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“月9ブランド”必要? 識者が忖度なしで語るフジテレビの今後

 80〜90年代を沸点に、さまざまな名作を世に送り続けてきたフジテレビの月9枠。幾多のムーブメントを起こしてきたが、今はその“ブランド”自体が足かせになっているとの意見も多い。だが、現在放送中の『海月姫』も視聴率だけを見ると結果が振るわずも満足度は高い。ORICON NEWSでは、テレビ事情に詳しいコラムニストの木村隆志氏、NHK朝ドラにも造詣が深いライターの田幸和歌子氏、ライターでイラストレーターの吉田潮氏の3人を招き座談会を開催。本日最終回を迎える『海月姫』や、月9ブランドについて、忌憚ない意見が飛び交った。

『海月姫』、芳根京子さんがヒロインとして本当に必要だったのか…(田幸)

『海月姫』第一話完成披露試写会でメインキャストが集結 (C)ORICON NewS inc.

『海月姫』第一話完成披露試写会でメインキャストが集結 (C)ORICON NewS inc.

――現状『海月姫』の視聴率は、初回の平均視聴率は8.6%で同枠史上ワースト2位、月9ワーストにもあと一歩のところまで追い込まれた週もありました。数字的には芳しくありませんが、SNSではF1層を中心に「ここ最近の月9では最高に面白い」「月9とか関係なく面白い」などの声が挙がっています。皆さんは『海月姫』についてどう感じてらっしゃいますか?
木村隆志 昨今、『99.9-刑事専門弁護士-SEASONU』(TBS系)など一話完結の問題解決ドラマが増えていますが、そんな中で『海月姫』は敢えて、視聴率を獲りにくい“連続ドラマ”という形で挑戦しています。僕はまずそこを評価したいですね。
吉田潮 私は「なぜ今『海月姫』か」。そんな違和感がありましたね。原作が10年近くも前の作品で、能年玲奈(現・のん)主演で映画化もすでにあって。あと私にとっては“尼〜ず”はあまりにわちゃわちゃしすぎ。見てて疲れちゃう(笑)。
田幸和歌子 オタク女子の描かれ方が均一的ですよね。あのわちゃわちゃの中で、繊細でリアリティのあるお芝居をする芳根京子さんがヒロインとして本当に必要だったのか…。私は最初、芳根さんがかわいそうだったんです。
吉田 原作が描かれていた時期なら、あのオタク女子の描き方は正解なんですよ。でも現在のオタク女子たちはすでに市民権を得ていて、オタクであることを寧ろ楽しんでる。そんな時代なのに今、原作の通りに映像化した結果の時代錯誤感たるや!…と思っていたけど、なぜ私が視聴をやめなかったかかといえば、途中から安井順平や要潤など「“脇”を見守る」という“別次元”に入ったからです(笑)。それからは観るのが楽しくなっちゃいました(笑)。
田幸 違和感といえば私は、兄から弟に設定が変わった修(工藤阿須加)もそうでした。
吉田 映画と比べても仕方ないと思いつつ、映画版の長谷川博己、良かったよね(笑)。
田幸 でもいつからかそれも気にならなくなって…。例えば、修が思わず黙って月海を抱きしめてしまうシーンでも、それがお芝居を超えて本気に見えてしまったんです。それはなにかというと、ひとえに芳根さんの演技力なのではないかと。
木村 芳根さんのお芝居によって工藤さんの“本気”が引き出された、ということですか?
田幸 そう、“引き出された”。さすが“オーディション荒らし”の異名を持つ女優さんだけあると思いました。
  • 2018年1月期月9『海月姫』主演の芳根京子(C)ORICON NewS inc.

    2018年1月期月9『海月姫』主演の芳根京子(C)ORICON NewS inc.

――補足しますと、芳根さんは弱冠20歳でありながら、実は現場で大変な座長ぶりも見せています。これは工藤さんから伺ったのですが、芳根さんは空き時間に共演者へ“なぞなぞ”を出して遊んでいたとか。工藤さんはそれが俳優部の結束を固めたと分析しており、女装男子を好演する瀬戸康史さんも「あの“なぞなぞ”があったからこそ皆が早く身近に感じられた」と話されていたそうです。現場での芳根さんの影響も相当でしょうね。
田幸 意外! 芳根さんには座長としての才能もあったんですね。
木村 以前はそうじゃなかったみたいですよ。御本人にインタビューしたことがあるのですが、実感的には、彼女の現場での冷静さが出てきたのは朝ドラ『べっぴんさん』以降。芳根さんは朝ドラ前後で見ることができるんです。それまでは感受性が強すぎた一面もあって(笑)。インタビュー中に感極まって泣いちゃったりとか(笑)。
田幸吉田 へ〜!
木村 『海月姫』に話を戻すと、三角関係のラブストーリーと“尼〜ず”のシンデレラストーリーという2軸の悲喜こもごもを、時系列を追いながら丁寧にスローに描いているところでも好感を持っています。フジテレビはこういったドラマをもっと作ってくれるといいのですが。

10〜20代から意外にも恋愛モノ高支持!? 求められる視聴率の新しい指標

  • 『海月姫』で主人公・月海と弟・修と三角関係となる蔵之介を演じる瀬戸康史(C)ORICON NewS inc.

    『海月姫』で主人公・月海と弟・修と三角関係となる蔵之介を演じる瀬戸康史(C)ORICON NewS inc.

  • 『海月姫』で主人公・月海に恋をする修を演じる工藤阿須加 (C)ORICON NewS inc.

    『海月姫』で主人公・月海に恋をする修を演じる工藤阿須加(C)ORICON NewS inc.

――20、30代の恋人がいない未婚者への「内閣府調査」では、「恋人が欲しいですか?」の質問に37.6%もの人が「いいえ」と答えています。そんな現代、ラブストーリーである『海月姫』の若い層での満足度が高いのはなぜだと思われますか?
木村 そうですね。僕はマーケティングで高校生や大学生と話す機会を設けているのですが、彼らはドラマでは月9を一番見ていることが分かりました。
吉田 そうなの?
田幸 意外!
木村 ではなぜ月9なのかと尋ねてみたら月9には「恋愛があるから」だと。今の若い子も恋愛の優先順位が一番じゃないだけなのでしょう。関心がないわけではなく、例えばおそらく、人の恋を見てドキドキするぐらいが丁度いいのでしょう。
吉田 なんだかんだ言って結局は世の中結局、恋愛だらけじゃないですか。とくに不倫ドラマ! 不倫ドラマは人間の“業”そのものが描かれるので個人的にも大好きなんですけど(笑)、『海月姫』の場合、その“業”のはるか以前の状態なんですよね。ドロドロどころか、出てくる全員が童貞か処女ばかりでしょ(笑)。今やワイドショーなどで芸能界も不倫だらけ。みんないい加減、「ドロドロはもういいいよ」って飽きちゃってるところもあるんじゃないかな。
田幸 “ピュア”だからこそ、若い層から新鮮に見られることはあるかも。
木村 彼らに恋愛の需要がないわけではないと思うんです。だから月9は、そんな若い人の受け皿を狙っていけばいいのではないかと思います。
田幸 世代的に人数が多いからといって団塊ジュニア以上の世代ばかり狙っていてはダメですよね。
吉田 テレ朝はそれがとくに顕著で(笑)。
田幸 あと『海月姫』を見ている人たちのSNSを見てみると、「お風呂から上がって見よう」と、リアルタイムで見ていない人も多いです。
――その通りで、調査したユーザーコメントを見ても、録画して「寝る前に見ている」などの声は非常に多い。
吉田 そんな時代だから、オンタイムの視聴率なんて当てには出来ないんじゃないかな。今や全録の時代ですし、録画視聴率とかで見たほうがいいんじゃないでしょうか。
田幸 そういった系で第三者機関が出した根拠のある数字をもっと広める努力をした方がいいですよ。われわれメディアも。
木村 それにはやはりスポンサーが…(笑)。録画だとCMが飛ばされてしまうからテレビ局としては言えない数字ですね。でも『アンナチュラル』(TBS系)では、局の人が言えない分、脚本家の野木亜紀子さんがSNSで録画視聴率を発表されているんです。そうしたフォローアップも大事ですね。
田幸 視聴率だけを見て作り手が守りに入るのは勿体無いと思うんです。幸い、『海月姫』に関しては「視聴率は悪いけど面白い」といういいイメージが付きつつあるからいいけど。
木村 録画視聴率やSNSの盛り上がりを含めた「総合ランキング」的なものが必要とされている時代にあるのかもしれません。

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