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星野源の「ドラえもん」が提示した“オリジナル”アニソンへの原点回帰

 劇場版ドラえもん『映画ドラえもん のび太の宝島』で星野源が書き下ろした主題歌の曲名が、なんと「ドラえもん」であることが先ごろ発表された。近年、アーティストとのタイアップ曲が主題歌となることが多く、純粋なアニメソングがなくなりつつある中で、歌詞内にも『ドラえもん』のキャラクター名を盛り込むなど、過去を振り返っても異例づくしの主題歌になっている。アニメの為だけに作られ歌われる“正真正銘のアニソン”について、『ドラえもん』以外の例ではどうか、過去の変遷をたどってみる。

星野源の新曲、アニソンでは“異例”のタイトル「ドラえもん」

 星野源が手がけた、劇場版ドラえもん『映画ドラえもん のび太の宝島』の主題歌は、今回の映画というよりは、まさにドラえもんの“テーマソング”というべき内容となっている。歌詞の中には、故・藤子・F・不二雄先生の言葉や、ドラえもんのキャラクター名が入り、間奏にはTVアニメテーマ曲の「ぼくドラえもん」のメロディーを盛り込んだ。そして発表されたジャケ写は、ドラえもんカラーのブルーを使用し、ドラえもんがひみつ道具を取り出したシーンを彷彿とさせるデザインとなっている。

 過去に、劇場版ドラえもんの主題歌を担当したのは、平井堅、山崎まさよし、miwa、秦基博、Perfume、福山雅治、綺香、スキマスイッチ、ゆずといった実力派アーティストばかりだ。しかし、秦基博のヒット曲となった3DCG映画『STAND BY ME ドラえもん』(2014)の主題歌「ひまわりの約束」をとってみても、歌詞には映画の世界観は描かれているものの、ドラえもんやキャラクターを表す固有名詞は盛り込まれていなかった。それは過去の劇場版主題歌をみても同様で、『のび太と銀河超特急(エクスプレス)』(1996)の千葉和臣(海援隊)による主題歌「私のなかの銀河」と、曲名をサブタイトルに寄せることはあっても、星野源のように、「ドラえもん」の世界観までをも歌った曲はない。これは『ドラえもん』だけにとどまらない。アーティストとのタイアップ主題歌が多くなった現代は、作品自体のことを歌った“オリジナル”のアニメソングが減少していると言える。

名作を名作たらしめる重要な役割を担った“オリジナル”のアニメソング

  • 『機動戦士ガンダム』主題歌の「翔べ!ガンダム」

    『機動戦士ガンダム』主題歌の「翔べ!ガンダム」

 TVアニメの名作には、“アニメのために作られ、アニメの事を歌った”オリジナルソングがつきものだった。昭和の時代には『マジンガーZ』の水木一郎、『宇宙戦艦ヤマト』のささきいさおなど、アニソンシンガーなるものも誕生し、『ドラえもん』はもちろん、『パーマン』、『キン肉マン』、『機動戦士ガンダム』など時代を作ったアニメには、ファンでなくても誰でも口ずさめる、オリジナルのアニメソングがあった。曲名や歌詞には、作品名や主人公名などの固有名詞、必殺技、武器やアイテムなどが盛り込まれ、大サビでは、それらを3回繰り返すという“お約束”もあって、人々の心に強く印象づけられた。

 先ごろ放送された『日曜もアメトーーク!』(テレビ朝日系)では、昭和アニソン軍VS平成アニソン軍が対決(2017年10月8日放送)。昭和時代のアニソンは、曲を聴けばその作品がどういうストーリーか分かり、誰もが口ずさめて、親しみやすい“オリジナルソング”だったことを主張。ケンドーコバヤシ、博多大吉、よゐこ・濱口優、麒麟・川島らが「新オバケのQ太郎」のテーマソングを、合いの手を入れながら大合唱するシーンもあった。昔のアニメソングは確かに人々の記憶に強く残っているようだ。

80年代からアニソンが“タイアップ”に、現代ではオリジナルソングは希少

 アニソンの在り方が変化しはじめたのは1980年代。高橋留美子原作の『うる星やつら』(1981)では、およそ1クールでオープニング・エンディング曲を変える試みを行った。これがレコード会社に大きなビジネスチャンスとなり、以後の作品においては1〜2クールでOP曲・ED曲を変える作品が多くを占めるようになる。その後、北条司原作の『キャッツ・アイ』(1983)で、アーティストの杏里が主題歌「CAT’S EYE」を歌い、大ヒット。杏里はこの曲で一気にスターダムへとのぼりつめた。これが今のアニメとアーティストのタイアップの流れを強めたと言っていいだろう。しかしながら80年前半は、『うる星やつら』の「ラムのラブソング」をはじめ、『Dr.スランプ アラレちゃん』(1981)の「ワイワイワールド」など、曲名や歌詞の中に、まだまだ作品名やキャラクター名が含まれるオリジナルソングが多かった。

 1980年代、少しずつ強化されていったレコード会社のタイアップ戦略の流れの中で、楽曲内でアニメを語ることが困難になっていく。『北斗の拳』(1984)の「愛を取り戻せ」は、ロックバンド・クリスタルキングによる楽曲である。歌詞の「指先ひとつで」のあたりは、北斗神拳のことを連想させるが、『北斗の拳』ならではの固有名詞は出てこない。しかし、カップリングの「ユリア…永遠に」を見ると、ヒロインの名前がタイトルに入っているので、まだオリジナルのアニソンと言っていいだろう。その後、『めぞん一刻』(1986)の斉藤由貴による「悲しみよこんにちは」、『シティーハンター』(1987)のTM NETWORKによる「Get wild」、『YAWARA』(1989)の永井真理子による「ミラクル・ガール」(2期は今井美樹によるKAN作曲の「雨にキッスの花束を」)など、アニメ主題歌は少しずつアーティスト色が強くなっていく。

 レコード会社各社は、このタイアップ戦略をセールスの重要な要素の一つとし、『SLUM DUNK』(1993年)のBAADによる「君が好きだと叫びたい」、『るろうに剣心』(1997)のJUDY AND MARYによる「そばかす」、『GTO』(1999)のL’Arc〜en〜Cielによる「Driver's High」などを、続々音楽ランキング上位に食い込ませた。中でも、音楽制作会社ビーイングは『名探偵コナン』(1996〜)、『SLUM DUNK』、『ドラゴンボールGT』(1996)などで主題歌をヒットさせ、特に『名探偵コナン』では主題歌第3弾以降からZARD、B’z、倉木麻衣といった所属アーティストが主題歌を担当。この流れは今も続いている。さらに、各社がアニメソング専門のレーベルを設立するなど、音楽業界のセールス戦略の中でアニメソングが重要な位置を占めるようになっていく。事実、現在のランキング上位にアニメの主題歌がランクインすることは、もはや珍しくなくなっている。

原点回帰なるか、アニソン文化のこれからは?

  • 『マクロス7』では主人公のバンドFIRE BOMBER名義でCDをリリース

    『マクロス7』では主人公のバンドFIRE BOMBER名義でCDをリリース

 その他にも定着した“流れ”もある。出演する声優や、劇中に登場するキャラクター名義でリリースされる楽曲だ。『超時空要塞マクロス』(1982年)に登場する歌姫でありヒロイン、リン・ミンメイの歌う楽曲がCDリリースされるほか、『マクロス7』(1994年)では主人公・熱気バサラの所属するロックバンドFIRE BOMBER名義でCDをリリースし、主題歌も飾った。その後もアニメ・声優界の“神”と名高い水樹奈々の『魔法少女リリカルなのはA’s』(2005年)の「ETERNAL BLAZE」や、現在も『ラブライブ!』『アイドルマスター』をはじめとするアイドル系アニメなどでこの形は継続中。声優が作品のために作られた楽曲を歌い、世界観を楽しめるという意味ではアニソンの新しい形と言っていいだろう。

 しかしながら、歌詞やタイトルに作品名や関係する固有名詞が登場する楽曲、つまり誰がどう見てもそのアニメの楽曲だと分かるアニメソングという条件で考えると、近しいものはあっても正真正銘のオリジナルアニメソングは現代では希少と言える。その点、曲名や歌詞にしっかりと固有名詞が登場する『ポケットモンスター』、『プリキュア』シリーズ、『おそ松さん』あたりは、現代の“オリジナル”アニメソングと言えるだろう。これらはいずれも社会現象を起こすほどの人気タイトルであり、主題歌の存在もその影響力に一役買っているのは間違いない。

 そこにきて、アーティスト星野源による「ドラえもん」である。歌詞の中に“ドラえもん”がしっかり登場し、大サビではそれを3回繰り返すという昭和のアニソンの“お約束”もしっかり盛り込まれており、現代のアニソン文化へのアンチテーゼのようにも感じられる。とはいえ、勝手にドラえもんの固有名詞を使ったり、間奏に『ぼくドラえもん』のメロディーを盛り込むわけにもいかず、藤子プロの協力なくして星野源の「ドラえもん」は誕生しない。その点からも藤子プロ・小学館サイドの新作映画への意気込みや星野源への“期待”も十分に感じられる。『ドラえもん』のような超大作にオリジナルアニメソングが登場するということが、今後のアニメ主題歌に影響を与える可能性も高い。

 “名作アニメには名曲あり”。今後も人々の記憶に強く残り、語り継がれる正真正銘のオリジナルアニメソングが増えることを期待したい。

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