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元祖“プロゲーマー”高橋名人に聞く、eスポーツの未来と課題 「国民的なスターが必要」

  • 16連射で国民的ヒーローとなった高橋名人

    16連射で国民的ヒーローとなった高橋名人

 2月、ゲームファンとゲーム大会の祭典『闘会議2018』にて日本初のプロゲーマー認定大会が実施され、大会の成績優秀者15人にプロライセンスの取得権利が与えられた。将来のeスポーツ“五輪種目化”を見据えた動きが活発化する一方で、ゲームに馴染みのない一般層からは「eスポーツってなに?」「プロゲーマーって稼げるの?」という疑問の声も聞かれる。そこで、eスポーツの認知拡大、賞金制大会の問題など、eスポーツの未来と課題について16連射でお馴染み“元祖プロゲーマー”高橋名人に話を聞いた。

実は17連射だった!? “キャラ立ち”していた高橋名人がファミコン業界の顔に

  • 高橋名人の一挙手一投足に反応する80年代のちびっこたち

    高橋名人の一挙手一投足に反応する80年代のちびっこたち

  • アイドル並みの人気を誇った高橋名人

    アイドル並みの人気を誇った高橋名人

 3月7日、吉本興業初となるプロゲーマー3名を発表すると共に、eスポーツ事業に本格参入することを表明。さらに9日、Jリーグは初の試みとなるeスポーツの大会『明治安田生命 eJ.LEAGUE』の開催を発表し、将来的に「eスポーツを一つの柱としてチャレンジしていく」とチェアマンが展望を明かした。

 このように、将来の“五輪種目化”が期待されるeスポーツに対して日本の大手企業が力を入れ始めている。しかし、eスポーツの定義やプロゲーマーの基準などは曖昧な部分もあり、一般層に認知されづらい現状もある。その点について高橋名人は「業界を代弁する“スポークスマン(ウーマン)”がいないのが要因では」と指摘する。

 かつてソフトメーカー(ハドソン)の宣伝マンだった高橋は、会社からの「お前やれ」の一言で“高橋名人”となるや、ファミコン業界の“顔”となってゲームの認知度アップやイメージ向上に貢献。空前のファミコンブームを牽引した男だけに、その言葉は重い。

 高橋名人の“ガキ大将”のような愛嬌のあるルックスと、16連射というキャッチーなコピーはメディアだけでなく子供たちの心をガッチリと捉まえ、あの“ファミコンブーム”という渦の中心人物となった。だが、高橋名人の代名詞“16連射”については「だいたいの数字だった」と裏事情を明かす。

 「『スターフォース』(1985年/ハドソン)のボスキャラにラリオスというのがいて、コアが光ってから合体するまでの1秒間に8発撃ち込んで倒すと5万点。でも光る前に撃つと、撃った数だけ8発に足される。僕は光る前に7〜8発撃っていたから、なら16連射にしようと。コンピューターは16進数だし、ゴロもいいからってことで決まりました」と高橋名人は笑う。

 ところが、86年に新たな事実が判明する。高橋名人主演の映画「『GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突!大決戦』の連射シーンをADが調べたところ、240コマで174発撃っていたのだ。「映画は1秒間に24コマなので、1秒間で平均17発撃っていた」と告白。伝説の16連射は、実は17連射だったというのだから驚きだ。ちなみに、現在の連射速度を聞くと「今でも12〜13発をキープしています」とのこと。名人芸はまだまだ健在のようだ。

“ただ勝つ”だけじゃダメ! 「血の通ったドラマ性」で視聴者を魅了するのがプロ

  • マンガや映画、CDデビューも果たした高橋名人

    マンガや映画、CDデビューも果たした高橋名人

 高橋名人と言えば、「ゲームは1日1時間」の名フレーズも有名。当時はゲーム=不良というイメージが強く「ファミコンがレッテル貼りをされないための発言だった」と明かす。実際、子ども達のヒーローだった高橋名人の言葉は爆発的に拡散。小さな子どもがいる多くの家庭で「ゲームは1日1時間って名人が言ってるよ」と、子どもたちに言い聞かせるようになり、ファミコンの健全化アピールに役立ったという。

 だからこそ、高橋名人は「今の時代、“宣伝マン”になるべき存在はプロゲーマー本人達です」と力を込める。「プロは魅せることが大切。僕の時代はシューティングゲームが人気でした。大会で1位になるには高得点が必要で、そのためには敵が出てきた瞬間に倒して、次の敵を待ち構えるのが最も効率がよい。でも、それって周りの人は見ていてつまんないですよ、画面上に敵がいなくなるから(笑)」とジレンマがあったと語る。

 そこで高橋名人は、ゲームソフトの魅力をアピールするために点数は捨て、敵を画面上にたくさん出しつつ、弾幕をかいくぐりながら魅せて勝つ方法を選択。「敵の種類や攻撃のバリエーションを見せて、実際にゲームをプレイしたいと思わせるのが僕の仕事だった」と説明する。今の時代に置き換えれば、格闘ゲームなら敵の技を全部受けきって勝つ。あるいは体力をギリギリまで削らせてから逆転勝ちする。「言うならば血の通ったドラマ。つまり“プロレス的な演出”が必要」と高橋名人は力を込める。

 これからのプロゲーマーは、勝利は大前提で、観ているギャラリーに対して“共感”や“没入体験”を提供する必要があるのだという。もちろん、自身を演出する術も獲得しなければならず、いわば各々が「16連射」に相当する“パワーワード”を手に入れなければならないのだ。

“スター不在”はeスポーツ界の深刻な課題 YouTubeとの掛け持ちも必要に!?

 eスポーツ業界の課題についてはどうだろうか。高橋名人はeスポーツに対する負のイメージを一つひとつ払拭する必要があると語る。特に、ネット上ではスマホゲームタイトルの『パズル&ドラゴンズ』『モンスターストライク』がプロ認定大会に選ばれたことに対し疑問の声が挙がっている。具体的には、「課金してプロゲーマーを目指せってか?」「課金しないとプロゲーマーになれない時点でおかしい」といった声も。しかし、「それは誤解」と高橋名人は否定する。

 「公式大会ではメーカーが選定したキャラやアイテムしか使えません。課金してどんなに強くなっていてもそのキャラは使えません」と解説。「ネットではそれを知らずに批判している声も多いですね。逆に言えば、課金に頼った戦い方をしている人では、大会では勝てないかもしれません」と指摘。

 また、日本で実施される大会の“賞金額”(400〜500万)では「プロとして生活していけない」と警鐘を鳴らす。高橋名人は「多くのプロ達が年間で800〜1000万円を狙える環境を作らないと厳しい。なので、日本を代表するファーストメーカーが、1億円レベルの大会を年間でそれぞれ4回くらいやってくれるのが理想」とも。プロと名乗る以上、億を目指せる環境でなければ、子どもたちの“夢の職業”にはなりえないのだ。

 そして何より問題なのは、ゲームファン以外の人でも名前を知っているような“スターの不在”だ。そんな中、YouTubeやニコニコ動画でゲームのプレイ動画を配信する「動画勢」としての活動が注目されている。元々、ゲームは動画配信と相性がよく、“ゲーム実況”のプレイヤーから多くの人気YouTuberが誕生している現状もある。もちろん、プロとして強いことは大前提だ。しかし、どうやって“スター”になるかは、現代なりのアプローチがあるはずだ。

 eスポーツ業界は法律面や体制といった基礎を急ピッチで固めている段階。それは、2024年の五輪で有力視される“五輪種目化”を見据えているため。高橋名人は「今の段階では政治や法律に詳しい人が先頭に立つべきですが、その後、eスポーツ業界のスピーカー役が必要だとなれば、僕はいくらでもやりますよ」と元宣伝マンのプライドを垣間見せた。

 そんな、高橋名人の今後の活躍にも期待しつつ、eスポーツ界にサッカーの“本田圭佑”や野球の“大谷翔平”といったスターが登場するか否か、その動向を追いかけたい。

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