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AIがアニメ業界の労働環境問題を解決? 映画『ドラゴンボール超』に見る、3DCGの未来と課題

  • 2Dと3DCGの見分けがつかない、映画『ドラゴンボール超』の1シーン。ソフトウェアが生成した背景も印象的(C)バードスタジオ/集英社 (C)「2018ドラゴンボール超」製作委員会

    2Dと3DCGの見分けがつかない、映画『ドラゴンボール超』の1シーン。ソフトウェアが生成した背景も印象的(C)バードスタジオ/集英社 (C)「2018ドラゴンボール超」製作委員会

 1984年に週刊少年ジャンプで連載を開始した『ドラゴンボール』は、連載終了後もアニメやゲームなどを通じて全世界で愛され続けている。昨年12月には映画化20作目となる『ドラゴンボール超(スーパー) ブロリー』が公開され、30年以上続く本作の魅力溢れるキャラたちによるハイスピードバトルが話題となっている。特に、本作では3DCGによるシーンも多く、SNSでは「CGのレベルがやばい!」「手描きと見分けがつかない」といった声が多く聞かれている。そこで、本映画のCG制作を担当した東映アニメーションの横尾裕次氏、牧野快氏、福長卓也氏にインタビューを実施。「リアルすぎるCG」への葛藤や、過酷なアニメ製作現場における「AIの役割」など、アニメ製作の舞台裏に迫る。
映画『ドラゴンボール超 ブロリー』
“カカロット!べジータ!ブロリー!”限界突破応援上映 全国追加開催決定!

東京・新宿バルト9他で1月10日、劇場版『ドラゴンボール』シリーズ初となる応援上映会が実施され好評を博した。そこで、1月19日(土)or 1月20日(日)に全国の劇場にて『ドラゴンボール超 ブロリー』“カカロット!べジータ!ブロリー!”限界突破応援上映を追加開催することが決定。発声OK!コスプレもOK!お気に入りのスタイルで、スクリーンの中で活躍する悟空たちを応援できるぞ。

◆劇場及び日程はこちら→
※実施スケジュール及びチケットの購入に関しては、各劇場HPをご確認下さい。

3DCGはまだ2Dの“ケレン味”を表現できない? 「アニメーターはあえて“嘘”の表現をする」

――日本のアニメは、ディズニーやピクサーのようなフルCGアニメとは違い、2Dと3DCGを組み合わせる“ハイブリッド”な画面づくりが特徴です。本作において CG が使われた割合はどれくらいでしょうか?
福長卓也背景やキャラも含め、全体の1割ぐらいがCGによって描かれています。

――CGで特に苦労された部分というのは?
牧野快キャラクターの造形ですね。本作は作画を主とした映画ですのでCGを2Dのデザインに近づけることが大切です。一方で、手描きの場合、あえて“嘘”の表現をすることでケレン味のある作劇ができますが、3Dの場合は“嘘”をつくことが難しいという側面もあります。

――手描きの作画のような、強調や省略といった“取捨選択”がCGでは難しいということでしょうか。
福長卓也例えば、ライブ会場とか建物の中とか、見える部分が限定されているところに関してはCG でやったほうが効率的です。見えない部分は省略するのでコストを抑えられます。逆に、自然物だったり、広大なものを表現する場合は手描きの方が良かったりします。

ソフトウェアと会話をすることで、“これまで見たことのない”印象的な背景が生まれた

――現状、CGを使うにしても「向いている」、「向いていない」があるわけですね。今回、悟空とブロリーの戦闘シーンで、幾何学的といいますか、異世界に入り込んだような印象的な背景がありましたが、これはCGですか?
牧野快その部分では、多くのゲーム会社で採用されているソフトウェア『Unity』を使っています。このソフトで何ができるかと言うと、幾何学的な模様とかトゲであったりか、通常ならデザイナーが一つひとつ手作業で配置するものを、特定の計算式みたいなものを入れることで、自動的にランダムな模様を作り出しています。

――まるでAIのようですね。この背景について何か反響はありましたか?
福長卓也そうですね。集英社さんや、原作者の鳥山明先生からは「なんか見たことない映像ができている」っていう感想をいただきました。

――ソフトウェアが作るからこそ、人がこれまでに見たことのない、印象的な背景が生まれたわけですね。ソフトウェアが自動的にランダムな模様を作っているという話も新鮮です。
牧野快作業としては、まずコンピューターに「ちょっとトゲトゲした空間を作って」という指示の計算式を入れます。すると、ソフトからは「こんなのはどうでしょうか」という案が出てくる。それに対してデザイナーが「いいね」って評価を与えて調整していくイメージです。物理的な対話ではありませんが、プログラムを介して“ソフトと会話”をすることによって、今回のような印象的な背景が生まれたわけです。

――入力者がイメージしてプログラムを入力すると、ソフトウェアがCGの背景を生成してくると。AIというのが適切かは分からないんですが、それに近いものを感じます。ちなみに、アニメ製作の現場ではAIの研究は進んでいるのでしょうか?
横尾裕次AIについては各アニメ会社で研究が進んでいると思います。アニメは原画、動画、色を塗って撮影という制作フローがありますが、例えば動画部分をコンピューターに考えさせて、色を塗ったり撮影したりを自動的に処理させるというのは構想としてはあります。部分的には既に運用している会社もあると聞いています。

――アニメの製作現場におけるAIの実現性はかなり高いのでしょうか。
横尾裕次進捗からするとまだまだですね。ただ、もしかしたら3、4年で出来る時代が来る場合もあります。それ位、AIやソフトウェアの進歩は早いです。

AIが過酷な製作現場を救う!? リアルすぎるCGを“あえて崩す”逆転現象も

――CGの役割が増えています。アニメ業界の制作現場は過酷な労働環境にあると言われて久しいのですが、CGを使うことによってスタッフの負担を減らしていくといった考え方もあるのでしょうか?
横尾裕次それはあります。いま、往年の職人的な2Dアニメーターが減ってきていて、その代わりとしてCGを活用しているってことは多くあります。細かい造形物だったり、キラキラした必殺技とかのエフェクトは作画するよりもCGの方がスケジュール的にも適している場合もありますので。

――2Dアニメーターの減少という点では、アニメのクオリティに直結する問題かと思います。特に、最近の視聴者は「作画崩壊」に対して敏感に反応する傾向があります。
横尾裕次そうですね、アニメにおいて作画崩れが多いからCGを使おうって動きは確かにあります。でも、あまりにも崩れないキャラを見ていると、逆にCGっぽいねって感じることも多くありまして。だから、今はCGを使うにあたって、あえて“キャラクターを崩していこう”というのもあるのかな?と考えています。今回のドラゴンボールの映画に参加してみて強く感じた部分でもあります。

――綺麗すぎるものに対して感じる違和感があると。
牧野快今後のCGにおいては、あえて崩して描く技術やテクニックが求められるかもしれません。アニメのCG技術がグングンと上がり、技術的にも出揃った感がある中で、転換期というか、次のフェーズに移ろうとしているんじゃないでしょうか。

クリエイターの構想を実現化するソフトが誕生すれば、アニメ界の環境は大きく変わる

――本作のCGはSNSでも話題です。「今までのアニメ映画で1番作画&CGの技術高いと思った」「CGも前の劇場作とかよりめっちゃ自然体やった…やべえ」などと、絶賛する声が多く聞かれます。
横尾裕次私たちとしては、CGと思われない方が成功だと思っていて、CGだと見られるとそれはそれで失敗なんですね。ただ、SNSの声を見ていても、映画の中の「ここがCGだ」って、100点満点の正解を答えている人はまだいません。だから、しめしめと思っています(笑)。

――ということは、見破られていないCGの箇所があると!
横尾裕次本作の中のCG箇所を、完全に言い当てられる人がいたら、うち(東映)に採用したいぐらいです(笑)。

――(CG箇所を教えてもらいつつ)このキャラの作画がCGだったとは驚きです!!
福長卓也今回、CG部分にも作監さんを入れて、3D上で修正しています。ギャリック砲×かめはめ波のシーンはキャラも含めてほぼ3Dですから。

――あのシーンはCGだったんですね!気づきませんでした。
横尾裕次今回、いかに「CGとしての違和感を無くせるか」ということを意図してやってきましたが、本映画の中にはフルCGシーンが3シーンあります。映画を2回、3回と観に行く際は、そうした部分にも着目していただけたら嬉しいですね。

――キャラの動きを見ても2Dの箇所と遜色のない内容でした。CGクリエイターの方の中に、2Dアニメーター出身の方が多かったりするのでしょうか。
牧野快それはほぼないですね。もちろん、2Dアニメーターの方でCGをやりたいっていう人はいますが、今のソフトウェアはそこまで作りやすくないんですね。専門知識もかなり必要なため、挫折しちゃうことが多いです。

――2Dアニメーターが職人の手に支えられているように、CGの分野も職人と呼ばれるTOPクリエイターが支えているんですね。
横尾裕次ただ、先ほどのAIの話のように、クリエイターが作りたいと思ったものを簡単に作れるハードやソフトが発展してくれれば、2Dアニメーターの方がCGを担当したりってことも十分に起こり得ると思います。そうすれば、アニメを作る環境も、よりよいものになっていくかもしれませんね。

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