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現代用語として定着した「推し」 汎用性の高いパワーワードになったワケ

  • 「推しメン」キャンペーンを実施したこともある乃木坂46(2017年撮影) (C)ORICON NewS inc.

    「推しメン」キャンペーンを実施したこともある乃木坂46(2017年撮影) (C)ORICON NewS inc.

 1990年代後半のモーニング娘。から2000年代中盤のAKB48系グループ、そして地下アイドルに至るグループアイドルの系譜の中で、ファンの間のみで通じていた“専門用語”から、一般社会でも使用されるような現代用語にまで発展・進化してきたのが「推しメン」という言葉だ。当初は「イケメンの派生形?」、「推しメンのメンは男?」(実際はメンバーのメン)と思う人もいたようだが、今ではアイドル以外のアニメやゲームのキャラ、声優などへも使われる汎用性の高い“パワーワード”となっている。単なる「ファン」や「担当」よりもカジュアルに使えて、「好き」以上の意味合いも持たせた思い入れのある「推し」。その言葉としての“深み”を検証する。

ファンが“タニマチ感”に浸れる、「好き」以上の意味合いを持つ高コスパな言葉

 「推す」とは、デジタル大辞林によると「…人や事物を、ある地位・身分にふさわしいものとして、他に薦める。推薦する」の意であり、用例としては「候補者に―・す」、「優良図書に―・す」などが挙げられている。

 つまり、「推す」ということは「推される」対象が存在するということで、言ってみれば他人に推薦するほど“対象”を認めている、気に入っている、好きであるということになる。今の「推し」の発祥には諸説あるが、もともとはアイドルファンやオタクを中心に使われていたようで、モー娘。やAKBの登場以降、ファンとアイドルとの関係性の変化とともに「推す」の意味合いも変わっていったようだ。

 単にファンが「アイドルの◯◯が好き」ということで終わらずに、他人にも推薦・アピールする、つまり「推し」ていくことで、アイドルの認知度があがる。「ファンがアイドルを育てる」という意味にも近い流れが形成されていった。その新たなムーブメントが「AKB48選抜総選挙」のようなイベントを生み出すことにもつながり、アイドルとファンとの距離が近づくと同時に、ファンたちに一種の“タニマチ感”を与えることになった。

定着した証? 派生語も続々登場し“化学変化”し続ける「推し」

 もともとオタク用語だった「推し」は、今ではアイドル以外にも普通に使われるようになり、SNSなどを見ても対象が人ではなくてもOKで、たとえば飲食物に「推し」を使うのも当たり前となっている。むしろ、「好き」という言葉に含まれる多少の“重さ”がなくなるので、自分の「好き」をカジュアルに公言できる。そして、自分を「もう若くない」と思っている年齢層でも、「◯◯推し」とならフランクに使える。そうした意味では「推し」のハードルは低く、コスパが高い言葉ともいえるのである。

 また、オタク用語としての「推し」も、一般化の流れの中で多種多様な派生語が誕生していった。あくまで1人を推し続ける「単推し」や2番目に推す「二推し」、特定のメンバーを激しく推す「神推し」や「激推し」など。そして、不随する現象にも「箱推し/全推し(グループ全体を推す)」、「推し変(推しているメンバーを変える)」、「推し増し(推すメンバーを増やす)」、同好の士の間で推しメンが被(かぶ)ってしまう“推し被り”に至るまで、「推し」という言葉一つで何パターンも“化学変化”を起こし続けている。

 さらには、「推し」は“経済効果”も生み出している。「推し活グッズ」と銘打ち店舗でグッズ展開をしたり、「推しメンは誰?」のようにコンテンツ化させてハマらせる戦略=「推しビジネス」に活用されている。実際、「マクドナルド」ではSNSで“推しバーガー”などとして、キャンペーンで「推し」という言葉を使用していたのも記憶に新しい。

第三者を巻き込む“共感力”、その理由は語源にあり?

 いつの間に拡大している「推し」ムーブメントだが、あらためて「推し」という言葉の意味を振り返ってみよう。先述のように「推す」には「推薦する」の意が含まれ、誰かに「薦(すす)める」こと。つまり自分の中だけで完結させずに、自分の好きな対象を他人にも知ってもらいたい、できれば好きになってほしいという想いを伝えることなのである。そういう意味では、「推し」は第三者を巻き込む力があり、他人と想いを同じにするという“共感力”を生み出す可能性も持っている。

 また、「推し」には「誰かを立てる」、「リスペクトする」といった意味合いもあるようだ。たとえば宝塚歌劇団では、好きな対象の生徒のことを「ご贔屓様」、好きな組は「贔屓組」と表現している。同じく相撲の世界においても「贔屓」という言葉がよく使われるが、そこには一方的な「好き」だけではなく、対象への「教育目線」や「批判精神」も含まれているように感じられる。

 初めは単なる「ファン」や「好き」という感情から始まったことが、「推し」という言葉によって他人ともつながり、“共感”が育まれ、やがては同じ「推し」を持つ者同士の“絆”を生み出していく。こうしたアイドルグループとファンたちが形成するムーブメントが社会現象化していくにともなって、「推し」という言葉も一般化・定着し、親しまれるようになった。果たして、今後も「推し」に代わる言葉が生まれるのだろうか。最近では、「推し」のさらに“向こう側”に行った人がハマる=「沼」という言葉もよく聞かれるようになったが、まだまだ“オタク発”の日本語の多様性には可能性がありそうである。

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