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阿佐ヶ谷姉妹の“令和的芸風” 品性貫く「おばさんの尊さ」

 M-1で注目されたぺこぱを代表とした、「誰も傷つけない笑い」が令和のお笑いを象徴するキーワードになりつつある。コロナ禍で番組収録が困難となり、バラエティも過去放送を編集し直す回が多くなっている今。ぺこぱ以前にも「誰も傷つけない笑い」を貫いていた女性芸人がいた。価値観の多様化が進み、誰かを下げるような発言を改める気運の高まる令和的時代に光る、阿佐ヶ谷姉妹の品性が垣間見れる「おばさんの尊さ」とは?

ド定番は使わない…でも芸人としてのスタンスは心得ている

  • 仲の良さも見ていてほのぼのしてしまう阿佐ヶ谷姉妹 (C)ORICON NewS inc.

    仲の良さも見ていてほのぼのしてしまう阿佐ヶ谷姉妹 (C)ORICON NewS inc.

 女性のお笑い芸人といえば、イジられてナンボ。昨今だとデリケートな問題にもなりつつあるが、容姿イジりや独身イジりは山田花子をはじめ、久本雅美、大久保佳代子、近藤春菜などがブレイクの過程で必ず通った道といっても過言ではない。その中で、40代・独身の阿佐ヶ谷姉妹もその路線はしっかり辿ってきた。

 しかし、単にそのレールだけを歩んできたわけではなく、彼女たちは定番を生かした独自の芸風で人気を伸ばしてきた。何より決して悲観的にとらえず、ニュートラルに自分たちを受け入れ“おばさんあるある”などもネタとして昇華している。“誰も傷つけない笑い”という点では、『M-1グランプリ 2019』で確かな爪痕を残したぺこぱの漫才とも共通する部分があり、女性芸人の中では異色の存在感を放っていると言える。

 “誰も傷つけない”と言っても、決して“守りのお笑い”というわけではない。2008年から『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の名物企画「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」で披露し続けているネタは、“由紀さおり・安田祥子姉妹”といった芸能人から、“万引きをする主婦”、“宗教勧誘する人”といった一般人まで幅広く取り扱っており、地味ながらも1つの枠に止まらないアグレッシブさがうかがえる。

 また、おかっぱ頭にメガネ、ピンクのドレスをトレードマークとしているが、ごくまれに「ビキニ姿」を披露することも…。2016年8月の『有吉弘行のダレトク!?』(フジテレビ系)でお披露目した際は、SNS上で「思ったよりセクシー」「ギャップにびっくりした」という驚きの声も相次いでおり、芸人の定番・体を張った仕事も節々できっちりこなしている印象だ。

 芸人としての仕事を地道に全うしつつ、その存在を画一してきた阿佐ヶ谷姉妹。2018年の『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)では、見事2代目王者の座を勝ち取った。そこから、バラエティのみならず、ラジオにも仕事の幅を広げ、文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ!』では、レポーターを務めていたが、今年3月からは月曜パートナーに就任した。先日は、コロナ感染拡大防止策のため、声のみのリモート出演も関わらず、露出度高めの“水着エプロン”を披露。声を弾ませおどける様子からは、「今やれることをやってみよう」というチャレンジ精神もうかがわせた。

“等身大のおばさん” 悲壮感のない朗らかな2人の空気

 2007年結成の渡辺江里子(47)と木村美穂(46)からなる阿佐ヶ谷姉妹。彼女たちの芸風としてよく挙がるのが、“等身大”というキーワードだ。鉄板ネタの「おばさんあるある」を筆頭に、19年2月13日放送の『家事ヤロウ!!!』(テレビ朝日系)で料理を披露した際には、自宅で栽培しているシソを使い食費を節約。一方で、自動販売機でしか買えない「だし道楽」や、知る人ぞ知る受注生産ドレッシングを用いるなど調味料に執着する一面は、日常に細やかなこだわりを持って生きる女性のリアルな生き方そのもの。

 その名をさらに世間に押し上げるきっかけとなったのが、昨年番組の企画でスタートしたYouTubeの“モーニングルーティーン動画”。みるみる再生回数を伸ばし、5日ほどで再生回数120万超えとなり、注目を集めた。

 先に起きた木村が、渡辺から「おはようメール」が来ないことを心配して壁をドンドン叩くことから始まり、朝ごはんを作っている最中には熱くなった酢でむせたり、木村が寝たまま歯を磨いたり…と「お笑いを見ている」というよりも、2人の日常をのぞき見しているかのよう。アラフィフ女性のなんてことない日常を見ているのだが、今あるもので楽しもうとする2人の朗らかな空気感に、「こんな生き方いいな」「歳を取ることが楽しみになった」というコメントも相次いだ。

 コロナ禍でいえば、水曜レギュラーメンバーとして出演している『ヒルナンデス』(日本テレビ系)で、2人が岡山県を旅するシリーズの完結編が再放送され話題となった。ゆったりとした“等身大”の掛け合いに「コロナのニュースばかりでしんどかったけど癒された」「ほっこりした」など好感の声が相次ぎTwitterのトレンド入りを果たすまでに。その後も「阿佐ヶ谷姉妹みたさに毎週、観ている」といった声が多く集まっていることから、2人のようなお笑いスタイルは今、まさに多くの人に求められている。

品性がカギ…これからの時代に合ったお笑い

  • たまにピンク以外の衣装もまとう姿にドキッとする(C)ORICON NewS inc.

    たまにピンク以外の衣装もまとう姿にドキッとする(C)ORICON NewS inc.

 お笑い芸人ではあるが、ブームとなったギャグがない2人。しかし、コロナ禍が功を奏しといっていいのか不明だが、さらに自身の存在感を大きくしている。その理由は、時代に合った“品性”が備わっているからだろう。

 ボケた相手に対して「なんでやねん!」「もうええわ!」などと強い口調で否定する返しがツッコミとして一般的な中で、2人は互いのおかしな行動にツッコミを入れる時でさえも「そうなのね」「わかるわ、でもね」などと穏やかな口調で指摘し、相手を尊重しあっている。その片影は、番組の共演相手やロケで出会った一般人への言葉遣いや振る舞いなど端々に表れており、事実、阿佐ヶ谷姉妹の出る番組には、「誰も傷つけない」「嫌味がない」との感想が目立つ。

 当たり前を押し付けることなく、相手らしさを尊重した上でしっかりと笑いに落とし込むスタイルが、情報にあふれ価値観や選択肢が多様化するこの時代にハマり、評価されるようになった。それは、人を妬んだり恨んだりせず、常に自分や周りを尊重しながら生きてきた2人だからこそ成せる技なのだろう。外出自粛でストレスの溜まる人々の心に、阿佐ヶ谷姉妹はひと時の潤いを与えつつ、等身大の自分を愛し、相手を尊重しつつも楽しいお笑いはできる、ということを示してくれている、まさに “令和的芸風”といえよう。

 もちろん、既存のお笑いを否定するのではなく、すべてのお笑いが“誰も傷つけない”ものになってしまえば、それはそれで面白みがない。しかし、芸能界全体で見ると、近年自身を表現する際、ボーダーラインを設けない個性尊重の潮流が芽生えており、まわりもその多様性を積極的に受け入れる姿勢が浸透している。そんな中で今、阿佐ヶ谷姉妹のお笑いが多くの人に求められるということは、お笑い業界にもその“第一波”がきているのは間違いない。

(文/向井美帆)

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