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一家に一台も? “3Dプリンター”造形師が明かす現在地「ポチらず出力する時代へ」

 Twitterでマッコウクジラの玉骨標本が1.8万RT、9.9万いいねが集まり話題に。透明なシルエットの中に骨格が浮かぶ作品に多くの反響が集まっている。この作品は、3Dプリンターで作成されたものだという。作者の吉本さんに、今回のマッコウクジラの玉骨標本の制作秘話や、3Dプリンターの可能性、普及への課題などを聞いた。

マッコウクジラのツイートの発端は、教育プロジェクトのお披露目

作者の吉本大輝さんは、京都造形芸術大学油画科を卒業後、ホビーメーカーに就職。その後、独立し起業した経歴の持ち主で、アニメやハリウッド映画などの様々な商業フィギュア造形に従事。さらに、メーカーのテクニカルアドバイザーや大阪成蹊大学の教員を務めるフルカラー3Dプリンターの第一人者だ。

――マッコウクジラの玉骨標本がSNSで話題になりました。
吉本さん 元々マッコウクジラの玉骨標本は海洋生物の教育プロジェクトでお披露目するものでした。しかし、プロジェクトが延期になり展示が無くなってしまったためSNSにアップしたところ予想以上の反響で驚きました。まさかここまで反応していただけるとは思っておりませんでした。

――マッコウクジラの玉骨標本を3Dプリンターで作ろうと思ったのはなぜですか?
吉本さん 骨格標本は博物館などで皆さんもご覧になられたことがあると思います。今回のマッコウクジラを例として挙げますと、特徴的な大きな頭の中には実はほとんど骨がありません。この骨格と外観形状との差異がとても面白いので、一目見ただけでそれわかるような標本をつくりたいと思ったのが制作のきっかけでした。

――3Dプリンターだからこそ実現できることなのでしょうか。
吉本さん はい。それができるのがミマキエンジニアリングさん(国産メーカー)のフルカラー3Dプリンター『3DUJ-553』だったので、今回マッコウクジラをモチーフに玉骨標本を作成いたしました。実際にSNSでもたくさんのコメントをいただきましたが、「ここにあるこの骨ってなんだろう?」とか、「こんなに大きい頭の中に骨がほとんど無いけど何が入っているのだろう?」など、多くの方に興味を持っていただけたようです。骨を見ただけでは普段気付くことのできないところまで気づいていただけたのではないかなと標本としての手応えを感じることができました。

――購入希望者も多数いらっしゃいますが、反応はいかがですか?
吉本さん やはり骨格と外観を同時に見ることができるというのが一番魅力に感じていただけているという印象を受けました。透明な体の中に骨格が浮いている模型は今までありそうでなかったので、一目惚れされた方が多かったように思います。それ以外にも多かったのが博物館や大学などの研究員の方でした。こういう展示がしたい等、産官学の各方面から購入していただいたり、問い合わせが多く、展示としての需要も感じました。

3D標本の制作過程とは? まだまだ高額…強みと可能性

――では実際に3Dプリンターでどのように制作するのでしょうか。
吉本さん 今回の玉骨標本の制作の大きい流れは「モチーフ決め→資料集め→3Dモデリング(3Dデータ作成)→3Dプリンンターで出力→研磨」とこのような感じです。メインはZBrushという3Dモデリングソフトでデータを作成、調整し、ソフト上で色を塗り、素材を指定してあげれば、あとは3Dプリンターで出力という流れです。また素材は、ミマキエンジニアリングさんのフルカラー3Dプリンターの場合はアクリル樹脂でして外観の透明なところも、骨格の不透明なところも色が違うだけで全て同じ素材です。

――最後の磨き上げのところをあえてしていないバージョンも販売されていますね。
吉本さん 3Dプリンターは一層ずつ樹脂を積んで作っていくので地図の等高線のような同じ高さの積層痕と呼ばれる段差が出てしまいます。それを消して表面をツルツルにするためには人の手で磨かなければならず高価になります。そこで、価格を抑えてできるだけ多くの方に手に取っていただけるように磨き無しの玉骨標本も用意しました。実際にフルカラー3Dプリンターの出力されたままの状態に触れて欲しいという思惑もありましたね。積層痕が残った状態も、味わいがあって好きと言う人も意外と多く、磨かずに飾っておくという人も。あと、意外と自分でピカピカにしたい「磨き好き」の方が結構な割合でいることが今回の発見でした。

――今回こんな作品が作れるんだ!という発見があった人も多いと思います。3Dプリンターはどのような得意分野があるのでしょうか?
吉本さん プラスチック樹脂の成型品を、金型を用いずに1個から作れるというのが一つの特徴です。欲しいと思ったもの、頭の中にイメージできたものを、3Dモデリングの技術さえあれば複雑に入り組んだ構造であっても簡単に実現できるのは3Dプリンターの強みです。

――今後の3Dプリンターの可能性は?
吉本さん まだコストが高いので、価格では金型を使う量産品にはかないません。一方で、1個から特注品を作ることができるという特性を活かし、イベント会場で販売するグッズなどでは既に利用されています。また精密に作ることができるという特徴を生かし、学術研究への利用は今後さらに普及するのではないかと考えています。

“一家に一台”3Dプリンターの時代も到来?

――先ほども、マッコウクジラも研究員の方から問い合わせがあったとお聞きしましたが。
吉本さん そうですね。今回は実際に博物館に骨の標本を見に行ったりして完成させたのですが、大学の研究者の方から、このような標本を求めていたという声を聞きました。今後大学や博物館などと連携して他の生物でのモデル化を進め始めています。

――すでに実現に向けて動いているんですね。
吉本さん あと、もう一つは少し未来の話になりますが、フルカラー3Dプリンターが今後もっと普及していくと物流をも変えてしまうと考えています。近い将来一家に一台3Dプリンターが置かれる時代が来ると、商品を注文するのではなく3Dデータを売買し各家庭で3Dプリンターで出力する時代がきます。商品を注文して発送されるという今まで当たり前だった物流が大きく変わるのです。

――これから、3Dプリンターが普及していくために必要なことは何でしょうか?
吉本さん まず、家庭に浸透させるにはコンテンツが重要だと考えています。欲しいと思ったもののデータが簡単に手に入り、しかもデータ作成者の権利もきちんと守られ適正なフィーが還元されるような「3Dデータの流通の仕組み」の整備が必要になると思います。

――3Dプリンターはデータがあってこそなのですね。
吉本さん そうですね。なので、私が一番大きい障壁と考えており、特に力を入れているのが『教育』です。3Dプリンターはなんでも作れる「魔法の機械」のイメージがありますが、出力するには当然ながらデータを作る必要があります。そのためには3Dモデラーを底上げしなければいけません。ですが、私自身も独学で周りに聞く人もおらず苦労した経験があります。海外ではSTEM教育の一環で3Dプリンターを教材にしたカリキュラムが実際に組まれています。日本でも早い時期に3Dモデリングに触れる機会ができると、将来なりたい職業に3Dモデラーを挙げる子どもが増えるのではないかと期待しております。

大量消費からの脱却?博物館や水族館との連携も

――ちなみに吉本さんは3Dプリンターとどのように出会ったのでしょうか?
吉本さん 元々僕は絵を描く仕事に就きたく、大学で油絵を学んでいたのですが、在学中に粘土造形にハマり、造形の仕事がしてみたいなと思った時に3Dプリンターと出会い3Dモデリングソフトを購入して作品を作るようになりました。その流れで今はアニメやハリウッド映画などの商業フィギュアの造形をしたり3DCG用の3Dモデルを作成したりする仕事をしております。また大学の講師や小学生向けの3Dモデリングのワークショップを開催したりなど3D教育にも力を入れております。

――幅広くご活躍されている吉本さんですが、ご自身で作品を作る上でこだわっている部分はどのようなところでしょうか。
吉本さん 細部にこだわることです。手元に残しておきたいと思うものには何か感じるものが必ずあると思います。平面ではなく立体のリアルなモノが欲しい人は、モノそのものが欲しいのではなく、その世界観とかそれが生活の中に存在するシーンをもとめているのではないかと思います。そのような人の五感に触れるようなものには、細部へのこだわりが絶対に必要だと思います。まさに神は細部に宿るですね。
――吉本さんの作品には細部へのこだわりが感じられるものばかりです。
吉本さん 玉骨標本以外にもミマキエンジニアリングさんのフルカラー3Dプリンターでしかできない造形表現を試みた作品もたくさん作っております。2018年には長野県の岩松院にある葛飾北斎の天井画『八方睨み鳳凰図』の立体化なども手がけました。どの方向から見ても鳳凰に睨まれているように見える天井画で、天井を見上げた鑑賞者が思わず立ちすくんでしまうほどの迫力を持った北斎最大の肉筆画です。やはりその中で再現に一番注力したところは、どこから見ても睨まれているという『八方睨み』の表現を立体に落とし込むことでした。

――立体ならではの迫力が感じられます。では、3Dプリンターの魅力を教えてください。
吉本さん 完全な受注生産ができるところや、在庫を持たなくて良くなるので事業としてのリスクの回避だけではなく売れ残ることがないので廃棄が出ないので環境にも優しいですなどの具体的なメリットは色々あります。しかし、私にとっては自分の想いをかたちにできるところが最大の魅力です。そして3Dプリンターはまだまだ大きな可能性を秘めており、そこに自分が関わっていけると言うわくわく感も魅力の一つです。3Dプリンターにより大量生産、大量消費社会から抜け出す世の中が僕は楽しみです。

――今後、3Dプリンターに関してどのようなことに取り組んでいきたいですか?
吉本さん 今後博物館や大学や水族館などの産官学と連携して、3Dプリンターを有効活用できるフィールドを作っていきたいと思います。また子ども向けの教育などにも携わり、多くの人に3Dプリンター、3Dモデリングの魅力を感じてもらいたいと思います。これら、既に始めている活動もあるので、業界関係者の方々とも連携して、この市場を皆で大きくし、活性化していきたいと思います。

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