(更新:)
ORICON NEWS
「有害指定図書」の是非 教育者とクリエイターの“70年戦争”
地方自体ごとに異なる“有害指定”のあいまいな基準
その中身は文章による分析や考察が大半であるため、ネットでは「真摯に漫画史を研究された名著を有害指定とは」、「有害指定はやりすぎ」と有害指定への批判が多め。また、日本雑誌協会は「新たな分野の研究書であり、フィールドワークの労作だ」と、有害指定に疑問符を投げかけている。
では、数ある“エロ系”書籍の中からなぜ本書を選んだのか? 北海道庁の担当者に聞くと、「ランダムなチェックによるものです。特別、毎月一定数の書籍をチェックするルールなどもありません」との回答だった。一部ニュースでは、タイトルに「エロ」の文字があったからだとする報道もあったが、担当者によれは「本書の場合、性行為などの露骨な描写が多数掲載されていることが要因」とのことだった。
こうした点からも分かる通り、各地方自治体それぞれに有害図書の指定基準があるが、その見解は千差万別。言うなれば、基準は“あいまい”な状態なのだ。そのため、クリエイターの萎縮や自主規制に繋がることを懸念する声も多い。
『鉄腕アトム』を焚書する暴挙も!? 有害図書指定“70年”の歴史
そうした世相もあり、50年に露骨な性的描写で『チャタレイ夫人の恋人』(小山書店)が警視庁に摘発され発禁処分となったり、55年頃には“悪書追放運動”が盛んとなり、故・手塚治虫さんの『鉄腕アトム』を含む漫画を校庭に集めて“焚書”するという暴挙も発生。
68年に週刊少年ジャンプ(集英社)で『ハレンチ学園」(作/永井豪)の連載がスタートすると、全国の小学校でスカートめくりが大流行。70年に三重県四日市市の中学校長会が問題視し、四日市市少年センターが三重県議会に有害図書指定を働きかけるが、実現には至らなかった事例もある。
そのほか、漫画では『いけない!ルナ先生』(作/上村純子)、『激烈バカ』(作/斉藤富士夫)、『ふたりエッチ』(作/克・亜樹)、『殺し屋1』(作/山本英夫)、『多重人格探偵サイコ』(作/大塚英志)などが各自治体で有害図書指定された。
他方、97年に『完全自殺マニュアル』(著者・鶴見済)が自殺を誘発するとして群馬県などで有害図書指定。00年には、爆弾事件で犯人が爆発物を製造の参考にした『危ない28号』が全国18都道府県で有害図書指定されるなど、社会的な事件の影響を受けて指定されるケースもあった。
熾烈を極めた『ハレンチ学園』への批判 永井豪は“表現”で対抗
今年、1月5日に放送された『アナザースカイ』(日本テレビ系)で永井氏は、教育団体に叩かれても“破廉恥漫画”を書き続けた理由を次のように明かした。「子供の頃から少年たちも異性に対する興味がある。それを健全な形で漫画で発散せていく方がかえって、性犯罪を呼び寄せることにならないはずだ」。
事実、教育者から叩かれ続ける永井氏には、子ども達から手紙や電話で賛同や応援の声が大量に届いた。永井氏はそれを見て「自分が叩かれても(番組などに)出ていこう」と決意したようだ。
一方で、こうした騒動を力に変えるのも“クリエイター”ならでは。永井はこのバッシング以後、権力との戦いを風刺した作品や、暴力性や善悪入り混じる“人間性”の描写で人気を博し、トップ漫画家としての名声を盤石のものとした。
クリエイターの表現を制限する“自主規制”の壁
こうした自主規制の動きに対し、17年12月18日放送の『AbemaPrime』(AbemaTV)で漫画家の江川達也氏は、「僕も昔、エロ表現で訂正させられた経験がある」と告白。「勝手にやられたことではなかったが揉めた。週刊少年ジャンプの『まじかる☆タルるートくん』で、全部ボツにされ、締め切りがあと1日しかない中、全く違う、エロくも何ともない漫画を描いた」という。
その背景について、「マイナーな漫画誌に警察が入って捕まったという事件があった時で、出版界全体が自主規制に入った」と振り返った。同番組では、元都知事で作家の猪瀬直樹氏が「子どもの手が届かないところに置くという“ゾーン規制“」のあり方も含め、業界内でのルール作りを訴えていた。
確かに、目を覆いたくなる過激な「エロ」「グロ」の漫画表現もあるが、“表現の自由”は尊重されるべきであり、安易に“読めなくする”考えには反対する声も多い。そのため、有害指定の図書を決めるとしても、現状のような各地自体ごとの“あいまい”な基準による指定では、今後もこのような騒動は続くだろう。今回の件を受け、いま一度“表現”と“規制”について考えるタイミングなのかもしれない。