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冒険家の“エンタメ化”が加速 「ゴールなき挑戦」に魅せられる冒険家の宿命とは?

  • 日本を代表する冒険家・三浦雄一郎氏 (C)ORICON NewS inc.

    日本を代表する冒険家・三浦雄一郎氏 (C)ORICON NewS inc.

 先日、登山家の栗城史多さんが8度目となる無酸素・単独エベレスト登頂に挑戦するも断念し、下山中に滑落して死亡したことがわかった。栗城さんは生前、「冒険の共有」を謳い、SNSの活用や動画配信、クラウドファンディングなどで資金を集め、冒険家の“エンタメ化”に尽力したパイオニア。一方で、2012年には4度目のエベレスト登頂に失敗した際、両手指9本を凍傷で失うなど、数々の試練にも見舞われた経験を持つ。勇気ある挑戦、それとも蛮勇か? そして、そもそも生業としての“冒険”とは何か? 冒険家の宿命ともいうべき「ゴールなき挑戦」への渇望を探ってみたい。

定義すら“曖昧”な「冒険家」という職業 求められるのは“実力”と“覚悟”

 実は“冒険家”という定義自体は曖昧で、登山家もヨットマンも探検家も冒険家であり、もちろん学歴や国家資格などとは無関係である。冒険家に就職するなどということはなく、いわば“覚悟”と“実力”があれば、誰でも「私は冒険家です」の名乗ることができるのだ。とは言え、やはり日本にも自他ともに認める現役の冒険家と呼ばれる人たちがいる。

 エベレスト世界最年長登頂記録(80歳7カ月)を持ち、プロスキーヤーとしても知られる三浦雄一郎氏、25歳でエベレスト登頂に成功したアルピニストで実業家の顔も持つ野口健氏、現役女子大生にして7大陸最高峰を日本人最年少で制覇した女性冒険家の南谷真鈴氏、史上初めて北極点・南極点をオートバイで走破した風間深志氏、単独世界一周ヨットレースに挑戦した海洋冒険家の白石康次郎氏、そして小型ヨットで太平洋単独横断を成し遂げた海洋冒険家の堀江謙一氏などなど、活躍するフィールドは違えど、彼らは一様に華々しい“冒険歴”を持っている。

エベレスト挑戦に1億円 冒険家にとってはスポンサー探しも“戦い”

 そんな冒険家たちの誰もがまず乗り越えなければならない壁が、「資金調達」だ。北極点無補給単独徒歩に挑戦した北極冒険家・荻田泰永氏は、「北極点無補給単独徒歩には約2000万円かかり、その大半が往復の飛行機チャーター代(1400万円)に消える」と語っている。また、80歳を超えてエベレスト登頂に挑戦した三浦氏の場合は、計6社のスポンサーからそれぞれ1500万円、個人からの寄付で2000万円、トータルで1億円かかったという。冒険家にとっては、冒険前の資金集め、スポンサー探しのほうがずっと大変だという一面もあるかもしれない。

 栗城さんの場合も事情は同じだろうが、彼はひと味違うアプローチを試みている。自身を「元ニート」、「元引きこもり」としてキャラ化したのである。元ニートが、「日本人初となる世界7大陸最高峰の単独無酸素登頂に挑戦する」となると、そのギャップからマスメディアでも紹介されるようになる。知名度が上がればスポンサーも探しやすくなり、SNSを駆使して失敗した体験や挫折感をも共有しながら、クラウドファンディングで資金も調達できる。実際、「エベレスト生中継!『冒険の共有』から見えない山を登る全ての人達の支えに。」とのタイトルで2000万円以上を集めている。

ネット文化で冒険もエンタメ化? メディアの過度な煽りで高まる危険性

 しかし、登山の現場をネット中継するなどの冒険の“エンタメ化”は、視聴数(PV)を稼ぐため視聴者が求める刺激や要望を考慮する必要があり、冒険内容のハードルも自ずと高くなる。栗城さんも、「それまで僕は“山”という目標ばかり見ていて、まったく自分が見えていなかった。実は、2000年代後半から、目標達成や資金繰りに気を取られて、山に集中できないことがありました。プレッシャーも大きかった」と吐露している。

 また、冒険家を取り上げるメディア側にも、あくまで冒険家を“ネタ”のひとつとして考えている側面もあるのではないだろうか。言うなれば、“命知らずの冒険家”はテレビからしても格好のコンテンツ。昨今はタレントが“プロ冒険家”並みの挑戦をすることも多く、冒険的要素が強い番組の場合、視聴者は常に“その先”を期待してしまうため、タレントに危険がつきまとう事態に陥っている。名を売りたいタレントにとっては、制作サイドが求める挑戦内容に対してなかなか「NO」とは言いづらいもの。“死”に直結するようなチャレンジも見受けられるため、視聴者もTV制作サイドも過度な期待は禁物だ。

どこで達成して終わるのか? 挑戦を止める“勇気”も問われる

 とは言え、こうした“ゴールなき挑戦”への渇望は冒険家にとっては宿命でもある。日本人初のエベレスト登頂や世界初の5大陸最高峰登頂など、多くの偉業を冒険史に刻み、国民栄誉賞を受賞している故・植村直己さんは生前、「冒険とは生きて帰ること」と語っていた。しかし、43歳の誕生日を迎えた84 年2月12日、標高6194メートルの北米マッキンリーに単独登頂を果たした後、消息を絶つ。世界的冒険家である植村氏もやはり、本人が求めるハードルが次へ次へと上がっていき、「ゴールなき挑戦」へと突き進んでいったのだ。

 そして、著名な冒険家・三浦雄一郎氏も現在85歳という高齢にしてなお、「ゴールなき挑戦」を続けている冒険家のひとり。54歳のときに目標の「世界7大陸最高峰全峰からの滑降」を成功させると、一時期目標を見失ってしまったと言うが、65歳になると今度は「エベレスト登頂」を目指し、世界最高齢の登頂記録に挑み続けているのである。

 スポンサー探しだけでなく、挑戦内容に関してもハードルが上がる中、エンタメ化も意識しなければ活動もままならない“冒険家”という職業。「人がやらないこと・できないこと」に挑戦するというモチベーションにはじまり、自分の外部や内部にあるさまざまな葛藤やジレンマ、そして時には「挑戦を止める」“勇気”も問われていく。

 冒険家のみならず、私たち応援する側、支援する側にも、今一度“冒険”に対する姿勢や見方が問われている時期なのかもしれない。

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