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“dボタン使い”異色の『天才てれびくん』から見るNHKの役割

  • Eテレ『天才てれびくんYOU』の立花裕大団長と小島梨里杏主任(C)NHK

    Eテレ『天才てれびくんYOU』の立花裕大団長と小島梨里杏主任(C)NHK

 小中学生をターゲットとしたNHK Eテレの教育系バラエティ番組『天才てれびくん』。1993年の放送開始からリニューアルを重ね、現在はシリーズ6作目『天才てれびくんYOU』が放送中だ。番組のメインは「てれび戦士」と呼ばれる子役タレントたちによる様々なチャレンジ。なかでも人気なのは、テレビリモコンの“dボタン”を使った視聴者参加型ゲームコーナーで、これがやや異色。アンケートやプレゼント応募などの用途でしか“dボタン”を活用できてない他番組と比べ、ゲーム形式のミッションやトレーニングなど、データ放送の特性をフルに活用している印象がある。

各局の“dボタン”活用法 現状ではリアルタイムで視聴を楽しむツール

 2000年にBSデジタル放送、2003年に地上デジタル放送がスタートし、2011年にはアナログから完全移行。デジタル放送とは、映像と音声をそれぞれ数値化して1本のデータ列にまとめたものを電波に乗せて放送するシステムで、データ放送はその一つ。dボタンを押すことで、ニュースや天気予報などを見られるようになったほか、ドラマ放送中にあらすじを確認することも可能。現在開催されている『2018 FIFAワールドカップ』では、試合日程や結果、試合内容の詳細、チーム紹介、勝ち上がり表、得点ランキングなどを見ることができる。

 活用法は番組それぞれで、『あさイチ』や『紅白歌合戦』(共にNHK総合)、『秘密のケンミンSHOW』、『金曜ロードSHOW』(共に日本テレビ系)、『オールスター感謝祭』(TBS系)、『27時間テレビ』(フジテレビ系)、『M-1』(テレビ朝日系)などが、4色ボタンを利用したアンケートやクイズなどの「双方向サービス」を導入。また2015年には『恋仲』(フジ系)が、2016年には『ラストコップ』(日テレ系)が、生放送で最終回のストーリーを決めるネット連動の演出を行ない、「新たなテレビの形」として話題になったこともある。

 だが「まだまだ課題は多い」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「録画して番組を楽しむことが一般的になった昨今、データ放送の“技術”の活用は、そもそものテレビの特性“リアルタイムでの楽しみ”を視聴者に促すサービスとして非常に意義のあること。ですが見渡してみても、せっかくのデータ放送の“技術”を使い切れていない番組がほとんど。クイズやアンケートなどでしか使われていないのが現状です」(同氏)

よりゲーム性を高めた“dボタン”使いで子供たちを取り込む『天才てれびくん』

 一方で『天才てれびくん』だ。同番組では、投票やアンケートなどのように1つのボタンを押して終わりではなく、データ放送で使えるボタンをフルで活用している。リモコンの十字キーのほか、数字ボタン、4色ボタンを使った早押しや音楽ゲーム(曲に合わせてボタンを押す)など、バリエーションが豊富。データ放送の“技術”をフルに活かして“ゲーム性の高さ”を実現している。

 同番組ではデータ放送で参加する視聴者を「茶の間戦士」と呼んでいる。番組中のゲームコーナー「茶の間戦士訓練」では、前身『Let‘s 天才てれびくん』で蝶野正洋扮する“蝶野教官”が、現在の『天才てれびくんYOU』で西川貴教が“マーヴェラス西川”となり、木曜日の生放送ミッションに備えるミニゲームを行なっている。自宅のテレビで「茶の間戦士登録」を行なえば、獲得経験値に応じて「茶の間戦士レベル」が上昇。もちろん登録なしのゲストとしても参加が可能だ。

 「現在民放は、視聴率不振でイノベーションを起こしにくい状況。インターネットとの親和性や図ったり、ネットを使った膨大なアーカイブを活用したりと、従来のやり方にプラスして“今”や“外の技術”を徐々に取り入れていますが、テレビの機能である“dボタン”にあまり目が向いてないように思えます。これはテレビマンの本質として、面白いコンテンツを作っていくことに重きを置いていることもありますが、その実、dボタンの有用性や活用について、費用対効果で時間とお金をつぎ込めていないということ。そんななか“天てれ”には、従来のテレビマン的価値観のほかに、データ放送の可能性をギリギリまで引き出そうとする“研究・開発者”のような側面があります。即、数字に表れなくても、可能性を探るという意義のある仕事がされ続けている。イノベーションとは、こうした地道な努力・研究からいずれ、生まれるものではないでしょうか」(衣輪氏)

“天てれ”視聴者参加型コーナーの意義は? NHKだからこそ可能な開拓力

 実は“天てれ”の「双方向サービス」は放送当初(1995年)から行なわれている。電話機を利用した視聴者参加型のゲームコーナーがあり、電話機の操作でテレビ画面上のプレイヤーを動かして得点を稼ぐゲーム(週1開催)や、プッシュフォン操作、テレゴングを使った企画も放送。2011年シリーズ4作目『大!天才てれびくん』からはデータ放送の活用が開始され、年々進化し現在に至った。

 「アニメ、音楽、突撃リポート、ドラマなど様々なコーナーもあるが、23年間、リアルタイムで番組を楽しんでもらおうというアプローチは変わっていない。それはテレビ本来の姿であると同時に、ネット・録画視聴の時代に逆行する流れでもある。だがそこに可能性を広げられる“技術”が存在する以上、例え逆行と言われようと“追究”する存在が必要。受信料問題で批判されることも多いNHKですが、そんなNHKだからこそ、腰を落ち着けて“技術”の革新的利用法について打ち込める一面がある。“天てれ”には、積み重ねてきた“双方向サービス”のノウハウを極限まで高め、データ放送の“技術”を駆使した、リアルタイム視聴にまつわる発明を果たしてほしい」(衣輪氏)

 常に時代の新しい技術を取り入れながら、子供が興味をもつゲーム性の高いコンテンツを開発し続ける“天てれ”。異色ともいえるdボタンの多用だが、技術とは利用するためにあるもの。“外”や“今”だけでなく、足元の技術を見直すことで、拓ける未来もあるはずだ。

(文/西島享)

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