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ドラマ『M』と名作昼ドラとの類似点 突き抜けたケレン味の「馬鹿負け」ドラマが流行の兆し
平成の歌姫・浜崎あゆみの自伝的小説を仰々しいセリフ回しでいかに魅せるか?
そこに散りばめられているのは90年代のヒット曲たち。このほか90年代の街の風景や当時流行したアイテムなども登場。90年代のテレビ黄金期を過ごした40〜50代のコア層を狙った演出と見られ、当時を懐かしみながら観ることもできそうだ。
そんななか、予告動画の仰々しいセリフに注目が集まっている。例えば、三浦翔平演じるマサのセリフ「俺は神様なんかじゃない。でもな、神様からのメッセージは届く!」「俺はアユに可能性を感じているんです。奇跡を起こす可能性を!」「俺を信じろ!未来を想像すんだよ!」「俺の作った虹を渡れ!!」etc…。
役者陣の扮装やお芝居、演出もそうだ。なんだか派手に水をぶっかけられている安斉かれん、やたら人やモノに指を指して話す(若干お行儀は悪い)三浦翔平。そしてなぜか眼帯をつけている(中二病的扮装の)田中みな実。これにSNSでは「大映ドラマ調でちょっと面白い」「すんごいB級感」「今、必要であり、必然だよな」「ねぇマサ。いろんな意味で震えたよ。」などと“ざわざわ”。一周回って楽しむ、そんな現象が見られるのだ。
『真珠婦人』や『牡丹と薔薇』を彷彿させる演出に期待 『スマスマ』コント手掛けた鈴木おさむが如何に料理するか?
これを「SNS社会におけるマーケティング戦略」と解説するのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「SNSで個人が発信するのが当たり前になった現代、多くのユーザーが承認欲求を満たすため、“いいね”、“リツイート/拡散”されるネタ探しをしています。なかでも動画コンテンツは人気が高く、さらには“公式がこれやっちゃう?”的なものはとくにバズりやすい。昼ドラノリは当時はネット掲示板で話題になっていましたから、そもそもネット文化と相性が良い。当然今のSNS文化ともマッチするわけです」(同氏)
だが予告動画である以上、もともとのコンテンツありきとなる。そこでスタッフに目を向けてみよう。まずゼネラルプロデューサーが横地育英氏。横地氏といえばドラマ『スカイハイ』で「おいきなさい」を釈由美子に仰々しく言わせることで話題を作ったテレ朝きってのヒットメーカーだ。さらに「大映ドラマっぽい」とのSNSの指摘があるが、プロデューサー陣に山形亮介氏、佐藤雅彦氏と角川大映スタジオのスタッフが。さらに脚本家に鈴木おさむ氏の名前もある。
「鈴木さんは『SMAP×SMAP』でSMAPやゲスト役者陣に“真剣に”コントをさせてお茶の間を沸かせてきた稀代の作家。芸人ではない俳優や女優が、真剣にやればやるほど笑えてしまうという“笑いのバランス”を作るのに長けた方です。また以前、鈴木さんにお話を伺ったところ、『当然視聴率も重要だが、録画にせよ見逃し配信にせよ、テレビは“見てもらうこと”が一番大事』とおっしゃっていました。もちろん鈴木さんが面白いと感じることをやっているのでしょうが、仰々しいセリフや眼帯など、その“見てもらうため”の仕掛けが秀逸であり、この予告動画をも成功に導いたということでしょう」(衣輪氏)
ドラマの楽しみ方が多様化、“バカ負け”な非現実感もヒット作の特徴に
つまり、必要以上に仰々しかったり、古い演出だったりと、現実感を求める方がバカらしくなるような「馬鹿負け」ドラマがトレンドになっているのだ。『恋つづ』を例として挙げると、佐藤健演じる天堂先生の「こいつ、俺の彼女だから」といったセリフや仕草に「現実にこんな男いないよ!」「実際にいたらサムいよ」とツッコむのは“野暮”で、いっそのこと「馬鹿」になってキュンキュンしましょうという楽しみ方だ。
「近年の“馬鹿負け”を楽しむ傾向は『半沢直樹』(TBS系)の人気爆発が発端にありそう。あの時代劇のようなケレン味は『Doctor-X 外科医・大門未知子』(テレ朝系)にも受け継がれました。このほか代表的な“馬鹿負け”ドラマは、杏演じる万里香が悪巧みをすると突如、煽るような青い光で照らされる“万里香ライト”が話題になった『泣かないと決めた日』(フジテレビ系)、北川景子さんの“ゴー!”とともに突風が巻き起こる『家売る女』(日テレ系)、閃くと何故か数式を書き始める福山雅治さん主演『ガリレオ』(フジ系)、よく分からないけどヴァイオリンを弾く姿が格好いいから許せるディーン・フジオカさん主演『シャーロック』(フジ系)などが。全体的に増えてきてる印象ですね」(衣輪氏)
こうして「馬鹿負け」ドラマを楽しむ土壌が作られていき、さらに昨今はSNSが普及。さまざまな要素でリアリティのないものをムダに叩く風潮が薄れ、多様性が形成されているのが現状だ。衣輪氏はこれを「70〜90年代は“どうせドラマだから”と“ザ・ドラマ”を普通に楽しむ傾向がありました。そこに返ってきているのでは」とも分析する。
今作の『M 愛すべき人がいて』もそのトレンドにフレキシブルに対応できた作品と言えそう。90年代を描くからこそ、作り手も今時なスタイリッシュさを捨てた手法が意図的であり、その“ダサ面白い”が視聴者を沸かせる可能性は高い。実際にSNSでどう捉えられるのか、非常に興味深い。
(文/中野ナガ)