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リプで送られてきた1枚の写真で作る『ない本』 架空の本が生み出すおもしろさ
前身は趣味サイトでの企画 きっかけは「自分だけの本が欲しかった」
「自分の力で作った本が欲しかったんですよね。もともとミステリー作家志望で小説を書いていたことと、多少できるようになったデザインを組み合わせた結果、『ない本』にたどり着きました」
Twitterのアカウントは完成品の投稿からスタート。「ひざかけちゃーはん」を運営するメンバーにもらった写真を元に作った2冊が最初だ。その後、リプライで送られてきた写真で製作を続け、今までに作った本はおよそ70冊にのぼる。一番反響のあった本は、初期に作った『傾いた惑星』。海に浮かんでいる男性を、2人の女性が眺めている写真を、SF小説に仕上げた作品だ。写真に写った斜めの水平線を活かし、タイトルも斜めにデザイン。独自の視点で作られた表紙と、「葛藤と決断を描いた日本SFの傑作」というそれらしいあらすじが添えられた1冊は、1日で1万回以上リツイートされるなど大きな話題となった。
製作時間はおよそ3時間 続きが読みたくなるあらすじのクオリティ
「今のところこの順番で、逆は一度もありません。発想は『写真で一言』の企画と同じですが、大喜利と違っておもしろいことを言わなくてもいいので、気が楽です」
文庫本そっくりに作られたディテールと斬新な装丁が大きな魅力のひとつだが、デザインに関しては現在勉強中だという。
「1年くらい前に転職して、頻繁にチラシのようなものを作ることになったんです。そこから慌てて本格的にデザインの勉強を始めて、本を読んでどうにか身につけようとしている最中です」
お気に入りの1冊は、『泥酔探偵』。酒を飲むと記憶を失う体質の探偵が主人公で、持ち帰った証拠とボイスメモを元に、2度謎を解くというストーリーだ。あらすじは「ミステリー史上最も効率の悪い探偵登場!」という一文で締められており、まさに「ありそうでない本」を体現した1冊となっている。
「Twitterで『泥酔探偵』を見た同僚に、“こんなアカウントがあって”と話をされたんです。自分が作っていると言ったら、肩にパンチされました(笑)」
「ない本」の魅力はゴールのなさ 「戦えないから負けない」
「ゴールがないのが、『ない本』のいいところですね。“読みたい”と思っても読めないので、期待外れになることがない。戦えないから負けないんです」
また、『ない本』の魅力は「見る人にとっては“読まなくてもいい本”。自分にとっては“書かなくてもいい本”」だとも。双方にとってメリットのある『ない本』は、その斬新な発想で新たな展開を見せている。
「出版社から、『ない本』の本を出す企画を頂いてるので、今年中には形にしたいです」
実際には発売されていないという趣旨で始まった「ない本」が、現実に書店に並ぶ日を楽しみに待ちたい。