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高橋メアリージュン、主役を引き立てる”裏回し女優”としての地位を確立
人気モデルが女優に転身、再現ドラマなど地道な活動で広がった演技の幅
「高橋さんのエッセイ本『Difficult? Yes.Impossible?…No.わたしの「不幸」がひとつ欠けたとして』(ベストセラーズ)によれば、高橋さんのお芝居を見たプロデューサーが、その存在に着目。脚本の遊川和彦さんらと話をして、高橋さんありきの新たな役・マリヤを付け加えたそうです」と話すのは、メディア研究家の衣輪晋一氏。
高橋は日本人の父親とスペイン系フィリピン人の母親を持つハーフ。マリヤはフィリピンから出稼ぎで日本にやってきた日本人とフィリピン人のハーフだ。「高橋さんのご実家は昔は裕福でしたが、事業に失敗して闇金の督促に怯える暮らしに。高橋さんは四人兄弟の長女として一家の大黒柱としての意志が強く、借金返済のために率先して兄弟4人で実家にお金を入れる生活をしている苦労人です。まさにあて書きの役柄」(衣輪氏)
その後は、闇金に取り立てられたトラウマを乗り越えて挑んだ映画『闇金ウシジマくん Part2』に出演。感情の栓が狂った闇金社長役で注目されると、映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』の妖艶な美女・駒形由美役、や『痛快TVスカッとジャパン』(フジテレビ系)の再現ドラマなど、“いい子”役からインパクト大の悪役まで、地道ながら着実に演技の幅を広げていった。
借金返済、重なる病気をカミングアウト 壮絶な“生き様”を演技に昇華
2015年、姉妹で出席した『第3回ベストエンゲージメント2015』表彰式では、妹のユウが当時をこう振り返った。「ご飯も食べられないほどの症状と、映画の撮影というハードスケジュールが重なって、体調がどんどん悪化。みるみる痩せていきました(エッセイ本によればマイナス10kg)。撮影から家に帰ってきても、目の焦点も合わないままベッドに倒れ込んでいたお姉ちゃん。そして数時間後には這うようにして撮影に向かっていました」(高橋ユウ)
このほか、女優デビュー直前には、当時の所属事務所を辞めることになり「高橋家が路頭に迷ってしまう!」と絶望を味わったことも(その後、現在のエイジアプロモーションに移籍)。そして、2016年には子宮頸がんが発覚。27歳の頃、映画『復讐したい』のクランクイン前には、ストレスなどが原因で顔面神経麻痺になり笑えなくなったこともあった。
「そんな彼女を支えてきたのは、お母様の言葉。『すごく悲しいことが起きたとしても、いずれは自分のストーリーになるの。いつか笑顔で人に話すときがくるよ』だったそうです」(衣輪氏)。その数々の苦難も糧とする前向きな姿勢に、SNSでは「生き方かっこいい」「とても素敵な方」「女優を続けてくれてありがとう」といった声が挙がっている。
“主役を食わない”迫真の演技、“人間らしさ”との両立で物語のキーパーソン役に
「高橋さんの表現の源泉は、10代のボイストレーニングでの経験にあると考えられます。当時、上手く歌おうと躍起だった高橋さんに、ボイトレの先生が『亡くなった初恋の彼氏や上京の不安など全部思い出しながら、音程も何も気にせず歌ってみて。ぐちゃぐちゃになってもいいから』とアドバイス。このとき、先生は高橋さんの歌声に涙したそうです。『音程やリズムを気にかけることも大事。でもね、ジュンちゃんが歌ったものが本当の歌です』と言われ、高橋さんは同著のなかで『うまくやろうとすることよりも、気持ちを入れること、命を吹き込むことを最優先にする』きっかけになったと振り返っています」(衣輪氏)
高橋の演技から感じられる人間らしさ――。彼女は決して主役を食うような“演技力がある”オーラは出さず、脇役に徹しながらも視聴者の心を響かせることができる。だからこそ、自然と物語の転機をつくる“裏回し”を担う役が続くのだろう。一時はハーフであることから「女優顔ではない」と言われたこともあるが、だからこそ見出したポジションとも言えるはずだ。
今期ドラマ『あなたには帰る家がある』でも、主人公・佐藤真弓(中谷美紀)の夫・秀明(玉木宏)に「恋心を抱く小悪魔的後輩女子社員」という“ひと癖”ありそうな役を演じている。今作で高橋がどのような”裏回し”で、物語をかき回してくれるか楽しみだ。
(文/西島享)