ORICON NEWS

『のど自慢』超えの高視聴率、民放が真似できない『うたコン』成功の秘密と課題

  • 『うたコン』司会を務める谷原章介 (C)ORICON NewS inc.

    『うたコン』司会を務める谷原章介 (C)ORICON NewS inc.

 1953年に生まれた国民的長寿番組『NHKのど自慢』。2015年に解散前のSMAPが出演して話題になるなど、その好調ぶりはこれまでも何度も称えられてきた。だが、視聴率面で『のど自慢』や『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)を上回る音楽番組の存在を知っているだろうか? それが同じくNHKで放送中の『うたコン』だ。その人気の秘密とは? 民放の音楽番組制作者が、高視聴率の理由と現在の音楽番組の状況を明かす。

生放送、生演奏、客入れ…「民放ではお金がいくらあっても足りない」

 『うたコン』は、火曜のよる7時30分から放送されている音楽番組だ。キャッチフレーズは“あなたの歌のコンシェルジュ”で、主にNHKホールから生放送。司会は谷原章介が担当しているが、その美声での曲振りも含めて、まさにNHKらしい安定感を誇っている。出演陣は、演歌、歌謡曲、J-POP、洋楽と幅広い。同枠の前番組『NHK歌謡コンサート』は演歌歌手がメインだったが、2016年に出演歌手や楽曲の若返りを図り、現在の『うたコン』となった。

 番組開始当時、NHKは「日本の音楽シーンの中心となる番組を目指す」と宣言、初回視聴率は10.4%を記録(ビデオリサーチ調べ)。現在も毎週ほぼ10%前後を維持しており、『のど自慢』を超えて音楽番組ランキング首位を獲得することが多い。この人気の理由は何だろうか。民放の某音楽番組制作者に話を聞くと、「生放送であること、基本的に生演奏、NHKホールだから客入れであること。この3点が大きい」という回答が返ってきた。

 「生放送や生演奏がいいのは、音楽は何よりライブ感が大事だから。まず生演奏とカラオケで比べると音の迫力が全然違うため、演者のノリ方がまったく違う。さらに、そこに客入れがあると、ライブ感に拍車がかかる。演者のノリはさらに上昇するし、お客のリアクションもあるため、演者にとってもっとも良い状況で歌える。あと私が観て思うのは、“あんなにたくさんのバンドは入れられないなぁ”ということ。例えば、ビッグイベントである『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)よりも演奏者や楽器の数が多い。レギュラーの毎週の放送であれをやられたら…。民放ではお金がいくらあっても足りない」(某音楽番組制作者)

もはや“ミニ紅白”、「ダンシング・ヒーロー」ブームのきっかけに

 だが、『うたコン』の魅力は豪華さだけにとどまらない。その一番の特徴は、“ミニ紅白”とでも言うべきベタなコラボ企画や、テーマを掲げた特集だ。コラボとしては、2017年に荻野目洋子と登美丘高校ダンス部が共演し、初めてのコラボが実現したのも『うたコン』。同年末に起こった「ダンシング・ヒーロー」ブームのきっかけを作ったといって良い。

 ほか、「見上げてごらん夜の星を」をゆずと氷川きよしら出演者全員が、「恋のダイヤル6700」をクリス・ハートとAKB48が歌うなど、ジャンルを超えた組み合わせも続々。また、E-girlsが故・西城秀樹さんの「Y.M.C.A」を、柏木由紀が松田聖子の「天使のウィンク」を、布施明がスピッツの「空も飛べるはず」を歌うなど、新旧歌手によるカバーも盛んだ。

★【初コラボ】荻野目の背後に迫る、登美丘高校ダンス部のバブリー軍団

かつてはレコード会社から嫌われたコラボやカバー、変化のきっかけは徳永英明

 『FNS歌謡祭』や『MUSIC FAIR』(フジテレビ系)などの音楽番組で、アーティスト同士がコラボしたり、他人の曲をカバーするのは最近の風潮。かつて、アーティストたちは自身のイメージを大事にするため、持ち曲以外を歌うことを嫌ったものだ。なぜ、この流れが生まれたのだろうか。

 「きっかけの一つを作ったのが、徳永英明さん。カバーアルバムの大ヒットで、レコード会社に“こういう売り方があるんだ”と思わせた。番組でいえば、『FNS歌謡祭』や『僕らの音楽』(フジテレビ系)の功績も大きい。それまではレコード会社も“他人の歌を歌ってもプロモーションにならない”と嫌っていたのですが、“この歌手、実は歌が本当に上手いんだ”とか“こういう曲も歌えるんだ”など、印象をいい方向に変えられることがわかってきたのです」(同)

高視聴率に導いた、前身番組のノウハウと視聴習慣とは?

 このような企画は、前番組『歌謡コンサート』のメイン視聴者であった高齢層にも受け入れられやすい上に、若い視聴者はJ-POP歌手やアイドルたちの意外性あるパフォーマンスを見ることができる。前半にコラボや企画、後半に新曲歌唱といったメリハリある構成も、視聴者を導入しやすい要因だろう。また、コラボやカバーだけでなく、西田敏行が「もしもピアノが弾けたなら」を、狩人が「あずさ2号」を歌唱するなど、近年テレビで歌うことの少なかった歌手が当時のヒット曲を披露する数少ない場ともなっている。前述のとおり、民放でも同様の企画を実現している特番や、少人数編成の音楽番組もある。だが民放では、これらを“生放送で続ける”ということが難しいのだそうだ。

 「生放送・生演奏では朝からリハーサルがあるため、演者のスケジュールを丸一日抑えなければならない。これを毎週やれるのは、23年間続いた前身の『歌謡コンサート』のノウハウあってこそ。さらに『歌謡コンサート』の視聴者層は60代以上でしたが、その層は“視聴習慣”がいまだ強い。日テレの今の強さもそうですが、変わらない枠で視聴者に“視聴習慣”を作るのが、視聴率的に強いやり方なのです」(同)

高齢視聴者の縛りから抜け出せるか? 成功の鍵は制作陣の世代交代

 一方で、民放各局の音楽番組も試行錯誤を続けている。それぞれの対比から、『うたコン』の今後の課題も見えてきた。

 「民放は商売なので視聴率も考えますが、基本的には番組の質やグレードを上げて、若い人たちにバズってほしいという気持ちの方が強い。『うたコン』もそうした戦略を取ろうとしていますが、逆に高齢者の“視聴習慣”に縛られている。時代が移り変わり、20年後も同じ状況かといえばそうではないことが問題点。ちなみにTBSは音楽番組でもハロウィン音楽祭などの企画ものにチャレンジし、視聴率が取れるようになってきた。これはおそらく世代交代に成功し、制作が若返ったおかげ。私たちも私たちなりに質の良い番組を作っていきたいと奮闘中です」(同)

 「とはいえ」と同制作者は続ける。「『うたコン』は、“こんな生演奏をやってるんだ、すごい!”と業界の人なら誰もが思う番組。狭いスタジオで、カラオケでちまちまやるのではなく、どーんとショーとして見せてくれるのが良い。“これぞ歌番組!”という歌謡ショーのど真ん中。本当はみんな羨ましく、あんな番組を作りたいのです」

 様々な状況、しがらみや制約はあれど、音楽番組制作者たちはポジティブに、未来に目を向けて制作している。“誰もが歌える国民的ソングがなくなった”などと言われる昨今。『うたコン』のような業界でも太鼓判を押される歌謡ショーが増え、音楽業界がさらに盛り上がることを望みたい。
(文・衣輪晋一/メディア研究家)

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索