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105歳おばあちゃんと介護士の交流が『シルバー川柳』に、老後ソロに光もたらす
105歳のおばあちゃんが作った川柳、「イケメンの 毛ズネにすがる 湯あみかな」
そんな『シルバー川柳』の応募者の中で、最高齢だったのが105歳の日野きみ子さん。介護付有料老人ホーム・あすみが丘グリーンヒルズに入居している、元気なおばあちゃんだ。その日野さんの応募作は、「イケメンの 毛ズネにすがる 湯あみかな」。ホームでお風呂に入るときに、入浴を介助してくれた介護士のことを詠んだものだという。
日野さんは、「湯船に入ると身体が浮いちゃうから、(介護士の)足のすね毛に必死でつかまっていたの」と、そのときの思い出を語ってくれた。ここに詠まれた“イケメン”とは、このホームで介護士として働く板倉大輔さん。「彼はハートがあって目がキラキラしている。優しくて大きくて頼りになる人、それがイケメン」と、日野さんは日々介助してくれる板倉さんを語る。
介護の現場で『シルバー川柳』が果たす役割、「少しでも笑顔があったほうがいい」
そんな日野さんを見て板倉さんは、「介護の仕事はネガティブに捉えられがちだし、いつも時間に追われていて大変。そんな中で、日野さんのユーモアあふれる川柳を聞かせてもらうと、心が落ち着いてほっこりします。せわしない現場でも、眉間にしわを寄せて仕事をするより、少しでも笑顔があった方がいい。『シルバー川柳』は、高齢者の皆さんにとっても、介護する私たちにとってもすごく良いものだと思います」と語っている。
山口での一人暮らしから千葉のホームへ入居、「納得してやってきた」
今年で入居して7年。日野さんの毎日は、介護士たちに支えられつつも元気いっぱいだ。川柳はもちろん、歌を歌うこと、司馬遼太郎の歴史小説を読むこと、お酒を飲むことも大好き。『シルバー川柳』が収められた単行本を読んでは、笑っているという。
「日野さんはすごく元気で前向き。朝起きると、いつも何かやることを探しているし、食事もしっかりと食べます。好き嫌いもはっきり言う人なので、ストレスをためないんでしょうね」と、彼女の元気の源を分析する板倉さん。日野さんも「ここにいると、みんな(介護士やスタッフ)が本当によくしてくれる。バチが当たるんじゃないかと思うよ(笑)」と、ホームでの生活を楽しんでいるようだ。
まるで実写版『大家さんと僕』? お互いを労わりあう関係
今回の川柳について、板倉さんが「“イケメン”なんて言葉、よく知ってたね」と言うと、「そんなの、どこにでも書いてあるよ!」と即座にツッコむ日野さん。お互いに学び、労わりあう絆で結ばれた関係は、まるでカラテカ・矢部太郎によるヒット本『大家さんと僕』を彷彿とさせるようだ。
介護する立場ながら「勇気づけられる」、ユーモアが長い老後のヒントに
「この仕事をする前は、高齢者=寝たきりのイメージが強かったのですが、実際には全然違っていてビックリしました。皆さん、いろいろなことを知っているし、とても明るくて前向き。自分が年をとったとき、あんなにパワフルに生きていけるか不安になるくらいです。皆さんを見ていて勇気づけられますし、自分も負けていられない。朝起きて疲れているなと思っても、ホームに来ると元気になれるんです。だからこそ、そんなお年寄りが楽しめる『シルバー川柳』をこれからももっと勧めていきたいです」
日本人の平均寿命は、女性が87.26歳、男性が81.09歳と過去最高を更新(厚生労働省「簡易生命表」より)。100歳以上の人口は約7万人となり、今や「人生100年時代」とも言われている。この長い長い老後は“辛く厳しい年月”とも捉えられがちだし、誰もがホームや自宅で幸せに過ごせるとは限らない。だが、日野さんのようにいつまでも前向きに生きることで、毎日を充実させ、介護の現場で働く若い世代に力を与えることもできる。
高齢者ならではの知恵と、開き直りとも言える明るさに満ちた『シルバー川柳』。これらのユーモアこそ、長い老後を前向きに、明るく過ごすためのヒントになるのではないだろうか。
(文:水野幸則)