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小説家“兼業”人気絵師が語るラノベの醍醐味「文章が料理なら、イラストは盛り付けるお皿」

 『賭博師は祈らない』、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ファミリアクロニクル』などでイラストを担当するニリツさんは、日本を代表する人気絵師のひとり。そんな人気絵師が小説アプリ「LINEノベル」にて、小説家デビュー作「横濱SIKTH ―けれども世界、お前は終わらない―」を発表。小説を執筆しながらイラストも手掛けるという離れ業をやってのけたニリツさんに、小説とイラストの関係に対する見解を聞いた。

1枚のイラストが物語に…人気絵師が、小説を執筆

――まずは「横濱SIKTH」のストーリーについてお聞きしたいのですが、こちらはどういった経緯で思いつかれたのでしょう?
ニリツ もともとは、小説とはいっさい関係のないところで描いた、1枚の少女のイラストがきっかけなんです。その少女が、本作の主人公となる城黒セカイなんですけど、たった1枚の絵から、キャラクターの人物像をどんどん掘り下げていって。そこにさまざまな設定や世界観、エピソードなどを盛り込んでいき、ストーリーの軸を作り上げました。

――これまでは絵師として関わられてきたライトノベルを、ご自身でも執筆されたわけですが、実際に書いてみていかがでしたか?
ニリツ 予想はできていましたが、本当にたいへんな作業でしたね。イラストの場合は、特定の瞬間だけを切り取って絵にしますが、小説となると当然、その前後の時間も描かなければならない。そうなると、美しい事柄だけでなく、醜いものや不都合な事象もきちんと見つめて、自分の言葉で表現する必要があるんです。でもそれは、私自身の内面や、かっこ悪い部分をさらけ出す行為でもあるので、恥ずかしさといいますか、本当にこの表現で合っているのだろうか?という不安がつねにありました。

――それを振り払うのに、苦労されたと?
ニリツ 苦労もしましたが、新しいことに挑戦する感覚は楽しかったので、「これは洗礼だな」と思いながら乗りきりました(笑)。続巻を執筆中の今も、新しい発見がいっぱいあって。わくわくしながら筆を進めています。

――他の作家の作品に絵師として参加する場合と、本作のように、すべてをひとりで担当される場合では、心構えにも違いはあるのでしょうか?
ニリツ 「横濱SIKTH」に関しては、とにかく自由にやらせていただきました。カラーの口絵も、1枚は遠景で後ろ姿にしたり。本文中の挿絵では、顔すら写っていないイラストもけっこうあります。もちろん、このような構図にしたことには、ちゃんと理由があるのですが、他の作家さんの作品に関わらせていただく場合だと、ここまで自由にはできないですね。とはいえ、好きに描ける分、私自身が背負う責任も大きくなるので、いつもとは違うプレッシャーもあって。どちらのスタイルにもやり甲斐を感じているので、今後も両立していけたらいいな…と思っています。

イラストは、ラノベの世界観を共通認識で楽しむ手段にも

――登場人物が集合した表紙イラストは、とてもクールでカッコよく、作品の世界観があらわれているように感じます。こちらを手掛けられる際に、こだわったポイントを教えてください。
ニリツ 表紙に関しては、じつは担当編集の方のこだわりが強く反映されています。信頼している方なので、彼がいいと言ってくれるまで、何度でもリテイクを繰り返すつもりで挑んだところ、案の定、背景だけでも何パターンも描き直すことになりました。夕景なので、本当は全体的に薄暗い雰囲気になるはずなんですけど、そのままだと表情が潰れてしまうので、正面からもライトを当てることにして。ですので、じつは絵的な嘘が満載の1枚なんです。リアルよりもインパクトを優先した分、なかなかかっこよく仕上がったな…と、自負しています。

――こちらの表紙に惹かれて、本書を購入する方も多そうですね。ちなみに挿絵に関しては、どのような部分にこだわられたのでしょう?
ニリツ グレートーンを使わず、黒ベタのみで絵を構成したことですね。理由は、文章との関係性です。言わずもがなですが、ライトノベルにおける文章のパートは白黒のみです。以前から、本文と同じ黒ベタでのみで挿絵を描く事で、一冊の本の中で違った形の親和性が産まれるのではないかと思っていて、「横濱SIKTH」に関しては、文章と絵が混ざり合った作品に仕上げたかったので、黒ベタのみ…とさせていただきました。

――文章とイラストを、どちらも担当されたからこそ実現できたこだわりですね。
ニリツ それともう1点、キャラクターの顔の描写を極力少なくしたことも、こだわったポイントです。キャラクターの心情を表現するには、顔の表情を見せるのがいちばんなんですけど、本作は読者が文章を読んで想像した表情と挿絵の表情の認識のずれを排除する事で、スムーズに一冊を読み終えてもらえるのではと考えました。

――ライトノベルにおける表紙イラストや挿絵を、どのような存在だとお考えでしょうか?
ニリツ 文章を料理とするなら、イラストはそれを盛り付けるお皿、あるいはテーブル。さらにいえば、お客さんに気分よく料理を味わってもらうための内装や照明、BGMに当たるものだと考えています。作品そのものをレストランに見立てるなら、看板や店構えといった、お店のイメージを視覚的に伝えるための要素…といったところでしょうか。

――なるほど。
ニリツ それと、もうひと言付け加えるなら、読者の皆さんに“共通認識”を持っていただくうえでも、イラストは非常に効果的な手段だと言えるでしょうね。キャラクターの外見やシーンの雰囲気などを絵に起こせば、複数名で共有できるイメージになるので、作品についても話しやすくなるんです。ライトノベルとは、読者同士で集まり、わいわい盛り上がれるのも楽しいコンテンツなので、その一助となるよう、これからもイラスト制作を続けていきたいです。

(文/ソムタム田井)

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