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災害時におけるテレビのSNS転載の是非 最新情報の伝達か、プライドか?
東日本大震災で認識、SNSが災害時における盤石なメディアへ
一方で当時、広島のとある中学生がNHKの放送をライブ配信サイト「Ustream」で“違法配信”したことも話題になった。これは著作権侵害にあたるため、通常ならば、NHKは削除の方向に動く。TwitterのNHK広報局(@NHK_PR)にも「NHKは放送動画の配信を許可しているのか」と問い合わせが届いたが、このアカウント担当者は「私の独断なので、あとで責任を取ります」と発表。続いて「停電のため、テレビがご覧になれない地域があります。人命に関わることですから、少しでも情報が届く手段があるのでしたら、活用して頂きたく存じます」と投稿し、これにユーザーから「かっけー!」「応援します!」など称賛の声が上がった。
これはNHK、そして民放各局をも動かした。NHKは公式にネットでの再配信を特例として一時的に許可。その後、NHKが自らのUstream Channelで配信をスタートさせた。さらに動画配信サイト「ニコニコ生放送」もNHKとフジテレビの放送を開始。YouTubeでもTBSの『ニュースバード』が配信された。ひとりの中学生とNHK広報局(@NHK_PR)の英断が、テレビとインターネットの距離が縮まるきっかけを作った瞬間である。
テレビが担う視覚的な速報性、“現地の情報は現地から”というSNSの利点を活用
またNHK「スクープBOX」、TBS「TBSスクープ投稿」、テレビ朝日「みんながカメラマン」など、各局で視聴者が動画を投稿できるサイトページも作成。そして、Twitterの動画や写真の投稿者に転載の許可を得て、最新映像として番組で流すなど、現地のSNSユーザーからも情報が届けられることで、ニュースのタイムラグや、記者を派遣することによる二次被害リスクも減っているように見える。
「ただ、テレビがSNS頼りになっていることについて、現場は痛し痒し」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「テレビマンとしては、やはり独自の映像と情報で伝えたい。しかしSNSで話題となっている現場の動画や映像はニュース価値が高いものが多く、独自でそれを撮りに行こうとしても時間も手間もかかる上、決定的瞬間を必ず撮れるとも限らない。二次被害のリスクや災害救助の邪魔をする恐れもある。そうこうするうちに他局に出し抜かれる可能性も。速報性、ニュース価値、競争の観点から、判断としてはSNS頼りを余儀なくされている状況ですが、まだテレビとネットの関係性が“過渡期”ゆえ、数多くの問題が浮き彫りになってきました」(衣輪氏)
デマ問題に投稿者への配慮不足…テレビ局側の課題も浮き彫りに
さらにはテレビ局が動画の使用を事後承諾しようとするパターンも。昨今SNSで批判が殺到するこの手法だが、法律的にこれは問題ないのだろうか?
「著作権法の第41条に、『写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる』とあります。簡単に言えば、報道の目的上“正当な範囲内”であれば例外が認められるということ。ですが様々な議論もあり、現在はグレーです」(衣輪氏)
また、動画の無償提供のケースが多い理由については、「有償だと報酬目当てで無茶をして動画を撮影しに行く恐れが。また、報酬のために加工動画を作る人も出る可能性があるので、情報の真偽が分かりづらくなる状況を危惧しているのです。ただこれはケースバイケースであり、後にお礼が届けられたりすることもあります」(同氏)
テレビとインターネットの関係はまだまだ“過渡期”。多くの問題から生じる摩擦をいかに解消していくか、それが今後の課題だろう。有事の場合は人命が最優先。そして災害時では、インターネットが盤石なメディアとなることも証明されている。正しい情報の選別、裏取りをしっかりする、投稿者への配慮を充分に行うなど、テレビにも多くの課題がある。SNSがますます存在感を増す昨今、テレビ、ネット、投稿者、その誰もが納得できる報道を今一度、考えてみるべきではないだろうか。
(文/西島亨)