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“壊れゆく”アイドルたち 支え続けるファン心理とは?

  • アイドルはいつの時代も“疲弊”しているという

    アイドルはいつの時代も“疲弊”しているという

 “会いに行けるアイドル”AKB48系グループの台頭により、「専用劇場」や「握手会の開催」などでファンとの距離が飛躍的に縮まり一体感を生み出した。一方で、見ず知らずの相手との接触商法(握手やツーショットチェキなど)は精神面・体力面の負担も大きく、彼女らは少しずつ心身を“削られ”疲弊している現状もある。そんな“壊れゆく”アイドルたちを支えるファンの心理について、元週刊誌の芸能記者でアイドルのマネジメントに携わる豊沢朱門氏に話を聞いた。

ファンの想いが暴走し事件にも アイドルはいつの時代も“疲弊”している

 「接触商法の負担は深刻ですが、アイドルの“疲弊”という点で言えば、何も今に始まったことではありません」と語る豊沢氏。「アイドル黄金時代といわれた1970〜80年代、当時は現在の集団型アイドルとは違って『アイドル=選ばれし者』なので少数精鋭。その分、アイドルたちの負担(仕事)がより集中する傾向にありました」と解説する。

 また、今でこそネットやSNSなど、好きなアイドルへの想いをファンたちが共有・発散できる“場”があるが、当時はそういったものはなかった。そのためか、「あまりに強すぎる想いがアイドル本人に向かって暴走することもあった」と豊沢氏。実際、自宅マンションに侵入した男に監禁されたり(岡田奈々監禁事件/77年)、公演中にステージでファンに襲われたりと(松田聖子殴打事件/83年)、当時のアイドルたちもAKB48と同様の経験をしていたのである。

 いつの時代も神経をすり減らすアイドルたち。そんな“消耗”するアイドルの代表例として、豊沢氏は80年代の“歌姫”中森明菜の名を上げる。当時の中森は、情念を込めた高い歌唱力でヒット曲を連発していたが、一方でスキャンダルも多かった。豊沢氏は「プライベートが話題になることも多かった中森さんでしたが、実力のあった歌唱力に“哀愁”や“悲哀”といった“ドラマ性”が加わることで、ファンが熱狂していく側面もあった」と振り返る。

疲弊したアイドルを支えたい“ファン心理”を逆手にとり、“疲弊”を装う地下アイドルも

 現代のアイドルも、元AKB48・前田敦子や大島優子などは激しすぎるセンター争い(選抜総選挙1位争い)の中でやはり疲弊していく。「当時のAKBは“国民的アイドル”として最も注目を集めていた時期。ファンはもちろん、メディアも含めてヒートアップする熱狂の中、ファン(アンチ含む)の想いを背負い過ぎた前田から、『私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください!』との名言が飛び出しました。センターという重責を担いつつ、そのプレッシャーから逃げずに戦っていた前田の姿に、ファンだけでなく、アンチの人もグッときたのではないでしょうか」(豊沢氏)

 あらゆることが可視化された現代、ファンたちにとってアイドルの実生活と芸能活動の差は事実上なく、「アイドルが見せる感情の起伏など、“ドラマ性”を強く求めるようになった」と豊沢氏。最近は、自分の弱さをウリにするという“病んドル”までが登場。特に地下アイドル系では、こうした“ダークサイド”に落ちたかのような発言でファンを呼び込もうとする人もいるようだ。「地下アイドルなどは、疲弊を“偽装”する人が多いんです。それは、『彼女を支えたい』『応援したい』といったアイドルファンの心理を突いた手法とも言えます」

悲哀の元エースが見せたアイドルの苦闘

 22日、乃木坂46を卒業した生駒里奈は、デビュー曲から5作連続でセンターを務めた中心的メンバーのひとり。だが、センターを担うことの重責にプレッシャーを感じていると早い段階から公言していた。豊沢氏は、「AKBのライバルとして登場した乃木坂は注目度も高く、5作連続でセンターを務めた生駒は、アンチの批判を一心に集める存在だった」と語る。実際、本人もバラエティ番組で「かわいくない」「ふさわしくない」とバッシングの嵐だったと振り返っている。その後も、AKB兼任による多忙や体調不良で握手会にも参加できないことが続き、アンチの攻撃も増幅していく。

 本人も、自身のブログで「毎日心が千切れるくらいです」と明かし、「1個の事に集中したら結構いい感じになる人なのですが、それだけじゃダメだってのもわかってるのですが、天才に生まれてないからさ、これは時間かかるのですね」とアイドル活動に対する不安を露わにするなど、その消耗っぷりは明らかだった。

 ただ、そんな生駒だからこそ同じアイドルの“痛み”も知っているのか、卒業シングルでのセンターを辞退したり、乃木坂メンバーに迷惑をかけないようにと、発表から3カ月という異例の速さで卒業するなど、最後まで責任感とグループ愛を見せ、ファンたちの心を打った。

 「生駒ファンも、彼女の頑張りと苦労を“ストーリー”として知っているからこそ、最後まで彼女を支えようと奮起したようです。卒業公演のチケットは30倍もの競争率になるなど、彼女のファイナルを盛り上げる姿が印象的でした」(豊沢氏)

壊れゆくアイドルの神秘性と哀愁 努力から生まれる“摩耗”はファンの熱になる

 多数の人から注目されるアイドルの“疲弊”は、今も昔も避けられない現実のようだ。もちろん、接触商法の是非も含め、アイドルたちの“働き方改革”は必要だろう。しかし、プレッシャーに押し潰されそうになりながら懸命に上を目指し続けるアイドルこそ、「日本のアイドル文化の本質」と豊沢氏は強調する。

 「アイドルが輝くのは、上だけを向いてひたむきに歩んでいる時。だから、『総選挙で1位になる』『武道館を目指す』といった、目に見えて分かる目標のための“摩耗”は、よりファンの熱に繋がります」と豊沢氏はいう。そして、それを目の当たりにしたライト層が、ディープ層に変わるきっかっけにもなっているようだ。

 前述したAKBの総選挙などは、メンバー全員が消耗している。しかしその努力をファンにきちんと見せることが必要だと豊沢氏は力説する。「自分が応援することでアイドルたちも成長していく、そのストーリー性があるからこそ、アイドルとファンとの結束が強まる」とも。

 接触商法はもちろん、SNSでの広報や更新などアイドルとしての仕事の領域が広がり、アイドルの消耗が激しいのは想像に難しくない。しかし、そうした苦境を乗り越えた時にアイドルがより光り輝くのもまた事実なのである。ファンも、好きなアイドルたちの光り輝く瞬間を何度でも見たいと思うからこそ、いつまでも応援し続けるのだ。

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