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消費されるオネエ枠でなぜIKKOだけが生き残ったのか? 唯一無二の“毒なし”スタイルの確立
オネエ特有の“毒”が求められてきたなか、唯一無二の“毒なし”IKKO
バラエティ番組が花盛りとなった90年代以降は、はるな愛、ミッツ・マングローブ、KABA.ちゃん、クリス松村、假屋崎省吾らが“オネエ枠”として活躍。さらに次世代では“ユニセックスオネエ”として登場したGENKINGや、男性ハーフモデルのIVAN、メイクアップアーティストのピカ子(本田ヒカル)、茶畑の妖精ことトシ子ちゃん、“ネオネエンターテイナー”を自称する“ミュージシャンオネエ”HIDEKiSMなど、キャラクター系オネエが次々と登場し、百花繚乱の様相を呈した。
テンション高めで自己主張が強く、共演者に対する厳しい発言も“異端の存在”として許されるオネエは、ときにご意見番的なポジションになることもある。何より他のタレントが担えないオネエ特有の“毒”はいい意味でのエッセンスとなり、バラエティ番組をはじめテレビのさまざまな場面で求められてきた。
とは言え、もともと“オネエ枠”は芸能界のなかでも狭い席。希少な存在だからこそインパクトもあり、かつ存在自体が輝きもする。ところがテレビ業界がオネエを“便利”に活用していった結果、やがてオネエタレントもインフレ状態に。一方で近年は性的マイノリティへの理解が進むなか、バラエティ番組で面白おかしく取り上げていいのか? 多様なジェンダーがあるなかで“オネエ”とひとくくりにしていいのか? といった議論も視聴者を含めたテレビ内外で巻き起こっている。
さんざん利用してきて勝手な話ではあるが、今やテレビ業界では“オネエ”の扱いは慎重なものとなりつつある。そうしたなか、地上波テレビで活躍する“オネエ”といえば、知性と毒の合わせ技で司会者としてのポジションを確固たるものとしたマツコ・デラックス、そして“毒”こそがオネエの面白さとされてきたなかで、毒のないスタイルを貫いてきたIKKOの二大巨頭となった。
これまでと真逆のスタンス…いじられ役も買って出る“人を傷つけない”IKKOスタイル
自分がイジられることで笑いにつながることをまったく問題としていないかのようなその姿勢は、視聴者にある種の安心感を与えている。さらにSNSでは、「IKKOさんはどんなにいじられたり嫌なことを言われても、相手を傷つけるようなことを言い返さないから本当に尊敬」「IKKOさんって常に前向きで、人が嫌がることを言わないししない、人間の器がでかい。もう大好きと言うより尊敬の方が大きい」「美容や美しさに対してもそうだけど、人間として魅力が溢れていて、見ているだけで笑顔になる」「繊細さと、豪快さを持ち合わせているIKKOさんは、人としても仕事に対する姿勢にしても尊敬」と、人を不快にさせない人柄が尊敬に値するとの評価が高い。
MCを務める『世界が仰天!どんだけ〜?』(テレビ朝日系)では、「『どんだけ〜』を言う回数はどんだけ?」といったクイズで浅草を舞台にロケを行い、100回を超える「どんだけ〜」を連発。ロケに気がついた通行人の要望にもしっかり応えるといった、そのサービス精神の高さは脱帽ものだ。
2007年の新語・流行語大賞にノミネートされた「どんだけ〜」だが、チョコレートプラネット・松尾駿のものまねによって再び注目。IKKOもまた再ブレイクのきっかけをつかんでいる。IKKOは「私は人生で2回、盛り上げていただいた」と松尾に感謝し、プライベートでも交流。2018年の松尾の結婚式の際には自筆の書を送ったりと、気配りの細やかな一面を覗かせている。
テレビ番組におけるイジりがいじめにつながるといった議論があるなか、さらに“オネエ”という属性へのイジりは繊細な課題となっている。また、ものまねといえばイジりの最たるもので嫌がる芸能人もいるなかで、IKKOは松尾のものまねを絶賛。そんな懐の深さも多くの人に安心感を与えている理由の1つだろう。
「美のカリスマ」だけでなくその行いも尊敬 “品の良さ”から本業に支障をきたさない
またテレビ番組では着物で出演することが多く、『徹子の部屋』(テレビ朝日系)ではパンダ好きの黒柳徹子のためにパンダ柄の着物を新調。場に合わせて着物を着こなすセンスには、「IKKOさんの着物いつも素敵だからテレビで見かけるのが楽しみ」、「IKKOさんの着物のセンス、品のある着こなし、和装を大切にする気持ち、全てが好きで尊敬しています」と着物愛好者からの支持も高い。東京国立博物館で開催される特別展『きもの KIMONO』で広報大使に任命されるなど、近年はその着物への造詣の深さでも注目度が上昇している。
ちなみに前述のチョコプラ・松尾には、ものまね衣装用に着物をプレゼントしたことも。IKKOは「(共演者などへの差し入れは)値段が高ければいいというわけではなく、その方を思い、今回は何にするかを考えることがとても大切」と語っており、手紙を添えることも忘れないという。
『特盛!よしもと 今田・八光のおしゃべりジャングル』(読売テレビ)では、今田耕司が「共演するときは必ず楽屋に手紙があって。最近は(丁寧すぎて手紙が)果たし状みたいになっている」とIKKOの礼節を重んじる姿勢を笑いを交えながら賞賛したこともあった。そうした細やかな心配りが他者を通して伝えられることで、バラエティ番組でのイジられキャラとは異なる“品の良さ”や“奥ゆかしさ”が視聴者にも浸透し、美容家としての本業に支障をきたすどころか、尊敬にもつながっている。
『全力教室 〜成功へのマジックワード〜』(フジテレビ系)では「1回しかない人生を絶対に暗くしてはいけない」と語ったIKKO。周囲を笑顔にし、人を幸せにするという人生の先輩(現在58歳)の言葉は若い世代にも善言として響いている。“オネエ”という立ち位置以上に職業人や人格者として本物、それでいて親しみもあるからこそ、「どんだけ〜」というフレーズも古びず価値を維持し続けているのだと言えるだろう。
かつてのテレビ業界ではオネエ枠の激しい世代交代があり、幾多もの“オネエ”が使い古されていった。そして世相を反映して今、テレビでは“オネエ属性”の扱いを手探りしているところもある。そんななかでテレビにおけるオネエの定番の役回りだった“毒”とは一線を画するスタイルを貫いてきたことで、唯一無二の存在となったIKKO。これからテレビで活躍したい若手芸人やタレントにとって、その姿勢から学べるところは大いにあるはずだ。
(文/児玉澄子)