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『ぐりとぐら』『エルマー』『うさこちゃん』親子3代で愛される福音館絵本のヒット法則とは

日本オリジナル『ぐりとぐら』も世界的ヒット 人気の理由は“白背景”の多さ?

 1963年に雑誌『母の友』に掲載され、その後ハードカバーになった『ぐりとぐら』。初作の日本での重版回数は200回以上、シリーズ累計発行部数は2080万部を超え、世界12の国と地域でも出版されている。驚異的な人気の理由の1つに、シンプルでキャッチーなタイトルが挙げられるだろう。これは、子どもたちから生まれた言葉だ。

「作者の中川李枝子さんは、長年保育士さんをしていました。ネズミが出てくるフランスの絵本を子どもたちに読んでいた時、“ぐりっ、ぐるっ、ぐらっ”という言葉の出てくる場面が大人気だったそうなんですね。そこから、『ぐりとぐら』というネーミングが生まれました」(こどものとも第一編集部 編集長・関根里江さん)
 本作がヒットした理由は、「タイトルも含め、“子どもたちにとってうれしいこと”がつまっているから」だという。

「遊ぶこと、作ること、料理すること、みんなで分け合っておいしいものを食べること…子どもが大好きなことがたくさん入っていて、こういうところに行ってみたいと思わせる力を持っている。“人気が出た”というよりは、“子どもたちが選んだ本”という感じがありますね」(関根さん)

 保育士だった中川さんは、子どもたちとのエピソードや実体験を元にストーリーを制作。挿絵を担当するのは、中川さんの妹である山脇百合子さんだ。姉妹の阿吽の呼吸で生み出された本作品は、真実に裏打ちされ、共感と想像をふくらませやすい物語に加え、山脇さんの描くシンプルな絵の力も大きい。
「素朴な線で描くスタイルがすばらしい。山脇さんご自身がシンプルなものがお好きで、そのものをきちんと描く方なんです。まずは本物を見てスケッチして、そこから本質を取り出すようにシンプルに簡略化されて絵を描かれているんです」(関根さん)

 イラストの背景の白い部分が多いことも、理由があるのだろうか。

「余白の大事さを考えられていたと思います。余白があることによって、読者は自分の想像をふくらませることができる。書き込んで読者にアピールするよりは、自然に子どもたちを引き込む魅力があるんですよね」(関根さん)

大人作品の“ベストセラー”、絵本作品の“ロングセラー”の違いとは「子どもたちの本質」

 長年愛される作品に共通する“シンプルさ”。時代や個々によって異なる子どもたちの想像の余地を残すことが、ロングセラーを支える理由のひとつになっている。また、長く読み継がれる絵本は、“子どもの求めているものが形になった作品”だと関根さんは言う。

「大人の本は流行りやベストセラーがありますが、子どもの本質はいつの時代も変わらないからロングセラーになるのかなと。ただ、私も含め、大人になってしまった人たちが作るのでとても難しいことではあるんですけど、常に経験の少ない子どもたちにどうやって受け取りやすい形で伝えて喜んでもらえるか、を考えて作ることを心掛けています」
 「うさこちゃん」シリーズ担当の宇田さんは、人気が色あせないロングセラーの最低限の条件について、翻訳者の石井桃子さんの言葉を教えてくれた。

「幼い子どものためのお話を書く人は、昔話にとっぷりひたり、その軽快さ、意味の深さ、むだのなさを自分の中にしまいこむ必要がある。その上で、いったい何が人生の重大事なのかを、象徴的、具体的、情景描写なし、心理描写なしに語らなければならない」

 作品を選ぶ際には、「一過性の物ではなく残るかどうか」を大事にしているという多賀谷さん。絵本の制作途中には、実際に声に出して何度も読み合い、違和感のある表現は都度修正するのだという。
 とことん子ども目線を意識した愛情に、作者の意図を最大限尊重した誠実さ。さらには、絶対的な人気を確立した作品でも、色合い、用紙、フォントまでいつまでも追求・工夫・改良を重ねる制作のこだわり。今回お話を聞いた関根さん、多賀谷さん、宇田さん3人全員が、共通してそれらを持って本づくりに携わってきたことを強く感じた。

 「うさこちゃん」シリーズとともに喜び悲しみ、『ぐりとぐら』の巨大カステラに胸を弾ませ、『エルマーのぼうけん』で未知の世界に飛び込んでいく高揚感を体験した子どもたちは数知れない。いくつになっても色濃く脳裏に焼き付いている、あらゆる“初めての感情”を絵本は与えてくれる。そのかけがえのない感情を、世代を超えて、文化の違いや国境をも越えて共有しうる作品を、これからも世界中に届けてくれることを期待したい。


(取材・文=辻内史佳)

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