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災害時におけるテレビのSNS転載の是非 最新情報の伝達か、プライドか?

  • 近年、SNSに投稿された被災地からの写真や動画が、テレビでも取り上げられるように。

    近年、SNSに投稿された被災地からの写真や動画が、テレビでも取り上げられるように。

 先日の台風21号で多くのユーザーが自身で撮影した動画をTwitterなどに投稿。それがテレビの報道番組にも取り上げられ、「またTwitterで見た動画」「自分たちで撮りに行けよ」「テレビはまとめサイトなの?」といった反応がSNSを騒がせた。「テレビ局の怠慢では?」という意見もある一方で、災害時にいち早く現地のリアルな情報を届けるのはテレビの役割であり、現地に記者を派遣するリスクも考えて「理にかなっている」という意見も。災害時、テレビがSNSを“頼る”ことの是非とは?

東日本大震災で認識、SNSが災害時における盤石なメディアへ

 2011年3月11日、東日本大震災が発生。停電でテレビが見られず、電話回線もパンクする中、どこでどのような被害があるかなどの情報伝達が滞った。この時、真っ先にリアルタイムの情報が拡散されたのがTwitterやFacebookなどのSNSだった。現地で撮影された写真は、各局の記者が現地に辿り着くよりも早く配信された。このほか、被災地にいる知人からSNSの投稿があることで安堵したり、また帰宅時にSNSなどで電車の運行状況を確認した人も少なくないはず。筆者も震災当日、タクシー待ちの行列で辟易とする中、Twitterの「○○線動き始めた!」などのユーザー情報で無事、長距離徒歩帰宅を回避できた一人だ。

 一方で当時、広島のとある中学生がNHKの放送をライブ配信サイト「Ustream」で“違法配信”したことも話題になった。これは著作権侵害にあたるため、通常ならば、NHKは削除の方向に動く。TwitterのNHK広報局(@NHK_PR)にも「NHKは放送動画の配信を許可しているのか」と問い合わせが届いたが、このアカウント担当者は「私の独断なので、あとで責任を取ります」と発表。続いて「停電のため、テレビがご覧になれない地域があります。人命に関わることですから、少しでも情報が届く手段があるのでしたら、活用して頂きたく存じます」と投稿し、これにユーザーから「かっけー!」「応援します!」など称賛の声が上がった。

 これはNHK、そして民放各局をも動かした。NHKは公式にネットでの再配信を特例として一時的に許可。その後、NHKが自らのUstream Channelで配信をスタートさせた。さらに動画配信サイト「ニコニコ生放送」もNHKとフジテレビの放送を開始。YouTubeでもTBSの『ニュースバード』が配信された。ひとりの中学生とNHK広報局(@NHK_PR)の英断が、テレビとインターネットの距離が縮まるきっかけを作った瞬間である。

テレビが担う視覚的な速報性、“現地の情報は現地から”というSNSの利点を活用

 以降、有事の際にテレビがSNSを活用するのは当たり前の光景となった。先日の北海道胆振東部地震でも、NHKのアナウンサーがSNSでの情報拡散をお願いする場面が生放送されていた。ネットとの折り合いをどうつけるか探っていたテレビから昨今は、「届くべき人に届くように」という心意気が感じられるように。放送している情報をまとめて公式HPで読めるようにし、SNSでその旨を発信するなどの取り組みも見られる。

 またNHK「スクープBOX」、TBS「TBSスクープ投稿」、テレビ朝日「みんながカメラマン」など、各局で視聴者が動画を投稿できるサイトページも作成。そして、Twitterの動画や写真の投稿者に転載の許可を得て、最新映像として番組で流すなど、現地のSNSユーザーからも情報が届けられることで、ニュースのタイムラグや、記者を派遣することによる二次被害リスクも減っているように見える。

 「ただ、テレビがSNS頼りになっていることについて、現場は痛し痒し」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「テレビマンとしては、やはり独自の映像と情報で伝えたい。しかしSNSで話題となっている現場の動画や映像はニュース価値が高いものが多く、独自でそれを撮りに行こうとしても時間も手間もかかる上、決定的瞬間を必ず撮れるとも限らない。二次被害のリスクや災害救助の邪魔をする恐れもある。そうこうするうちに他局に出し抜かれる可能性も。速報性、ニュース価値、競争の観点から、判断としてはSNS頼りを余儀なくされている状況ですが、まだテレビとネットの関係性が“過渡期”ゆえ、数多くの問題が浮き彫りになってきました」(衣輪氏)

デマ問題に投稿者への配慮不足…テレビ局側の課題も浮き彫りに

 衣輪氏は、「投稿された動画がそもそも加工されたデマであること、また過去の映像を現在と偽って投稿するパターンもあること」を挙げる。実際にこれらがテレビで紹介されたこともあり、SNSでは「裏取りぐらいしろ」「テレビ局のネットリテラシー(笑)」など揶揄されている。また投稿された動画にマスコミが群がるように提供依頼のメッセージを送ることがSNS上で半ばネタ化。そのやり取りがSNSでさらされ、「自分たちで撮りに行くべき」「良いように使われる」「無償提供は傲慢すぎる」などの批判も続出している。

 さらにはテレビ局が動画の使用を事後承諾しようとするパターンも。昨今SNSで批判が殺到するこの手法だが、法律的にこれは問題ないのだろうか?

 「著作権法の第41条に、『写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる』とあります。簡単に言えば、報道の目的上“正当な範囲内”であれば例外が認められるということ。ですが様々な議論もあり、現在はグレーです」(衣輪氏)

 また、動画の無償提供のケースが多い理由については、「有償だと報酬目当てで無茶をして動画を撮影しに行く恐れが。また、報酬のために加工動画を作る人も出る可能性があるので、情報の真偽が分かりづらくなる状況を危惧しているのです。ただこれはケースバイケースであり、後にお礼が届けられたりすることもあります」(同氏)

 テレビとインターネットの関係はまだまだ“過渡期”。多くの問題から生じる摩擦をいかに解消していくか、それが今後の課題だろう。有事の場合は人命が最優先。そして災害時では、インターネットが盤石なメディアとなることも証明されている。正しい情報の選別、裏取りをしっかりする、投稿者への配慮を充分に行うなど、テレビにも多くの課題がある。SNSがますます存在感を増す昨今、テレビ、ネット、投稿者、その誰もが納得できる報道を今一度、考えてみるべきではないだろうか。

(文/西島亨)

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