(更新:)
ORICON NEWS
豊川悦司、“ナイーブ美青年”から“怪人枠”へシフト 寡作でもインパクト大
トレンディドラマをけん引、“ナイーブ美青年”役で“トヨエツ”ブランド確立
また、野島伸司脚本の『この世の果て』(1994年/フジテレビ系)では、複雑な生い立ちから愛を信じることができずに育ち、絶望を抱えつつ懸命に生きるヒロイン(鈴木保奈美)に惹かれ、結婚するも、裏切られる御曹司を演じた。野沢尚脚本『この愛に生きて』(1994年/フジテレビ系)でも、安田成美演じるヒロインの夫で、元妻と不倫する役を演じた。いずれも「ヒロインを悩ませ、立ちはだかる敵」でありながら、美しさとセクシーさで人気が上昇する。
そこから一転、“トヨエツ”が相手役としてブレイクしたのは、『愛していると言ってくれ』(1995年/TBS系)だ。聴覚障害を持つ青年画家を演じることで、大きな魅力の一つである「美声」をあえて封印。長く美しい指先を操る「手話」でのコミュニケーションと、それでも「声が届かない」ハンディキャップの切なさを情感たっぷりに演じた。ナレーションのみで聞ける美声も印象深かった。
極め付きの美しさは、野沢尚脚本『青い鳥』(1997年/TBS系)で人妻とその娘とともに愛の逃避行を演じた駅員役。いつも白いYシャツ姿で、物静かで実直、自然と児童文学を愛するナイーブ青年ぶりは、詩的ですらあった。
“怪人枠”? ストーリーのスパイス要素を担う存在感を発揮
このルーツは実は映画『妖怪大戦争』で演じた加藤保憲にあるのではないかと思う。『帝都物語』で嶋田久作が演じた加藤が世間一般の加藤イメージとして浸透していたなか、豊川はスマートで強く恐ろしく、セクシーで、にもかかわらず、他人事のとばっちりから簡単に破綻する間抜けな「新しい加藤」を演じてみせた。このように、映画でもCMでも、一つの役柄に様々な感情や奥行きを与えるのが、豊川流に見える。
その奥行きを作っている要素には、『NIGHTHEAD』で注目される前、デビュー当初に刑事ドラマの泥棒や殺人犯、ヒットマンなど、悪役ばかりを演じてきたキャリアがあるだろう。また、ナイーブなキャラが先行していた時でも、岩井俊二作品の映画『undo』でじわりじわりと壊れていく妻と、そこにからめとられていく夫の狂気を演じていたし、『Love Letter』では快活な関西弁の男性を色っぽく演じ、ふり幅の大きさを示してみせた。
久々の連ドラレギュラー出演、『半分、青い。』で見せる“天才役”の怪演
そして、ここ数年は出演数をこなしている訳ではないが、作り手が求めるキャラクターを寛容に受容し、自分の新たな面を引き出されること、発見することを楽しみながら役柄に集中できているのだろう。以前、ORICON NEWSのインタビューでも“今後演じてみたい役”について聞かれ、このように語っている。
「今の僕を見て“豊川にこういう役をやらせてみよう”といった他人の判断のほうが僕にとっては凄く駆り立てられるというか…。オファーを頂いたときに“こういう風に思われてるんだな”とか、“こんなこともできると思われてるんだな”って思えるのが楽しい(笑)。そういったことが自分を客観視できる材料になったりするので、頂いた役をどれだけ楽しむことができるかということに尽きると思います」(2016年7月26日/ORICON NEWS)
“コア”でも“マス”でもなんでもこなせる演技力には厚い信頼が寄せられ、今では“キーパーソン”や“スパイス”となる役として重宝。そして、どんなインパクトある役でも、格を落とさず品を保ちながら演じることで、作品そのものの信頼感も高めてみせる。これは、幅広く、個性の強い役を演じてきた仕事選びの上手さによる部分もあるだろう。
現在『半分、青い。』で演じている漫画家・秋風羽織は、一見して「偏屈な芸術家」だ。ロン毛にサングラスという怪しげな出で立ちもさることながら、「天才」性を際立たせているのが、仕事に向かう真剣な眼差しと、物思いにふける渋い面持ち、そこから一転、気まぐれさや子どもっぽさの落差である。わけのわからない言葉を駆使して芸術を熱く語ったかと思うと、クールな表情を見せる。ときには貴婦人のように優雅で、ときには小さな子どものようにキュートでもある。そんな高低差を眉や眉間のしわ、指先の動きなど、わずかな動きで表現してみせるのはさすがである。
“トヨエツ”というブランドを無下にすることなく、過去の実績を生かしながらも、ここぞという役柄で印象に残るような役を全うしている豊川。今後も、数より質で印象的に活躍していってくれるのではないだろうか。
(文/田幸和歌子)