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「俳句は特別な人のものではない」を体現…若者にも浸透させた夏井いつきの功績

 高視聴率番組『プレバト!!』(TBS系)の人気を長年に渡り牽引してきた俳人・夏井いつき氏。事前に提示される「兼題写真」をもとに、芸能人たちが作った俳句を辛口の解説で添削、ときには見違えるような句に生まれ変わらせる。俳句づくりだけではなく、講評や執筆活動、テレビ出演、講演会などにもひっぱりだこ。「敷居が高い」「高齢者の高尚な趣味」と思われがちだった俳句の世界を、幅広い人たちにわかりやすく伝える伝道師の役割を担う夏井いつき氏の功績を振り返ってみたい。

瞬間的に劇的添削…あの梅沢富美男すらも黙らせる“愛ある毒舌”

  • 夏井いつきの超カンタン! 俳句塾 夏井いつき著/世界文化社

    夏井いつきの超カンタン! 俳句塾 夏井いつき著/世界文化社

 そもそも夏井氏は中学校の元国語教師。趣味の俳句を独学で嗜みながら、1998年に教職を辞して俳人に転身。「感じたままを表現する」をモットーに、俳句集団をつくりながら多くの季語や語彙を吸収しつつ、「俳句の種まき運動」にまい進してきた。2013年に『プレバト!!』内の企画「才能査定ランキング」俳句部門を担当すると、歯に衣着せぬキレキレの批評を浴びせつつも相手の想いを汲み取り、わかりやすく解説して句作のアドバイスをするスタイルが大いにウケ、番組の人気を高める。視聴率が15%以上になることも珍しくなく、同時間帯の番組で全局トップに立つことも。「全国的な俳句ブームを牽引した」との理由で、2018年7月には「放送文化基金賞(個人・グループ部門)」を受賞するなど輝かしい経歴を誇っている。

 そんな夏井氏の最大のウリは、“愛のある毒舌”。芸能界のご意見番であり、他者を罵倒するイメージさえある梅沢富美男がドヤ顔で作った俳句を、平気で「採点不可!」と切り捨てる。梅沢が「このクソババア…」と不満を隠さず反発すると、「俳句の内容を確認してから文句言え!」とやり込める。偉そうな梅沢がシュンとする姿も痛快で、この夏井vs梅沢が『プレバト!!』人気に火をつけたといっても過言ではないだろう。

アイドルや芸人の新たな才能開花 本気のぶつかり合いで“ウィンウィン”の関係を構築

 また、俵万智氏の『サラダ記念日』に影響を受けて短歌を作っていたというフルーツポンチ・村上健志は、「コスモスや 女子を名字で よぶ男子」という中学・高校での情景が鮮やかに浮かんできそうな俳句を詠むと、いきなり「才能アリ」に認定され(同番組では「才能アリ」「凡人」「才能ナシ」の3段階で査定される)、普段のヘタレイメージから一転、意外な姿を見せることになった。しかし一方では、そのやる気があるのだかないのだかわからない態度を夏井氏に罵倒されるというのも定番。頻繁に出演するジャニーズ事務所所属タレントたちもその流れに乗っかっている。特に段位持ちのメンバーが多いKis‐My‐Ft2(名人4段・横尾渉、名人2段・千賀健永、特待生・北山宏光)は、今年発売したアルバムに夏井氏作詞の楽曲を収録している。

 今や「永世名人」となった梅沢富美男に対しても天敵関係にあるように見えながら、夏井氏は梅沢の本が出版された際、「『義理と人情、そして愛』が、このオッちゃんの心身をつくっている成分なんや」と賛辞を送っている。
 実際、タレントたちの多くは“ただのお遊び”“番組内の企画”といった枠を越え、本気で取り組んでいるように見えるのである。立川志らく(名人3段)は『プレバト!!』優先でスケジュールを組んでいることを明かしているし、Kis‐My‐Ft2も楽屋ではずっと俳句の話をしていると公言。出演者たちは、夏井氏に「いい加減にしろ!」「どいつがつくった作品なんだ?」と罵倒されても、ムッとしながら“おいしい”として必死に俳句に取り組む。結果、数字(視聴率)は取れるし、自分の知名度も上がる。夏井氏の毒舌と芸能人の本気の作品は、お互いにウインウインの関係として成り立っているようなのだ。

夏井氏の前ではみな“生徒” 暴言排除される世の中でも炎上皆無

 ただ、最近は“出る杭は打たれる”のが当たり前。SNS界隈では炎上する(させる)チャンスを待ち受けているかのような状況だが、夏井氏の毒舌が炎上する気配はない。特に人気アイドルと絡んで暴言を吐けばファンたちが噛みついて炎上しそうなものだが、夏井氏の俳句批評の確かな説得力、そしてどこか慈愛のある人間性のためか剣呑にならないのだ。もともと夏井氏が国語教師ということもあり、夏井氏の前ではタレントたちがみな“生徒”のように映り、視聴者にしても自分の学生時代と重ね合わせて、夏井氏とタレントたちに“先生と生徒”の構図を見ているのかもしれない。
 実際、夏井氏に褒められれば出演者たちは本気で喜び、最下位になれば本気で落胆する。タイトル戦の「冬麗戦」を獲った千賀健永などは特待生ながらも号泣し、7月9日放送ではラグビー選手の田中史朗氏が「才能アリ」を獲得し、得意の(!?)男泣きを披露した。さらに梅沢が永世名人を獲得したときは、夏井氏までが涙を見せている。厳しく指導している(されている)からこそ、達成したときは生徒も先生も互いに喜び合う。これこそまさに師弟の関係ではないだろうか。


 今では、俳句の楽しさをもっともっと気軽に伝えたいという思いから、公式YouTubeチャンネル「夏井いつき俳句チャンネル」を今年4月に開設し、ご子息とともに登場している夏井いつき氏。初回から「俳句始めてすぐの人が質問を投げてくるけど、くだらないことが多くて。そんなことに私の脳みそと口を使わすなって腹が立つときが結構ある。だから私が楽をするために(YouTube始めた)」と、相変わらずの毒舌を見せつけていた。
 しかしそこには、“ジジババがやる高尚な趣味”だと思っていた若年層にも俳句がエンタメになることをしっかりと示し、俳句を楽しむことで誰かの役に立ってほしいという“夏井先生”の愛が見え隠れしているのである。

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