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(更新: ORICON NEWS

SNSで話題、“子どもが主役”の『子ども科学電話相談』なぜ大人に刺さる?

 毎年、夏休み期間に生放送されている人気ラジオ番組『夏休み子ども科学電話相談』(NHKラジオ第1ほか)をご存知だろうか? 子どもの素朴な疑問に専門家が答える同番組は、1984年に放送開始。変わらぬスタイルの長寿番組が、昨今大人の“癒し”として、SNSでも盛り上がりを見せている。子どもたちや専門家の名言が話題になることも多く、23日からは夏休み後半の放送がスタートするが、特に今年7月の夏休み前半の放送では「#夏休み子ども科学電話相談」が連日トレンド入り。23日からの夏休み後半の放送を待ち望む声も多い。なぜ今、この番組が大人にも刺さるのか。その理由と番組の魅力を、NHKラジオセンターの番組チーフプロデューサー・大野克郎氏、チーフディレクター・柴文彦氏に聞いた。

毎日が“神回”! 演出ナシは「子どもたちの“空気を読まない感じ”を壊したくない」

 『夏休み子ども科学電話相談』は、「昆虫」、「天文・宇宙」、「植物」、「動物」、「科学」、「恐竜」など多岐にわたる分野についての質問を、全国の子どもたちから募集。各日のテーマに寄せられた質問に、それぞれの専門家が電話で直接答えるスタイルだ。番組に寄せられる質問はかなりの件数にのぼり、連日子どもたちからの電話が鳴りやまない。
「できる限り多くの質問を受けられるようにしていますが、放送があった今日も取れない電話が1500件近くありました。きっとその中にも素敵な質問がたくさんあったと思うのですが…ご縁あってつながった方の中から、内容や年齢に偏りがないようバランスを考えて選ばせていただいています」(大野氏)

 番組では、子どもたちが本当に聞きたいことは何かを探りながら質問を選ぶと同時に、心掛けていることがある。
「放送開始当初から、“子どもたちの質問の電話をつなげて、先生方に答えていただく”というシンプルな形式は変えていません。先生とのやり取りや、子どもたちの空気を読まない感じが持つおもしろさを損なわないように、過剰な演出はしないよう心掛けています」(大野氏)

 そんな約4時間の生放送では、子どもならではの視点から生まれた素朴な質問が続出。「クワガタとカブトムシは結婚できるの?」、「恐竜の肉はおいしいの?」、「宇宙人は悪い人なの?」、「世界は朝から始まったの?」など、純粋な質問に専門家がそれぞれの観点からわかりやすく答えていく。放送では毎回名言が飛び出し、大野氏も「聞いていただければ、必ず自分にヒットする質問があると思います」と太鼓判を押す。

秀逸な会話は、先生たちの「子どもの純粋な知的好奇心を育てたい」という願いから

 例えば、今年7月の放送では、「自由研究で『桃太郎』の恐竜バージョンを考えています。ティラノサウルスを倒しに行くお話にするのですが、キジの代わりになる恐竜が見つかりません」という小学校1年生の男の子が登場。この質問に、日本人で初めて恐竜の博士号を取得した小林快次先生は「いいところに目をつけたね!」と楽しそうに回答。「犬や猿は何にしたの?」などのやり取りを経て、最終的にキジは「ギガントラプトル」に決定。子どもの発想力から生まれた質問と、先生とのやり取りの秀逸さが光り話題を呼んだ。
 この2つの要素が相まっているのが魅力でもあると大野氏は語る。
「子どもたちとの会話がおもしろいのと同時に、好奇心に対して、現代の一流の先生方が科学的な見地を踏まえてわかりやすく噛み砕きながら教えるのも魅力だと思います。大人も子どもの質問に笑いながら、先生の答えにうなずく。2つの意味でおもしろいのではないかと思っています」

 各分野の専門家が研究対象への愛を持って子どもに回答するのも魅力のひとつ。
「どの先生も、ご自分の研究を愛している様子がにじみ出ています。専門分野を広く知ってほしい、子どもの純粋な知的好奇心を育てたいという思いでやっていただいているのを感じています」(柴氏)

連日、SNSでトレンド入りも「“子どもたちが主役の番組”は変えない」

 ちなみにこの恐竜の質問では、スタジオにいた専門の違う3人の先生も回答に参加。鳥類を愛する川上和人先生が「鳥じゃダメですか?」と質問すると、子どもに「鳥はちょっと…」と断られる場面も。そのような、ほっこりしたやりとりが笑いを呼ぶと同時に、一流の先生同士が意見を交換し合う姿もSNSの大人たちの間で話題を呼んでいる。

 今年7月の放送中は、連日「#夏休み子ども科学電話相談」がTwitterでトレンド入り。子どもたちと先生のやり取りや、名言・名解説などが話題になり、朝8:05〜11:50の約4時間の放送中、リアルタイムで大きな盛り上がりを見せた。また、Twitterで見かけた質問を聴き逃し配信で聴くユーザーも急増。この現状について大野氏は、
「その日話題になった言葉を探して聴き逃し配信を聴いていただくことも増えて、再生回数は1万回を超えました。ラジオを聴いていただける方が増えて、みなさんの話題になることはとてもありがたいし、嬉しく思っています」と語る。
 だからこそ「“子どもたちが主役”という原点は忘れず、大切に守っていきたい」とも。大人のファンが増えて喜ばしい一方で、本来の趣旨のため「大人の方からのお電話はご遠慮いただけたら幸いです」というのも、番組の切なる願いだ。

「30年以上愛されてきた理由を、未来に繋げていくのが私たちの願いです。未来の子どもたちが聞くときも変わっていないよう、現状に浮足立つことなく変わらない番組作りをしていきたいですね。ただし、この番組を好きでいてくれる大人の方たちにもお応えできるように『大人のための科学電話相談』を特別番組で制作してみようかとスタッフで話し合っています。参加条件はただ一つ。大人になってからの疑問ではなく、子どもの頃からずっと抱え続けてきた質問をしてもらうことです(笑)」(大野氏)

幼少期を回顧、時代を超えても変わらぬ“純粋さ”が大人に刺さる

 では、なぜ今『夏休みこども科学電話相談』は大人に刺さるのか? 予期しないものがSNSからバズる傾向は“今っぽい”が、その答えは番組も子どもたちも“変わらない”ことにある。

 番組誕生から約35年が経ち、気軽に検索できるネットが普及。子どもたちを取り巻く環境も大きく変わってきた。しかし、子どもたちから寄せられる質問に、それほど変化はない。
「図鑑を見てわからないことを質問してくるなど、子どもたちの持つ疑問は昔と変わっていないような印象を受けます。想像ではありますが、まずは身近な大人に聞いて、解決できないから電話をする。それは今でも同じだと思っています」(柴氏)
「大人は、今の子どもたちと自分が子どもだった頃を照らし合わせて聞いているのではないでしょうか」(大野氏)

 放送からは、いつの時代も変わらない純粋でまっすぐな子どもたちの思いが伝わってくる。きっと誰しもその思いを持った記憶があるはずだ。だからこそ今、この“子どもが主役”の番組が大人たちから注目され、「自分にもこんな頃があったな」と回顧し、癒されているのだろう。また、子どもたちの素朴な疑問に、愛を持って誠心誠意答える専門家を見て、「子どもの頃、こんな大人と話してみたかった」という思いもあるのではないだろうか。
 また、今後の展望について大野氏はこう語る。
「“AI”など30年前は考えられなかった分野も、現在は番組に取り入れています。未来には僕たちが想像しないようなテーマに、子どもたちが好奇心を持つこともあると思うので、時代に合わせて変わっていくかもしれませんね。ただ、“子どものための番組”という原点は、忘れずに持ち続けます」

 テーマは変わっても、“子どもが主役”という番組の根本は変えない。子どもの純粋な思いと、大人たちの愛が織り成す夏の風物詩は、これから先の未来も途切れることなく続いていくに違いない。
(取材・文/辻内史佳)

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