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「エロと硬派」 “禁”を破りながら両軸運転 俳優・沢村一樹の気概
二枚目を断ち切るために開放した「エロ」 実は演技派俳優を作る基盤に
この後もバラエティ番組で下ネタ発言を繰り返し、ついに『行列のできる法律相談所』(日テレ系)で、島田紳助から「エロ男爵」のあだ名を。同番組では、沢村は「おっぱいは大きさでも形でもなくて…味です。味覚の話ではないですよ、“味”があるってことです」と、珠玉のコメント。また、劇場版『仮面ライダーゴースト』の完成披露試写会では、「浴衣は日本の発明品。何がいいって、(女性の)うなじ。よい子のみんなは、きょうは『うなじ』という言葉を覚えて帰ってください。ではご一緒に。『うなじ』!」とちびっこたちに唱和を求め、司会者から「よい子のみんなは、言わなくていいですよ」と叱られるなどもしていた。
「この背景には、二枚目役ばかりオファーされることへの危機があったようです」と話すのは、沢村一樹のインタビュー経験も多いメディア研究家の衣輪晋一氏。「そもそも俳優デビューが29歳の遅咲き。人気を博しましたが、一つ頭抜けるには、年齢的にも厳しくなりつつあった。彼が下ネタを解放したのは40歳前で、当時は今のように“おじさん俳優”がこぞって人気を博す時代ではなかった。二枚目役が次々と若手に奪われていくのを見た当時の沢村さんは、相当な焦りを感じていたと聞いています」(同氏)
「エロ」の解放が功を奏したのか、その後良作にも恵まれ始めた(『DOCTORS〜最強の名医〜』(テレ朝系)、『ナポレオンの村』(TBS系)など)。そして2018年の『西郷どん』(NHK総合)の制作発表会見では、“エロを完全封印”と発言。自身で確立させたブランド力への自信ともとれる。
エロを黒歴史にせず“愛されキャラ”に 出演作を増やし人気上向き
行き詰まりを脱却する切り札だった「エロ」ならば、今となっては「黒歴史」になるはず。「『平成仮面ライダー』シリーズ(テレ朝系)でブレイクした俳優が、その過去を封印しようとする流れが見られますが、沢村さんはまったくの逆。むしろそんな過去を誇っているかのように、その姿を取材陣にも見せてくるのです」(同氏)
一度バラエティに染まった俳優がドラマ(俳優)の舞台に戻ってくるのは困難。コントなどでのイロモノキャラの姿がちらついて、役柄に集中してもらいにくいのがその要因だ。だが沢村に関してはこれが当てはまらない。出演作が絶えず、俳優としての地位も確立。現在出演中の『絶対零度』もシーズン3からの主演続投、2019年には『ひよっこ』で朝ドラデビュー、大ヒットとなった『おっさんずラブ』(同年)の劇場版にも出演を果たすなど、ますます上向き。これが沢村のすごいところだ。
この理由を衣輪氏は「沢村さんが持つ品の良さ」と分析する。バラエティと俳優の両軸をかけていると評価が散漫になりがちだが、沢村の場合、自分でバランスを取れており、アンチも見当たらない。「このアンチの少なさは福山雅治さんとやや似たところがあります。福山さんも誰もが認める二枚目俳優・アーティストでしたが、これがラジオとなると下ネタ祭りに。この両軸の結果、モテ男なのに同性からの嫉妬はなく、逆に面白がられるという現象が起こっていました。ほか、二人の共通点は“品”の良さと“少年”っぽさ、そして“実力”。なかでも沢村さんは“おじさん俳優”人気時代とマッチして今、最も躍進する俳優の一人です」(同氏)
実力派俳優の裏付け 50代に入っても躍進
今回の『絶対零度』の井沢も、温厚と狂気が入り混じった役で相当に難しい役だ。物語も第1話に全体のクライマックスを見せて、遡ってその詳細が語られるという変化球。
「これを説得力たっぷりに好演しているのがすごいとの評を聞きますが、『浅見』シリーズで、多くのベテランにもまれてきた沢村さんを知っていれば、“実力派俳優”という評価は今さら過ぎます。「エロ男爵」の陰に隠れていただけで、その頃からお芝居のポテンシャルは相当に高かった。現在の50代俳優人気を見ると、視聴者の目が肥え、実力ある人が見抜ける時代になっていますから、そういった意味でも沢村さんの現在の立ち位置は当然の結果」(衣輪氏)
50代の“月9”の主役は田村正和主演で1998年秋期に放送された『じんべえ』以来でこれも快挙だ。ほか阿部寛や遠藤憲一など50代俳優が乱立する今だが、バラエティ(コント)一本でもやっていけそうな俳優は沢村ぐらい。今考えれば、“セクスィー部長”も『絶対零度』の伊沢も“狂気”という面では同じであり、沢村の“人間力”あってのことだと言えるだろう。バラエティに“消費”(こすり倒される)どころか、バラエティすら“消費してしまった”(糧とした)沢村一樹。彼の、小泉環境大臣以上の“セクスィー”な活躍はまだまだ続きそうだ。
(文/武者小路卍丸)