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3DCG『攻殻機動隊』話題 P語る“現在”を捉えて描く“近未来SF”の定義とは?

 先日、Netflixオリジナルアニメシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』で、敢えて文字化けさせたTwitterのプロモーション投稿が話題になった。内容は「#謾サ谿サ讖溷虚髫SAC_2045 本じ??16時よりNetflix??独?配信スタあト!」といったもので、ユーザーは「斬新」「これは演出?」など熱狂。『攻殻機動隊』シリーズといえば30年前から電脳空間・ハッキングなども内包する近未来を描いてきたSF作品。今回、コロナ禍で舞台挨拶などリアルイベントも実現できない中、作品の特徴を生かした新たな試みが際立っていた。そんなシリーズ初のフル3DCG作品でもある同作の魅力とSFの定義について、プロダクションI.Gのプロデューサー・牧野治康氏に直撃した。

フル3DCGにより、人物の芝居で濃厚なドラマを描くアニメ作品が実現?

 『攻殻機動隊』は、漫画家・士郎正宗のコミックを原作とする人気アニメシリーズ。1995年の押井守監督による映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を皮切りに、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ(以下「S.A.C.」シリーズ)など続々とアニメ化。世界的にも人気の高いシリーズとなっている。

 その最新アニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』はシリーズ初のフル3DCGを採用。2019年、Netflixで最も見られたアニメ(日本)第1位に輝いたオリジナルアニメ『ULTRAMAN』で共同監督を務めた神山健治氏と荒牧伸志氏が再タッグ。神山氏は「S.A.C」シリーズでも監督を、荒牧氏は士郎正宗のメジャーデビューコミック『アップルシード』のアニメ映画(日本初のフル3Dライブアニメ)の監督を務めており、士郎正宗ワールドと非常に親和性が高い。
 「きっかけは、『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』での荒牧監督とプロダクションI.Gの石川光久社長の雑談から生まれました」と牧野氏。「荒牧監督が“『攻殻機動隊』をフル3DCGアニメでやったら面白いんじゃないか”ともちかけたところ、“どうすればそれが出来る?”と社長が乗ってきて。そこから始まったと聞いています」(牧野氏)

 荒牧監督は以前より、フル3DCGにすれば、アニメでも人間ドラマが実写のように深く描けると感じていた。押井守監督の『機動警察パトレイバー』をはじめとする、リアルさを伴った演出によって、まるで実写のように人物の芝居を見せる作品は、かつては「ジャパニメーション」という呼称を伴って世界中のクリエイターから高い評価を受けていたが、膨大な手間暇と高度なスキルを要する手法であるにもかかわらず、仕上がりが地味に見えてしまうことなどから、挑戦する作り手が減ってしまったと牧野氏は言う。
 「神山監督のこれまでの作品を見て、キャラクターに芝居をさせてドラマを作ろうという意識の強い演出だと感じていた荒牧監督が『攻殻機動隊』をフル3DCG化するにあたり、真っ先に『神山さんと組んで監督したい』と要望されたことで、アニメ業界では稀な共同監督スタイルが実現したんです」(牧野氏)

セリフ量や人物・背景の制作に課題も…実はフル3DCGに最も向いているのは『サザエさん』!?

Netflix公式チャンネルで公開中のメイキング動画では、モーションキャプチャ―の様子も紹介
 同作はモーションキャプチャという手法を用いている。これは役者がお芝居をして、CGで取り込み、アニメにする技法。映画のアクションのスタントシーンやゲームなどでも使用されている手法だ。「役者の芝居」からアニメを作るため、「アニメでドラマをしっかり描きたい」と考える神山監督にとっても願ったり叶ったりの状況が生まれた。

 だが、牧野氏が「皆さん『攻殻機動隊』はフル3DCGと親和性いいよね、と言ってくださるのですが…現場の感覚としては、こんなに3DCGでやってほしくない作品は無いんです(笑)」と語るように、問題も少なからずあった。まず情報量の多い『攻殻機動隊』ならではのセリフ量。アニメの人物の芝居は省略されているため、その分、多くのセリフが入る。だがモーションキャプチャで人間の動きを取り入れると芝居の省略が無いため、「神山監督の手で脚本を極限までシェイプアップしていた」(牧野氏)と言う。

 さらには制作費の問題。同作はキャラクターが多く、さらには前半部分がロードムービー風のストーリーでもあるため、舞台も次から次へと変わるのが特徴だ。その分、必要な人物や背景のモデリング作業が増えていくことになる。つまり、非常に手間とお金がかかる。「その結果、配信を1年後に控えた頃に、制作スタッフから不満が爆発しかけたこともありました。が、スタッフと両監督が血のにじむような苦労を重ねて遂に完成。皆様にお届けすることが出来たのです」(牧野氏)

 同作は配信するや否や、Netflixの毎日更新される日本国内の総合トップ10に名を連ね続けた。過去シリーズをいま改めて観ている人によるソーシャル投稿も多く見られ、苦労に見合う大成功を収めた。ちなみに、牧野氏によれば、最もフル3DCGに向いている作品は『サザエさん』だそうだ。
 「同じ家の中で衣装もあまり変わらない登場人物が日常芝居をしてくれるので、モデリング作業が最小限で済むんです(笑)」(牧野氏)

“予見”していたのではなく、現実をしっかり分析した結果の近未来SF

 『攻殻機動隊』シリーズは、「未来を予見したSF作品」として例に挙げられることが多い。インターネット、ネット犯罪、SNSの登場。今シリーズでは、世界同時デフォルトによる金融危機が起こり、世界が「サスティナブル・ウォー(持続可能な戦争)」に巻き込まれている状態が描かれている。戦争状態であるにも関わらず、ありふれた日常生活は継続されている世界観で、これに対し、「コロナ禍のパンデミックによる現在の状況を予見していたのか」との声も上がっている。

 牧野氏は「本作は未来を予見しているのではなく、“現在”を描いている」と解説する。「神山監督は、脚本会議で“今、世界で起こっていること”を議題にあげます。このプロジェクトが立ち上がったのは5年ほど前。当時、『2045年にAIが人間の知能を超える』という“シンギュラリティ”問題が叫ばれており、それらに対して皆がどう考えるか、意見を出し合っていました。つまり未来ではなく現在を、現実をじっくりと分析した結果生まれた近未来であり“予見”は結果論です」。

 “今”をするどく切り取って作られた世界観。よって配信時、コロナ禍によって、作品のプロモーションがまったく出来なくなることは、さすがの『攻殻』チームでも“予見”できなかった。イベント、物販用のグッズ、その準備のすべてが無駄になり、リアルな空間を使った宣伝活動はすべて不可能となるかに思われた。だがこの状況をひっくり返したのが、「攻殻」風に言えば“電脳空間”によってだった。
 「これはNetflixの功績なのですが、用意していたイベントの素材を余すことなくオンラインの空間に持ち込んでいただけたのです。例えば自宅にいながらエンターテインメントが楽しめる渋谷区公認のプラットフォーム『バーチャル渋谷』。その初日に本作とのコラボが開催され、すぐ定員オーバーに。YouTubeでも分散して開催したところ東京ドーム規模の約6万人に参加をいただけました。ネット空間で東京ドーム規模のイベントが出来ることを、いみじくもコロナ禍で証明してしまったのです」(牧野氏)

 そのほか「AnimeJapan 2020」イベントで出す予定だった資料や映像素材も、VR空間上の展示即売会『バーチャルマーケット4』で展示。その場で作品のマスコット的なキャラクターである「タチコマ」の3Dアバターを販売し、好調な売上げを記録するなど、通常の商業活動と同じことがオンライン空間で可能な時代が訪れていることが分かった。「もしかしたら、革新的な“変化”とは、起こそうと思って起こるのではなく、こういった“やむを得ず”の状況から起こるのかも知れません」と牧野氏。

 世界はコロナ禍により相当な被害を受けている。すべての被害を受けた人々に「何か出来ることがあるかもしれない。諦めないでほしい」と牧野氏はエールを送る。オンライン空間は今も、我々の目の前に広がっている。このコロナ禍でも出来ることは何かあるはずだ。『攻殻機動隊 SAC_2045』が描く未来は、今ここに、すでにある。今後さらなる革新的な変化が生まれる可能性もある。

(取材・文/衣輪晋一)
Twitterで話題となった“文字化け”プロモーション

Information

Netflixオリジナルアニメシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』
Netflixにて全世界独占配信中(※中国本土を除く)
攻殻機動隊 SAC_2045 公式サイト

<STORY>
2045年。全ての国家を震撼させる経済災害「全世界同時デフォルト」の発生と、AIの爆発的な進化により、世界は計画的且つ持続可能な戦争“サスティナブル・ウォー”へと突入した。だが人々が、AIによる人類滅亡への危機を日常レベルで実感できるまでには衰退の進んでいない近未来――。
内戦・紛争を渡り歩き、廃墟が横たわるアメリカ大陸西海岸において、傭兵部隊として腕を奮っている全身義体のサイボーグ・草薙素子とバトーたち元・公安9課のメンバー。電脳犯罪やテロに対する攻性の組織に所属し、卓越した電脳・戦闘スキルを誇っていた彼女らにとって、この時代はまさにこの世の春である。そんな草薙率いる部隊の前に、“ポスト・ヒューマン”と呼ばれる驚異的な知能と身体能力を持つ存在が突如として現れる。彼らは如何にして生まれ、その目的とは。大国間の謀略渦巻くなか、いま再び“攻殻機動隊”が組織される――。

<キャスト>
草薙素子:田中敦子、荒巻大輔:阪 脩、バトー:大塚明夫、トグサ:山寺宏一
イシカワ:仲野 裕、サイトー:大川 透、パズ:小野塚貴志、ボーマ:山口太郎、タチコマ:玉川砂記子
江崎プリン:潘めぐみ、スタンダード:津田健次郎、ジョン・スミス:曽世海司、久利須・大友・帝都:喜山茂雄

原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(講談社 KCデラックス刊)
監督:神山健治 × 荒牧伸志 シリーズ構成:神山健治
製作:攻殻機動隊2045製作委員会
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
『攻殻機動隊 S.A.C. TRILOGY-BOX:STANDARD EDITION』
公式サイト
最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』始動記念
Netflixでも好評配信中、神山健治監督による『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のTVシリーズ総集編OVA2作品 + 長編OVA1作品をコンプリートしたBlu-ray BOXがスペシャルプライスの新仕様で登場!

<収録内容>
 ■『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man』 :TVシリーズ第1期 総集編OVA(160分/2005年)
 ■『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG Individual Eleven』 :TVシリーズ第2期 総集編OVA(161分/2005年)
 ■『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』 :新作長編OVA(108分/2006年)
 ■特典DISC:既発売のBOX収録の180分を超える映像特典を収録

<キャスト>
草薙素子:田中敦子、荒巻大輔:阪脩、バトー:大塚明夫、トグサ:山寺宏一、イシカワ:仲野裕
サイトー:大川透、パズ:小野塚貴志、ボーマ:山口太郎、タチコマ:玉川紗己子(現:玉川砂記子)

原作・協力:士郎正宗 企画:石川光久・渡辺繁 監督:神山健治
製作:攻殻機動隊製作委員会
(C)士郎正宗・ Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会 

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