝塚トップスター&トップ娘役計19名が豪華共演したリモート歌唱動画『青い星の上で』がYouTubeで公開され、120万再生を突破するなど大きな注目を集めています。退団後もなお、宝塚愛にあふれる柚希さんに、自身の「節目・転機となった宝塚歌劇3作品」をお聞きするとともに、宝塚歌劇の魅力を熱く語っていただきました。

撮影:平野敬久 取材・文:大原 薫
ヘアメイク:CHIHARU スタイリスト:間山雄紀(M0)

退団しても一つになれる“宝塚の絆”

――柚希さんの呼びかけで元宝塚トップスター、トップ娘役19名が集結し、宝塚時代の名曲『青い星の上で』を歌った動画がYouTubeで5月29日に公開され、再生回数120万回超と大きな話題を集めました。ファンからは「ちえさん(柚希さんの本名)のおかげで豪華な共演が見られた」と感激の声が上がっていましたが、改めて、この動画実現の経緯を教えていただけますか?
柚希礼音新型コロナウイルス感染症の影響で公演の中止・延期が続く中、「何かできないか」と考えていました。企画した頃はリモート歌唱の動画がいくつかアップされていたんですが、観た方がホッとするような、笑顔になれることがしたいと思って。宝塚歌劇100周年以降を共に過ごしてきたトップスターの方々に声をかけさせていただき、そうしたら皆さんすぐに「やろう、やろう」って言ってくれたんです。

みんな、“何かしたい”と思っていたけれど、どうしたらいいかわからなかったようで、声をかけたら快諾してくださいまして。宝塚を退団して、別々の事務所に所属するようになって、それぞれ違うことをしていても、こういうときにはみんなの心が一つになれる。“宝塚の絆”はすごいなと改めて思う瞬間でした。

元トップスター19人が集結し披露した『青い星の上で』

――『青い星の上で』は、2001年に稔幸(みのる・こう/元星組トップスター)さんが主演された星組公演『夢は世界を翔けめぐる』の中で歌われた楽曲です。なぜこの曲を選ばれたのでしょうか。
柚希礼音私はこの公演に出演していたんですが、「青い星の上に生まれた私たち。今は本当に大変な時だけれど、私たちが生きている地球はやっぱり素敵なんだ」と感じられる曲だなと思ったんです。稔さんからも「この曲を歌ってくれたんだね」と連絡をいただきました。

舞台を励みにしていらっしゃるファンの皆様にも、公演中止が続いていた現役のタカラジェンヌたちにも愛を届けたいという思いで、YouTubeチャンネルは「Our Song For You−また会える日まで−」と名付けました。

――ファンの皆さんはもちろん、今回初めてタカラジェンヌのパフォーマンスを見た人たち、それに現役のタカラジェンヌもこの歌で励まされたのではないかと思います。
柚希礼音(星組新トップスターの)礼真琴(れい・まこと)さんが「すごくうれしかったです」と一番に言ってきてくれて。大劇場でのトップお披露目公演(2月7日〜3月9日/宝塚大劇場)の後、新型コロナウイルス対策で東京公演が延期になり、東京でのお披露目公演まで何か月も空いてしまったんですよね。

自分のお披露目公演のときは勢いで行ったという感じだったから、大劇場の後に東京公演まで間が空いてしまって、(礼さんは)余計緊張するんじゃないかな。でも、東京でのお披露目公演が決まって(7月31日〜9月20日/東京宝塚劇場。8/18現在、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、一部公演を中止 ※取材日7月中旬)よかったなと思います。

――『青い星の上で』の動画を見て感じたのは、元トップコンビの絆の深さです。リモートで別々に撮っているのに、まるで宝塚時代のデュエットダンスのように息が合っていることに驚きました。
柚希礼音夢咲ねねさん(柚希さんの相手役だった元星組トップ娘役)に自分の映像を送ったとき、「ねね、このウインクのタイミングに絶対合わせてね」と言ったんですけど(笑)、各コンビでもいろんなことを話し合ったんだろうと思うんです。振りの角度までみんな、ぴったり合ってましたからね。

宝塚を卒業して(元男役の)髪が長くなっても、こうやって二人で映ると宝塚のときのようなコンビ感が出てくる。すごいなと思いますね。SHUN(大村俊介)先生が「たとえ離れていても、本当はお互い触れ合いたいんだ」という思いを振り付けてくださったんです。私も初めて見たときは、感動して涙が出ました。
“舞台人”柚希礼音の転機となった宝塚時代の作品3選

生半可な努力では舞台に立てないことを教わった――『THE SCARLET PIMPERNEL』

――さて、ここからは柚希さんが宝塚時代に「節目・転機となった3作品」を選んでいただきます。
柚希礼音節目となった作品がいっぱいありすぎて……。お披露目公演の『太王四神記ver.II−新たなる王の旅立ち−』や『ロミオとジュリエット』、『オーシャンズ11』、『ノバ・ボサ・ノバ』、退団公演の『黒豹の如く』『Dear DIAMOND!!』も自分にとっては大切な節目です。

ただ、“舞台人・柚希礼音”の節目として選ぶと、『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』のショーヴラン、柚希礼音スペシャル・ライブ『REON!!』、『眠らない男・ナポレオン −愛と栄光の涯に−』のナポレオン・ボナパルトですね。
星組公演『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』
脚本・作詞:ナン・ナイトン
音楽:フランク・ワイルドホーン
潤色・演出:小池修一郎
公演期間(初演):2008年6月20日〜8月4日(宝塚大劇場)/8月22日〜10月5日(東京宝塚劇場)
あらすじ:フランス革命の最中、革命政府に捕らえられた貴族たちを救い出すイギリスの秘密結社「スカーレット ピンパーネル」。その首領パーシー・ブレイクニーと、革命政府全権大使として組織の壊滅に乗り出したショーヴランとの駆け引きを、パーシーの妻マルグリットを交えた3人の愛憎を絡ませながら描く。
――『スカーレット ピンパーネル』はブロードウェイミュージカルで、宝塚では2008年に星組が初演された作品。当時の星組トップスターの安蘭けい(あらん・けい)さんが首領のパーシー、そして二番手だった柚希さんはショーヴランを演じました。二番手時代のこの作品を選ばれたのはどうしてでしょうか?
柚希礼音自分が二番手になれたのも奇跡のような出来事でしたし、安蘭けいさんと実力の差を感じていました。ショーヴランという大役をいただいて、演出の小池修一郎先生からは「柚希礼音がこけたら『スカーレット ピンパーネル』がこけるよ」とひたすら言われ、いっぱい怒られながら演じました。それまでも一生懸命取り組んできましたが、生半可な努力では舞台に立てないことを教わった作品です。

――『レ・ミゼラブル』のジャベール警部を連想させるような、暗い情熱でパーシーを追い詰めるショーヴラン。具体的にはどう取り組みましたか?
柚希礼音屈折したものを内に秘めたショーヴランは、自分からは果てしなく遠いキャラクター。寝る間を惜しんで1日24時間使って取り組んでも間に合わないというくらいの難役でした。

出番の直前までみんなと楽しくしゃべって、出番になったらスイッチを切り替えて演じるというのは、ベテランさんだからできること。休憩時間に仲間と楽しく笑っているようではショーヴランになることはできない。だから、1日中ショーヴランでいようと思って。休みの日にちょっと笑っただけでも「あっ、小池先生に見られたらどうしよう」と思うくらい(笑)、自分のすべてを懸けて取り組みました。

それ以降、稽古場というのは舞台に向かうための場所であって、仲のいい仲間たちと楽しく時間を過ごす場所ではないと思うようになりましたね。今も9月に再演する『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』(東京・TBS赤坂ACTシアターほか、ウィルキンソン先生役)の稽古中ですが、ビリー役やほかの子役たちと仲良くすることが目標ではなく、“ウィルキンソン先生と子どもたち”として日々接していくことが大切と思って取り組んでいます。稽古場でどうあるべきかということはショーヴランで学んだ気がしますね。

ミュージカル『ビリー・エリオット』2020版PV

――柚希さんが井上芳雄さんのラジオ『井上芳雄by MYSELF』(TBSラジオ)にゲスト出演(2019年8月11日放送)されたとき、ショーヴランのナンバー『君はどこに』をデュエットしていましたが、上演から10年以上経ってもすぐにショーヴランになりきることができるのだということに驚きました。
柚希礼音久しぶりでしたが、歌うとすぐに感覚がよみがえります。そして楽譜を初見ですぐにハモってくださった井上さんもすごいなと思いましたね。

本当にカッコいい男役は“自分らしさ”を出している人――『REON!!』

――そして、2作目に挙げられたのは、柚希礼音スペシャル・ライブ『REON!!』(2012年)です。2013年の『REON!! II』、2014年の日本武道館公演『REON in BUDOKAN〜LEGEND〜』、そして宝塚退団後のソロコンサート『REON JACK』(2016年)『REON JACK2』(2017年)『REON JACK3』(2018年)と連なる系譜は、柚希さんにとってはライフワークのようになっています。
星組公演 柚希礼音スペシャル・ライブ『REON!!』
作・演出/藤井大介
主演:柚希礼音
公演期間:2012年3月8日〜3月20日(梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)/2012年3月25日〜4月1日(日本青年館 大ホール)
第一部「RE(再び、あとに)」、第二部「ON(〜に向かって)」の意味合いをシーンごとに盛り込み、『REON』が完成するという構成のショー。鍛え上げられたダンス、魅惑的な歌声で魅了する柚希礼音の新たな魅力を打ち出すスペシャル・ライブ。
柚希礼音それまでは、みんなが「カッコいい」と思うような男役にならないといけないと思って必死にやってきたんです。でも『REON!!』では1幕も2幕もショーだから、切っても切っても「カッコいい柚希礼音」だけだとステージがもたないと思って。

私が作詞した『ちえちゃん』(自身の本名)という曲で私の家族の物語を演じたり、2幕初めにはREONファンの「ちえ子」を演じたりしたんです。今までなるべく出さないでいた、本来の自分に近いものを、意を決して舞台で出したんですが、思いのほか多くの方たちが愛情をもって受け止めてくださいました。

そのとき、カッコいいところだけを見せようとしている自分がカッコよくないと気づいたというか。ファンの方からも、役柄だけでなく、“柚希礼音”という人間を、欠点も含めて応援していただけるようになったんだと思います。

――この頃から、ご自身が求める男役像も変わってきたのでしょうか?
柚希礼音そうですね。宝塚では「芸事は真似ることから始まる」と言われて、私も素敵と言われる男役さんを研究してきました。でも、ずっとカッコつけているのも、自分らしくないような気がして……。

「本当にカッコいい男役というのはカッコつけている人のことじゃない。結局は“自分らしさ”を出している人がカッコいいんじゃないか」と思うようになったんです。欠点もあることで、より素敵な男役になることができるのかなと思って。映画や韓流ドラマを見ても、ちょっと抜けているところや欠点があるから、愛情が芽生えるんだと理解できるようになってきました。

――欠点と思える部分も含めて自分らしさを表現する柚希さんのスタイルにファンの方たちが共感された。それで、宝塚退団後の今も熱い気持ちで応援していらっしゃるのではないかと思います。
柚希礼音“カッコいい”だけでは、一時期はいけても、長い愛情にはつながらないような気がします。『REON!!』の頃からファンの方との絆が生まれてきた。これってすごいことだなと思うんです。「今度こそ、お客様に幸せを感じてもらうぞ」と思うのに、結局は私がすごく幸せをもらって公演が終わる。お客様と私で良いオーラがキャッチボールされ合う空間になるんですね。

毎日心の震える思い……宝塚歌劇100周年の幕開けを飾った超大作の大役――『眠らない男・ナポレオン −愛と栄光の涯に−』

――3作目に挙げていただいたのは『眠らない男・ナポレオン −愛と栄光の涯(はて)に−』(2014年)。宝塚歌劇100周年の記念すべき第一作として、「宝塚から世界へ発信するオリジナル作品」を目指した超大作ミュージカルです。作・演出は小池修一郎さん、作曲は『ロミオとジュリエット』のジェラール・プレスギュルヴィックさんという日仏コラボレーションでの創作でした。
星組公演『眠らない男・ナポレオン −愛と栄光の涯(はて)に−』
作・演出:小池修一郎
作曲:ジェラール・プレスギュルヴィック
公演期間:2014年1月1日〜2月3日(宝塚大劇場)、2月14日〜3月29日(東京宝塚劇場)
あらすじ:フランスが生んだ最大のヒーロー、ナポレオン・ボナパルト。その栄光に彩られた人生の軌跡を、妻ジョセフィーヌとの愛と葛藤を中心に、切なくも激しい魅惑のメロディの数々に乗せ、壮大なスケールで描く。
柚希礼音宝塚100周年を迎えた2014年1月1日の公演初日、空気がピンと張りつめていたのが忘れられません。この日に舞台の真ん中に立たせていただけることの重さをつくづく感じて、緊張したのを覚えています。宝塚に出会えてよかった、宝塚のおかげで人としても芸事をする者としても成長させていただけたなと強く思いましたね。

ナポレオン・ボナパルトを演じた柚希さん

――柚希さんが演じたのは、フランスが生んだ最大のヒーロー、ナポレオン・ボナパルト。
柚希礼音宝塚100周年の公演ということで、何を題材にするか、小池先生もさんざん悩まれたそうです。大作ミュージカルを作るにあたって、とても人間味がある人物を選んでくださったなと思います。

私がこの作品で好きだったのは、ナポレオンが1幕のラストまで意気揚々と成功の階段を駆け上り、成し遂げていくのに、2幕になるとどんどん転落していくところ。ナポレオンが勢いのあるうちは民衆も「この人、最高!」とばかりに支持するのに、ひとたび落ち始めると手の平を返したように離れていく。そういうところがとてもリアルだなと思いましたし、頂点を極めた人はこういう思いをしてきたんだろうなと思いましたね。

自分で演じるまではナポレオンにはあまりなじみがなかったんですが、今では、「パリ」と聞くだけで「ナポレオン、ありがとう!」と思うくらい(笑)愛着を持っています。実在の人物ということもあり、毎日心の震える思いで演じていました。

――宝塚歌劇100周年を支えた柚希さんにナポレオンの栄光と転落の物語を当てた、小池先生の慧眼と愛情を感じます。
柚希礼音この作品を演じることで、星組もさらに一つになれました。栄光を極めたナポレオンが弱い部分をさらけ出していく姿を描かれたのも、小池先生の素晴らしさだと思います。

2幕ではみんながナポレオンの元を離れていったところで終わるんです。「えっ、ここで終わるの?」と驚きましたが、最後まで意地とプライドを持ち続けようとする男の生き方に惹かれましたね。ナポレオンを演じたことで、自分の中で新しいものが生まれた気がします。

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